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変わらない想い

「男同士の恋なんておかしい!」

アイスの聴覚機能が聞き取った言葉は、ここに遊びに来ていたらしい少年のものだった。
研究所からさほど遠くないここ、公園。
アイスのかけがえのない存在であるタイムと散歩――デートといっても過言ではない――をしていた時、その言葉を聞き取った。
突然の言葉にアイスは驚いたが、何も言わず、穏やかな表情のまま少年の言葉を聞いていた。

「恋なんて…男と女がするものなんだろ!」

少年がどこか悲しげな表情でアイスに言葉を放つ。
そんな少年の表情をアイスは見逃さなかった。
そんな時、両手にE缶を持ったタイムが走り寄ってきた。
近くの自販機に売られていたE缶を買いに一時離れていたのだ。

「…おい、オマエ」

少年の言葉を聞いたらしい、タイムは口を開いた。
しかしそれを止めるようにアイスがタイムの腕を掴む。
そうしてタイムを見て、顔を横に振る。
少年は怯えた表情を見せたかと思うと、そそくさと走り去ってしまった。
その背中を見つめる二体の少年ロボット。
少年が見えなくなると、タイムが再び口を開いた。

「……男同士の恋はおかしい。そう言われたんだろ」

アイスは視線を少年が走り去った方向へと向けたまま頷いた。
目を伏せ、そんなアイスを見つめるタイム。
世間に認識は徐々に出てきた、男性同士の恋愛。
しかし、中々受け入れられない者がいる事は事実だった。
二体はそれをわかっている。
しかし、今日のように、面と向かって言われたのは初めての事だった。

「……そう思う方がいるのは、わかっているのであります」
「…アイス」
「……でも」

視線をタイムへと移し、先程以上に穏やかな表情を見せて、アイスは続く言葉を声に出した。

「周りの方がどう言おうと…わたくしのこの気持ちは、変わらないのであります」
「……!」
「タイム、様」

アイスは、笑って見せた。
そんなアイスを目を伏せて見つめるタイム。
言葉が出なかった。

「…ごめんなさいであります…好きに…なってしまって…」

それと同時に、アイスのアイカメラから流れる一筋の涙。
たまらなくなって、タイムはアイスを強く抱きしめた。
壊れてしまうのではないかと不安になるくらい、力を込めて。
そうして、同じようにタイムのアイカメラから流れる涙。
周りに人が居ようと、今のタイムにはどうでもいいことだった。

「…なんで、謝る…」
「……タイム様に、ご迷惑をおかけして、しまって」
「……バカ」

タイムの背中に回されるアイスの両手。
タイムも、アイスと同じ気持ちだった。
アイスに負担をかけてしまっているのではないかと、タイムは不安に思っていた。
けれど、アイスが好きで、たまらなく好きで。
アイスも同じように思っていたと知ると、タイムはどこがで安堵のようなものを感じていた。
好きならそれでいいのではないか、性別などどうでも良いのではないか、そう思ってきた。
父親のような存在であるライトに、好きになることは素晴らしい事だとの言葉も貰った。
今この瞬間、改めてタイムは思った――永遠の時をアイスと過ごしたい、と。

「…アイス」
「は、い…?」
「……アイ…してる」
「タイム、様…」
「…ボクも、だ。何て言われようと、オマエを…」

離れ、流れるアイスの涙を右手で拭いながらそう言ったタイム。
アイスは先程とは違う意味で、もう一度涙を流した。

「タイム様…わたくしも、愛しているであります…」
「アイス…」

流し、そう口にした。
悲しみを全く含めていない、喜びと幸せに満ちた表情で。
そんなアイスにタイムは口付けたかった。
しかし、場所が場所、周りにはたくさんの人やロボットがいるためそうもいかない。

「……予定変更だ」
「え…?」
「行くぞ」
「は、はい…!」

研究所へと帰るはずの予定を変更すると、体を向けた先は時計塔がある方向。
二体のお気に入りの場所。
人気の少ない時間帯に辿り着き、そこで二体が幸福の時を過ごした事は言うまでもない。

***

男同士の恋について言われてしまうって言うお話が浮かんだので…。
どう言われようと気持ちは変わらない二人の強い愛って感じが書きたかったんです。
アイスに男同士の恋なんて…って言った少年も実は…。 2015/1/20
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