小説 | ナノ


1.For gentle thoughts and mild 01

「大変な事になりましたね」
「白ひげの船の二番隊隊長、火拳のエースの公開処刑か……戦争が起きるな」


ポーラータング号の船長室にて、ペンギンとシャチもおれと共に号外の新聞に目を通す。
シャボンディ諸島を脱出した際に、諸島内でばら撒かれていたものをクルーが手に入れてきたものだ。


記事にはシャボンディ諸島で公開処刑の中継をすると書かれているが、すぐにシャボンディ諸島に引き返すのは海軍の追跡と、クルーの士気を考えても危険だ。

どこかに一時身を寄せた方が賢明だろう。

さて、どうしたものか。



「キャプテン〜、浮上しても良い?俺、もう限界………」

ドアをノックして入ってきたのは、舌を出して至極暑そうにしているベポだった。
シャボンディ諸島を脱出してから丸一日潜水を続けている為、湿気の篭る環境が続いてしまった。暑がりのベポには堪えたのか、ついにおれに直談判に来たのだろう。
確かに頃合としても良い。
船内の換気の必要もある。

「潜望鏡で確認してからな」
「アイアーイ!」

潜望鏡で海上の安全を確認した後なら、潜水艦を浮上させても良いと伝えると、それを聞いたベポが嬉々とした表情でペンギンとシャチを連れて部屋を出て行った。


しばらくすると船長室に太陽の光が差し込み、海中より浮上したことを知らせる。


明るさを増した船内に、おれも外の空気を吸いたくなり甲板に出ることにした。
部屋に篭って考えているよりも何か光明が見えるかもしれない。そんなものはただの気分だが、航路を決めかねる今の状況を打破したかった。


甲板に出ると、強い日差しと穏やかな水平線が広がっていた。

白ひげとの直接対決に備え、シャボンディ周辺の警備が元々手薄だったことも手伝って海軍は上手く撒けたようだ。


ベポとペンギン、シャチは3人で両手を上に突き上げ海に向かって何か叫んでいる。
まァ、気持ちは分からなくもない。
潜水艦は敵から身を隠すには最適な反面、時に閉塞感を感じさせる。



白く光る波間を見ていると頭上から聞き慣れない奇妙な鳴き声が聞こえてきた。

鳴き声のした方向を見上げると、バサバサと羽音を鳴らしながら1羽の鳥が甲板上を旋回し欄干に降りたつ。

「ノースバードですね。女の子の。可愛いー!」

今しがた甲板に来たのか、後ろから羽根屋の明るい声が鳥の名前を呼んだ。
浮上した船に、ベポたち同様羽を伸ばしに来たのだろう。

彼女が言う通り可愛いかどうかはさて置き、ノースバードとは、確か北を向き続ける鳥だったと記憶している。
羅針盤替わりに利用できるため、昔の船乗りに重宝された鳥だ。


「ふふ、鶏冠がハートでこの船にぴったりですね」

おれの隣に並びながら、口元に手をあててニコニコと笑う羽根屋の様はなんとも平和だ。

「……ここの海域に生息している鳥じゃねェな」
「ええ、誰かに飼われているのかもしれません。何か持っていますよ」

欄干に立つノースバードの大きな嘴を撫でながら、羽根屋はある可能性を口にして鳥の足元を指差した。そこには細く折りたたんだ紙が縛り付けられている。

羽根屋がどうするか伺うような視線でこちらを見てきたので、軽く頷いて促した。


「こんにちは、ハートちゃん。コレ、頂いても宜しいですか?」

ノースバードに勝手な名前をつけながら羽根屋が脚に括り付けられた紙を手早く、それでいて丁寧に外す。ノースバードも意味を理解しているのか、自分の脚を羽根屋に差し出してじっとしていた。



「グラン・カルナバル号?」



細く折りたたまれた紙を開けると、大きな見出しに絢爛豪華な、まるで島とも言える程の大きな船が描かれていた。

いつの間にかおれの周りに集まっていたベポとペンギン、シャチもチラシを覗き込んで、その見出しに描かれた船の名前を読み上げる。

ジョ〜〜〜!

その船の名前に反応したのか、ノースバードは嬉しそうに翼を広げて変わらぬ奇妙な声を上げた。

「ハートちゃんはここから来たの?」

もう名前はそれで決定らしい。
安直な名前にガッカリもするが、当の本人たちは気にしていない様なので、この際放っておく。


「豪華な巨大客船だな」
「うわー!すげぇ。見ろよ、サーカスにオペラ、歌に踊り…面白そうな船だなー!」
「おれ行ってみたい!!」


ペンギンはチラシに載るその船の大きさに驚愕し、シャチは彩る文言に目を輝かせる。ベポに至っては興味津々にチラシに釘付けになっていた。三者三様にグラン・カルナバル号のチラシに夢中になっている。



「行くか」

どちらにせよ、このまま闇雲に海上を漂うわけにもいかない。どこかに2、3日潜伏できればクルーの士気も上がるだろう。

「やったー!!キャプテン太っ腹ー!!」
「ハートちゃん、案内してくれるの?」

羽根屋の上着を啄いて何か伝えたげなノースバードの意図を汲み取り、彼女が声をかけると鳥は頷いて返事をし、胸を張りながら左の翼を広げた。
随分と賢い鳥らしい。


「ここから西へ向かえということか…」
「楽しみですね」

常に北を向き続けるノースバードの左翼側は西を指す。
俺も羽根屋もノースバードが指す西の水平線に向かってまだ見ぬグラン・カルナバル号に思いを巡らせた。

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