追記

「三郎、どうしたのさ」

「・・・何でもない」

最近、三郎の様子がおかしい。目を合わせてくれない。
何かに怯えているような。たとえば、僕に。

「何かあるんだったらいいなよ。ほら、授業始まるよ」

「・・・あぁ」

授業中も三郎は虚ろな感じで何も聞いていない。
先生の話も、僕の話も、全てを拒絶するかのように。
どうして、あんな眼をするのかわからない。でも、深く聞けない。
めったに本心をみせない、三郎の心を無断で踏み荒らすようなことをしたらきっと嫌われてしまうだろう。それだけは嫌だ。

「じゃあ、三郎。今日委員会あるから。多分遅くなるし先に夕飯食べてていいからね」

「・・・わかった」

どこか、上の空。あんな三郎を見るのは初めてで放っておけない。けれど委員会を優先しないといけない。上級生が一人休むだけで作業具合が大幅に進まなくなってしまう。

「中在家先輩、今日は何を?」

「虫に食われた本を直す」

今となっては聞きなれて普通の音量で聞こえる中在家先輩の声。
三郎の声程ではないけれど聞いていると安心する。

「わかりました。僕はあっちの列をします」

一つずつ虫に食われたあとを直していく。
文章を食っているところは本の内容を思い出して直さなければならない。本は好きだけれど中在家先輩程読まないからわからないところだって一杯ある。来年が不安で仕方がない。そんな風に色々考えているといつの間にか最後の本を手に取っていた。

この本は、知っている。
まだ恋仲にはなっていないけれどそういう雰囲気の二人が主人公で、男のほうが女が違う人に恋している。と勘違いして一人悩む話。最終的には女が笑って男に説明し、女からの告白で恋仲になる。といったものだったはず。

「よし、終了。

中在家先輩、終わりました」

「わかった。今日はここまでにしよう」

「はい」

さぁ、早く三郎のところへいかなくちゃ。


side 三郎

「委員会があるから」

そういって雷蔵はいってしまった。
私の愛しい雷蔵がいなくなってしまった。
とたんに不安が私を襲う。

「あぁ、どうして」

こうも、うまくいかないのか。
私は雷蔵を好いている。性的な意味で。
しかし私の推測だが、雷蔵は中在家先輩が好きなんだと思う。

よく、笑っているし。時折安心したような表情をする。

もし雷蔵が付き合って、私から離れたら。

そう思うと怖くなる。私の、私の、雷蔵が。自分の隣にいなくなる。
それは、どんなことより辛い。嫌だ、離れたくない。
授業なんて聞いている場合じゃない。どうにかして、どうにかして。

「三郎、委員会終わったよ」

「・・・雷蔵」

どうしてそんな悲しい顔をするんだ。笑って、笑ってくれ。お願いだ。

「雷蔵、お願いだ。私から」


side 雷蔵

離れないでくれ。

いきなりそう言われた。はっきりいって意味がわからない。
そんなこといわなくても一緒にいるのに。
できれば、一生一緒にいたいぐらいなのに。

「私と、一緒にいてくれ。違う人のところにいかないでくれ」

何を言っているのか、わからない。
そこで、なぜかふとあの本を思い出した。

─男のほうが女が違う人に恋している。と勘違い─

あ、そうなのかも。でも、三郎って僕のこと好きなのかな。
もし嫌いだったらどうしようか。でも、言う価値はあるよね。

「ねぇ、三郎。僕のこと、好き?」

「そ、んなの!大好きに決まっているだろう!?」

「・・・・本当に?」

「私が雷蔵に嘘をつくと思っているのか?」

「・・・・聞いて、三郎。それ、三郎の勘違いだと思うんだ。
僕は、三郎と一緒にいたいよ?できればずっと。僕、三郎のこと愛してるよ?」

「え・・・」

「ねぇ、三郎。僕と付き合ってくれませんか?」

物語と同じ、ハッピーエンド。
晴れて僕らは恋人になりました。

おしまい。

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