ONE
「侑士、部活行こうぜ」
目に飛び込んできた忙しなく動き回る赤い頭に思わず笑みが溢れた。いつもならカバン片手に一緒に部室に向かうのだが今日は違う。
「堪忍なぁ、岳人。ちょっと先生に呼ばれとるんや」
岳人の頭をぐしゃぐしゃと撫でてやると唇を尖らせながら頭をふるふると振った。
「クソクソ侑士! 子供扱いすんなよ! 先行くな!」
半ば怒ったように教室を飛び出していった岳人を笑顔で見送ると、ひとつ溜め息が漏れる。
教科書が半分ほど詰まったカバンを持ち上げると生徒指導室に一人向かった。
「失礼しました」
生徒指導室から出て時計を見るとすでに30分以上たっていた。
急がな岳人に怒られるなぁ。
歩調を速めると頭の中も同じように速く動くようだ。
思い出したくないことまで頭の中を回っていく。
『高校は――』
『これから――』
『大阪に――』
分かっていた。自分には期限があることも、我が儘も言えないことも。
すでに木々の葉が散り始めた9月の終わり。
俺は大阪に帰ることを決意した。