僕は、自分のあることを全否定している人間だった。
僕は、ある年下の子に恋をしてしまい囚われていた。
僕は、その子は自分のものだけだと錯覚していた。
僕は、その子の好きな人を殺してしまう醜いものだった。
僕は、僕は、僕は、僕は、僕は、僕は。僕は。
僕は、その人の前で、その人に名を叫ばれながら、
。
「ねぇ、名前先輩。どうやったらこの滑らかさがだせるんでしょうか?」
「そこはな、ここにこう線を足してあげるといいよ。
実際になくてもあると錯覚させることが出来る」
「へーなるほど・・・。じゃあここもこう足せばいいってことですか?」
「そうだよ。やっぱり飲み込みが早いね、乱太郎」
「へへ、ありがとうございます」
忍術学園の庭に生えるたくさんの木のうちの一つの下に、僕と乱太郎はいる。
僕は昔から絵を描くのが大好きで得意だった。
今すぐ忍者の修行をやめ、絵で食えることが出来る、と自画自賛できるくらいに。
しかし、僕をこの学園に引き止めるものがあった。
それが、今僕が絵の描き方を教えている乱太郎だ。
僕は、恥ずかしいことにこの子に恋をしていた。
入学式に彼の描く絵に、姿に、
見惚れてから、自然に彼を目で追うようになっていた。
この気持ちは未だに誰にもバレたことがない。
もとから僕にはあまり友達とよべるような存在も少なかったので当たり前かもしれない。
周りからの評判は仲がいい絵描きコンビと言われるぐらいには、
有名だった。善法寺先輩に勝ったという優越感がある。
僕は、幸せだった。
乱太郎を幸せにできるものは僕だけだったと錯覚していた。
・・・昨日までは。
昨日、乱太郎と別れたあとにやってきた女を同じ組の久々知が受け止めた。
関係ないって思ってた。
でも、未来からきたという女は、僕の知っている女だった。
その日の夜、とてつもない吐き気がした。
「先輩、知ってます?昨日天女様が来たんです!」
「知ってるよ。未来から来たなんてすごいよね」
「そうですね!それで私、
天女様を描いてみたんです!どうでしょうか?」
「・・・ああ、うまくかけてるよ」
「よかった!天女様に見せてきます。先輩、それじゃ!」
どうやら、あの女は天女と呼ばれているらしい。意味がわからない。
あんな気持ち悪い汚物を讃える必要がどこにあるのか。
乱太郎の絵は、確かにうまい。だけど、今回ばかりはそうは見えなかった。
でもそんなこと言えない。
いや、もうそんなことはどうでもいい。
僕は気づいてしまった。気づかなければ幸せだったかもしれないのに。
僕の中の卑しく汚い感情が心を支配していく感じがした。
乱太郎があの女を好きだなんて。
やだ、やだやだやだやだ!許さない許さない!
殺す殺す殺す殺す殺す!
彼は僕だけのものであって、誰にも手なんて出させない!
「ねぇ、天女様。なんで君を僕が殺そうとしてるか知ってる?
そうだよね、知らないよね。
・・・っていうか、僕のこと覚えてる?
覚えてないのか・・・残念だなぁ。
容姿も前とは違うからしょうがないよね。
僕、苗字名前っていいます。
君がトリップしてくる前の世界で君の彼氏だった男だよ。
はは、なにその驚愕してる顔。信じられないって?
じゃあ何をしたら君は信じてくれるのかな。
あぁ、そうだ。僕が君のせいで死んだ時に最後に言った言葉でも言おうか」
「 」
事切れた女を放置して学園に戻る。
よくよく冷静になってみればこんなことをしたら僕はお咎めをくらってしまう。
それもいいかもしれない。
殺して気がついたこと。僕って、醜い。
ちょっと前に僕が思ったこと覚えてる?
彼は僕だけのものであって、誰にも手なんて出させない!
だよ?こんなの愛じゃない・・・よね。
僕だって束縛されることは嫌いなのに。
それに僕は、男だし。
なんで男なんだろう?彼は純粋で男色でもなんでもないのに。
女に生まれたかった。
男、男、男。僕に縛りつく鎖となる言葉。
いや、そんなことももうすぐ終わりか。
きっと六年生達が殺してくれるよね。
僕を、じゃないよ?
それは・・・・「あ、名前先輩!」
嬉しいな、乱太郎の声が最後に聞けて。
じゃあ、善法寺先輩。あとはよろしくお願いします。
乱太郎にケガなんてさせないでくださいね?
僕の後をつけてきた忍装束の男は僕の心臓を綺麗に刀で突き刺しました。
おしまい。