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月が陰りあたりは真っ暗だといえる夜、私は一人廊下を歩いていた。
任務帰り。ケガは一つもない。

私はくのたま上級生なのに、
それでも、どうしても人の血を見ることに、
殺すことにはなれてくれない。

気持ち悪くなって、
たまたま近くにあった埃の立っている部屋に倒れこむように入る。

近くにあった蝋燭に火をつけて寝転がる。
目のピントがなかなかあわない。
蝋燭が近くなったり、遠くなったりする。
こんなに私の目は乱視だっただろうか?

「あれ?人?」

「・・・忍たまの善法寺先輩か。すみません、迷い込んだみたいです」

「あ、くのたまの子?」

「はい、五年生の苗字名前といいます」

「どうして倒れこんでたの、気分悪い?」

「大丈夫ですよ。血の匂いに酔っただけです」

「血・・・?もしかして任務帰りとか?」

「はい。なれないといけないんでしょうが・・・
・・・どうしても慣れなくて」

「それは、わかるよ。
私だって保健委員だから血を多く見てる。
それに、上級生になってからたくさんの人を殺した。
けれど、慣れないんだ。
でも、私はいいと思ってる。むしろ慣れたらいけないと思うんだ」

「・・・なぜ」

「慣れてしまったら、その人は優しさを一つ。忘れてしまうと思うんだ」

「・・・優しさ」

「そう、優しさ。
私はね、優しさには色々な種類があって人は最初全部持っていて、
その人によっていろいろな優しさを忘れて、思い出すんだと思うんだ。

君は、血に慣れない。殺すことにもなれていないいんだろう?
それなら人を尊ぶ優しさを持ち続けていられるんだ。

君は優しい」

私の中で堰きとめられていたはずの何かが、溢れだす。
それは、涙で。嗚咽が止まらない。

「今だけ、今だけでいい。
存分に泣いていいよ。だから、
朝になったら必ず笑って?」

「・・・は、い・・・」

涙でぼやける視界の片隅に蝶がうつる。

それは、おだやかに、ひらり、ふわり、と
善法寺先輩肩に一度止まって羽を広げる。

「・・・きれ、い」


善法寺先輩は、とても温かかった。

朝になると、善法寺先輩はくのたま長屋まで、送ってくれた。
怪我をたくさんしながらだけど。

それからはあまり会うこともなくなって、忘れてしまった。





「名前!」

くのたまの先輩の声がエコーして響く。
熱い、熱い。腹部と右足に違和感を感じる。
触ってみて全てわかった。

ぬるぬるした液体、私の大嫌いな臭い。

撃たれた。

敵がどこかに潜み私を狙ったのだろう。


「しっかりしなさい!」

無理です、先輩。意識が朦朧としてます。
ふと、脳裏に善法寺先輩が浮かぶ。

・・・なんで?なんで、善法寺先輩を思い出すんだろう。

優しい顔した、善法寺先輩。
怒った顔した、善法寺先輩。
困った顔した、善法寺先輩。
悲しい顔した、善法寺先輩。

笑った顔した、善法寺先輩。

私の頭は善法寺先輩で埋め尽くされる。
あぁ、そうか。



私、善法寺先輩が、好きなんだ。



でも、今更遅い。
瞼が自然とおろされていく。
どうせ、どうせ死ぬなら。

"私を忘れてください"















光が入り込んでくる。その眩しさに自然と目を開けた。

「・・・善法寺・・・先輩?」

「名前ちゃん!」

私、生きてる。生き延びてる。
先輩泣きそうな顔してる。どうして?

「よかった・・・。名前ちゃんが生きてて、よかった」

「・・・私、どうして・・・」

「新野先輩が助けてくださったんだよ。

・・・・でも・・・・」

「何か・・・?」



「・・・・もう、忍びは無理かもしれない」



やっぱり。どこかでそう思った。
足がやられてたし、しょうがないかもしれない。

「そう、で、すか・・・」

「・・・どうして我慢するの、泣いて!
もう、忍びになれないんだよ!?今までやってきたことがなくなったんだよ!?
名前ちゃんは悔しくないの!?」


・・・善法寺先輩。
そうかすれた声で発した私を抱きしめる。
あったかい。すごく、あったかい。

「く、やしい、で、す。すっご、く。
それ、で、も、生き、られたこ、とが、すご、く嬉し、い」

ちょっとでいいので眠らせてください。
先輩を一人占めさせてください。
もう、卒業も近いんです。これが最後のわがままです。

雪、かな?窓からみえる。

涙が、流れて、重なって。

私の思いもこのまま消し去ってください。
そして、先輩の記憶からも消し去ってください。


"大好き、先輩"






「伊作先輩!絶対また学園に来てくださいね!」

「わかってるよ、乱太郎。ちゃんとくるから」

「卒業なんてスーリールー。粉もんさんも一緒に!」

「はいはい、伏木蔵。たまたま会ったらね!」

「先輩、今まで、ありがとうございました!」

「左近、言えるじゃないか。こちらこそありがとう」

「ちゃんと保健委員の委員長は継いでみせます!」

「頑張ってね、数馬。様子、見に来るから」

「「「「伊作先輩、大好きです!」」」」

「私も、君たちが、大、好き、だよ」

「わぁ!泣かないでください!」



いいな、私も最後にお別れを言いたかった。
旅立っていく先輩に口から声が出ない。

優しい気持ちを教えてくれた。
切ない気持ちを教えてくれた。
恋する気持ちを教えてくれた。
先輩の言葉はすっごく大切でした。
絶対に忘れません。

先輩、大好きです。さようなら。
また、いつか会えたら嬉しいです。






「名前、あの人よろしくね」

「はい!

本日はどのような要件で着物を買いに来たんですか?」


私は、あの後忍術学園を辞め、足をなるべく使わない仕事を探し、
とある城下の着物屋で働いていた。

よくよく観察してみると、
ここの着物は古着から上質なものまで全て揃っているようで、
今まで働いた中でかなりの忍びたちが使っていることに気付いた。

そして、目の前にいる笠で顔を隠した客も忍び。
私の推測からしてなって少しの下忍だろう。

「女房の着物が必要になってね。買いに来たんだ」

これは、変声の術だろうか。
きっと女装用の着物を買いに来たんだろう。
背格好がどこか善法寺先輩に似ている気がした。

「そうなんですか。こちらはどうでしょうか?
立派に見えしっかりしています。そで口は姫がきているような上品質の着物に見え
脱ぎ着もしやすくなっておりますよ」

「へぇ、よさそうだね」

忍びの方たちには忍びに適した着物を。脱ぎ着がしやすく上品に見えるもの。
大抵忍びこむのは金持ちの家か城なのでこういう仕様はむいているのだ。
そして、安く。売れっ子ならまだしもなってすぐは仕事がないのが普通だ。
ある意味ここは忍びが来るのに適しているのだろう。

「お値段もお安くなっていますしお手頃だと思いますよ」

「じゃあ、それをいただこうかな」

「ありがとうございます」

お会計をすまして包む。この間は世間話タイムだ。

「奥様、どうかなさったんですか?」

「あぁ、病気になってしまってね。旅の途中なんだ。
だからこの町に三日四日滞在していてね。
私は男だから洗濯はあまり得意ではなくてね。服を買いにきたというわけだ」

「旅、ですか?」

「あぁ、京のほうに。ついでに人探しも」

「人探し・・・大変ですねぇ。どのようなお人で?」

「とても綺麗で、可愛くて。黒髪がサラサラしてて頭もよくて。
なのに気取ってなくて。優しさを忘れないすごくいい子で、」

"君は優しい"
そういった善法寺先輩の声が蘇る。ふと前にいる客をみた。

「今も、誰にも見劣りしない姿で赤のかんざしがよく似合う女の子。
いつもがんばってて足を怪我したけどそれでも生きようとして頑張ってる子」

え、え、それって。いや、そんなはずは。

「久しぶり、名前ちゃん。

突然だけど僕と結婚してくれませんか」

「・・・・・え」

「ずっと君が好きで、好きで。
それなのに卒業するまでに言えなくて。
仕事が落ち着いたから忍術学園にいってみたらもう君はいなくて。
それで、君の友達からここを聞いて。

幸せにできるか、わからないけど僕と結婚してください」

ずるいです、先輩。そんなこと言われたら断れないですよ。
今になって来るなんて。忘れてしまったんじゃないかと思いましたよ。
本当にずるい先輩です。答えなんて了承に決まってるじゃないですか。
それにいきなり結婚だなんて。私を嬉しさで殺す気ですか。

「善法寺先輩。愛してます。私と結婚してください」

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