二十
拍手が疎らに鳴り止むと、興奮した様子で千瀬がすっくと立ち上がった。
『母上!千瀬も三味線を上手に弾けるようになりとうございます!』
すると呼応するように千賀も両手を挙げ、
『千賀も!ナマエ様から三味線を習いとうございます!』
と叫んだ。
どうやら今の演奏が彼女等の心を掴んだらしい。
ミョウジは、まあ、と言い、ナマエは声を上げて笑った。
子どもの羨望の的となる事が大人にとって嬉しくない訳がない。
ナマエは笑顔のまま大きく頷いた。
『ようございますよ!私で良いのなら、喜んで!』
『『やったあ!』』
ナマエの返答に彼女等は飛び跳ねて喜んだ。
『こちらとしては凄く有難いのだけど、…お願いしてしまって大丈夫なの?』
お座りなさい、と娘達を窘(たしな)めてからミョウジが気遣わしげに問うた。
『勿論よ!風間家の御息女方に教授出来るだなんて、とっても光栄な事だわ』
と、ナマエが言うと、いつの間に起きていたのか、陽が小走りに寄ってきてナマエの陰に隠れ、背中にへばりついた。
『あら、お前いつの間に起きてたの?』
『…』
ナマエが顔を反らせて息子に話しかけるが、彼は顔を埋めたまま応じなかった。
『ほら、母様にくっついてないでご挨拶なさい。
初めての人に会ったら何て言うんだっけ?』
背中から息子を引っ剥(ひっぺ)がし、ミョウジ達の前へと押しやる。
初めての知らない鬼達を前に恥ずかしくなったのか、陽は親指を齧りながら今度は半分だけ母の後ろに隠れた。
『…はじめまして』
上目遣いにミョウジ達を見ながら、彼は絞り出した声で挨拶をした。
三つ子は興味津津といった様子で自分達より年下の子鬼を見つめ、ミョウジは優しく目を細めて応えた。
『お名前は?』
ゆっくりの口調で尋ねると、
『…しらぬいよう』
という返事があった。
『不知火陽です、でしょ』
ナマエが息子の頭に手の平を乗せ、苦笑していった。
『ごめんなさいね、こんなに恥ずかしがりだとは思わなかった』
『ううん、平気よ。…陽君きちんとご挨拶出来て偉かったね』
少し前傾してミョウジが話しかけると、陽は身体をくねらせながら照れ笑いをした。
ナマエが、変な踊りしないの、と言って彼の頭を小突くと、三つ子が愉快そうに笑った。
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