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3.I'll show you how strong 01

ローさん達を探す為にノーブルさんは、知り合いだという"この船で1番の情報通の男"に、すぐに伝電虫で連絡を取ってくれた。

この船で起きていることならなんでも知っているというその男に、ハートの海賊団の居場所を教えてもらうためだ。



少し特徴的な男性で、話も長くなると、オペラ座の関係者用の応接室で待っていて欲しいと指示され、有り難くその通りに従う。


応接室の椅子にかけて彼を待つ間、手持ち無沙汰に部屋を見渡した。目に入る調度品はロビー同様、どれも全て華やかで美しい。

細やかな刺繍を施された椅子や、大理石のテーブル、床に施された花柄のモチーフは見事で、場違いな場所に自分は居るなと内心縮こまりながらも、それらに魅入っているうちにあっという間に時間は過ぎていた。



「やあ、お待たせ。少し離れているところみたいだ。少し急ごう」




戻ってきたノーブルさんに案内された、街から少し外れたところに位置する酒場に、ハートの海賊団の一行はいた。



たった少しの間しか離れていないのに、もう懐かしいような気持ちになってしまう。
そんな自分を、感傷に浸っている場合じゃないと叱咤した。


船でお世話になりっぱなしだった私の話を果たして信じてもらえるだろうか。
それでも自分が得た情報を伝えたい。


万が一、彼らに疑われてしまった時、どうやって本当のことだと証明しようか。
先程私がしてもらったように、他の海賊たちの下船の一部始終を見て貰えば良いのかもしれない。けれど疑われた状態で、そんな提案をのんでくれるのだろうか。


不安な気持ちを抱えながらも、ローさん達にこの船から降りる為の条件を伝えたところ「成る程な」とすんなりと話を受け入れてもらってしまった。

下船のために1億ベリー払わないと、船を壊され人身売買にかけられる。しかし、貴族から自分たちの芸術性に評価を受ければ、段階に応じて金額が免除される。などと、かなり、突拍子もない話を伝えたと、思うんだけど。


「あの……、結構すんなりと信じて下さるんですね」
「お前が嘘つけるようなタマかよ」


ん?
今、バカにされた?

彼は自分の目で見たわけではないし、証拠もない話を黙って聞いて、信じてくれた。

疑われる覚悟をそれなりにしていた身としては意外だ、と強張っていた肩の力を抜いた拍子に、
当のローさんから幾分失礼な返答が返ってきて、唖然としてしまう。 

豆鉄砲を喰らったような気持ちの私を置いておいて、ローさんは腕を組んだ。


「ここはシャボンディ諸島の近く。
海賊船はログに従い、次の目的地になる魚人島へ行くためのコーティングを施す必要がある。
その前にこの船に海賊が乗船すれば、その出鼻を挫く様に、金を毟り取られちまう。

貴族のお遊びが一旦だろうが、海軍にとっても旨味のある条件だ。凡そ海軍からのバックアップもあるだろう」

「海軍本部も近いから海賊が暴れられる場所でもないしね」


冷静にローさんが推測を重ね、ペポちゃんが頷く。

確かに気づかなかったけど、海軍からしてもある程度、歓迎できる点が多い。

よしんば資金を集めて支払いをすることができたとしても、不足した資金でコーティングを疎かにする様な事があれば、その後の航海は無い。

支払いができなくて海賊船の船員が人買いに売りに出してしまったとしても、それは海軍が感知することではない。


潤沢な資金を持つ海賊団ならその後の航海に影響を与える事も少ないだろうが、たかが通行料として多額の資金を支払うのは癪だろう。



貴族としては、ただお遊びの一環として海賊を招き入れ、彼らのお眼鏡に叶えば良し、叶わぬのなら通行料を置いていけというだけのことなんだろうけれど。



「でもショウトが予め教えてくれて助かった。今から金策ができる」

ペンギンさんが私にジュースを一杯差し出しながらお礼を言ってくれた。 

酒場なのにジュースとは、随分と子ども扱いするのね。
内心ブスくれたけれど、丁度喉が渇いていた事もあり有り難く頂戴した。
ペンギンさんが、お。良い飲みっぷりだな、なんて言っているけど、ジュースだからそれもなんだかおかしい。



「その事なんですが、私にお任せ下さいませんか?」

もちろん、金策は同時にして頂いた方が安心かもされませんが。
ローさんに伝えると、彼はどういう事だと眉を寄せた。


「五つ星を取って来ます」


ローさんに向かって一歩踏み出し、胸に沸いた勇ましさを拳に固く握りしめる。
私の勢いに目の前の彼が、軽く目を見開いたことが見て取れた。


「しかし、もうお前は船を…」
「立つ鳥跡を濁さず、です。皆さんには治療以上に助けられました。今度は私が皆さんを助ける番です」


もう船は降りたんだろ、言い澱むシャチの言葉を遮る。ハートの海賊団の皆に受けた恩を返したい。
真っ直ぐにローさんの目を見続ける。


どうしてだろう。
身体がポカポカして、気分が高揚している気がする。
いつもより強気で、自分が持つ自信以上の言葉が胸から溢れて、口からこぼれた。

五つ星を取ることが、どれほど難しいことなのかわからない。
自分の踊りにどれ程の価値を見てもらえるのか分からないけれど、彼らの役に立ちたい。



そう思うのは、きっと、彼らとまだ少しでも一緒にいたいからだ。


この世界を見て回りたいと思えるほど、生きることに前向きになれたのは、他でもないハートの海賊団の皆の優しさに触れることができたから。


少しでも彼らの力になれるなら、自分のできる事を出し惜しみする時ではない。



「そりゃァ、楽しみだ」


見つめ返していたローさんの視線が瞬きと共に柔らかくなった時、彼は口角を上げながらそう返してくれた。

背伸びした提案を受け入れてもらえて良かったと責任感と共に息を吐いた刹那、背後から腕が伸びて来て私の肩に手を回してくる。


「話がまとまったみたいで良かったね。
君の出番は3日後だよ。それまで僕が君の力になるから」
「ノーブルさん!ちょっと、」

今まで静かに私の後ろで話を聞いてくれていたのに、何だって肩に手なんか回してくるんだろう。

ほら、知らない人が急に会話に入って来たらローさんだって目を細めて睨んでいるじゃない。


「僕の舞台に彼女を起用する。講演は3日後、つまり4日後には出航が出来るはずだけど、君たちの出航のタイミングに何か問題はある?」
「……いや、ねェな」


肩に回した手に力を入れて、私を軽く抱き寄せる姿勢でノーブルさんはローさんに対峙する。
ちょっと苦しいから手を離して欲しいと、ノーブルさんの肩に手で軽く突っ張ったけど意味をなさなかった。


「じゃあ、僕達はもう行こう。音合わせは少しでも長くしたい。……それに、ほら、ショウト。あまり長居すると彼らの邪魔になっちゃうよ」


ノーブルさんが私の顔の真横に、自身の顔を近づける。
碧眼につられて酒場を見渡せば、ローさん達に声をかけたそうにしている美しく着飾った女性達が此方をチラチラと見ている姿が目に映った。


私が酒場に駆け込んでローさんたちを捕まえて話し込んでしまっていたから、彼女たちは声をかけるタイミングを失ってしまったようだ。

いつ彼らとお近づきになろうかと、今か今かと様子を伺っているのだと嫌でも気づいてしまう。


酒場にいる彼女たちは貴族では無く、ステージに立つ芸事のプロなのだろう。
頬を染めてローさんを見やるその姿は、同じ女性であったとしても美しい人達ばかりだ。


ああ、そうか。

私がここにいた事自体が場違いだったかもしれない。そう頭の隅で理解した。



得た情報を役立てて欲しくてここに駆け込んでしまったが、ローさんたちの都合や立ち寄った周りの環境を考えるべきだった。


海賊であることを差し置けば、いくら仏頂面と言えどローさん程の格好良くて素敵な人を、彼が立ち寄った周囲の人たちが放っておくわけがない。

そして、彼自身もきっと美しい女性達の好意や欲を無闇に拒む様な人じゃないだろう。
だってローさんだって男、だし、私にさえ優しい人だから。


先程の湧き上がった勇気は風船の空気が抜けるみたいに萎んで、どこかへ霧散してしまった。




「……、そうですね。お邪魔しました」
「お楽しみの最中に、態々、教えて貰って悪かったな」


なんだか居たたまれなくなって、瞼を伏せて踵返す。
酒場の出口を目指す私の背中に、ローさんの咎める様な声色が刺さった。



お楽しみとは一体、どちら様の事を言っているんですか。



脳裏に浮かんだのは、背中に投げつけられたローさんの言葉を揶揄する、吐き捨てる様な言葉だった。


そもそも、一体どうして私がローさんに僅かながらも苛つくのだろう。
私と彼の間には、契約以外の何も存在していなかったはずなのに。

かぶりを振って、訳も分からない自分の心の動きを直ぐにねじ伏せた。



ハートの海賊団の皆の為に出来ることをしたい。

その気持ちは変わらないのだから、私はこの気持ちに従って行動すればいいだけの事なのに。

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