二十二

味は如何ですか、とか、旨い、などと言う位で、あまり会話のない割と静かな夕餉であったが、沈黙が苦しくない、和やかな食事を摂った。

口を動かしながら千歳をちらと見ると、千賀が彼を見るより前に彼はこちらを見ていた。
どちらも、自然と目元が柔らかくなる。
会話はなくとも、目が合うだけで得も言われぬ暖かな気持ちが胸に満ちた。

夜も更けて就寝の頃になると、千歳は土方に、千賀は千鶴に従って別々の部屋に布団を敷いた。
祝言を挙げて正式に夫婦(めおと)になるのは明日。
今日までは婚前の身であるため、一応寝床を分けたのだ。

冬の蝦夷の夜は、鬼である千賀の身にも堪える程厳しい冷え込みであったが、千鶴が用意してくれた行火がそれを和らげた。
布団に入ったばかりの時は布団の冷たさに身体が冷えたが、じきに行火の熱がじんわりと全身に巡り、温かさを覚えた。

千賀を気遣ってか、千鶴が色々と話をしてくれている。
足元から伝わる心地よい熱と、耳から染み入る優しい声。
長旅の疲れも手伝って、千賀は千鶴の問いに返事が出来ないことを申し訳なく思いながらことんと眠りに落ちた。



翌朝。
千賀が目覚めると隣にいたはずの千鶴がいなかった。
布団は既に上げられており、部屋の隅に積まれている。
自分は随分寝過ごしたのだと思い、千賀は頭から血の気が引くのを感じた。

ぐっすり寝入っている自分を、千鶴様は寝かせておいて下さったのだ。
その気遣いに深謝し、千賀は急いで腰紐を解いた。

手早く身支度を整えて小走りに勝手場に向かうと、千鶴が丁度朝餉の準備を終えたところだった。
土下座する勢いで頭を下げる千賀を大丈夫だからと言って宥め、千鶴は、明日から宜しく頼むと言った。

外が一面の白雪のせいなのか、屋内に入ってくる光が風間の里のものよりも清らかで明るく感じる。
空気中を舞う細かな埃が、光を受けてきらきらと輝くのを見ながら黙々と箸を動かす。

その時だった。
千賀は鋭く背筋を伸ばして遠くを窺う顔付きになった。
その顔に疑念が有り有りと浮かんでいる。
只事ではないその雰囲気に、千歳も微かに顔を硬くして食事の手を止めた。

無意識に感知出来る範囲内に何者かの気配が現れた。
結構な速さでこの家に近付いている。

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