十一

移動の最中に降り始めた雨は、瞬く間に勢いを増して豪雨となった。

遠くにいた雷神は、今や里の真上に鎮座しているようで、頻りに稲妻を空に描き、雷鳴を轟かせていた。

濡れ鼠になりながらも何とかナマエの家に辿り着くと、いつものように窓は開け放されておらず、雨戸を閉じ切って沈黙しているように見えた。

堅く閉ざされた戸口の扉を二三度叩く。
返事が無い。
不知火は声を張り上げた。

『おいナマエ!俺だ!
中にいるんだろ!?返事しろ!
ナマエ!』

全身から水を滴らせながら辛抱強く呼び掛ける。
そして数度目かに声を張ろうと息を吸い込んだ時、中で閂が外される音がして扉が開き、勢い良く布の塊が飛び掛かって来た。

『うわっ!?』

それは布団を被ったナマエであった。
ナマエは不知火が濡れているのも構わずに、布団を被ったまま彼の胸にしがみついたのだ。

雷がよほど恐ろしいらしく、口も利かずにただ身体を小刻みに震わせている。

不知火はそんな彼女を布団ごと抱き締めてやろうとしたが、すぐにその手を止めた。

『…とりあえず中に入ろうぜ。此処じゃ駄目だ』

ナマエの肩辺りに両手を添えて柔らかく押し返す。
布団の中のナマエの頭が頷いたのが解り、不知火は中に入って扉を閉めた。

流石に屋内は外ほど音がしないが、それでも猛々しい雷鳴はよく聞こえる。
ナマエが怯えないよう布団から手を離さずに家の中に上がると、そのまま板の間まで行き、囲炉裏の前に彼女を座らせた。

『悪ィけど、手拭いと親父さんの浴衣借りるぞ。
頭っから何から、全部濡れちまってんだ』

だいぶ落ち着いたらしく、ナマエは、解りました、と声を発してそれに答えた。

ちょっと待っとけよ、とナマエの頭を軽く撫でて立ち上がり、不知火は許可も無しに箪笥を勝手に開けた。
何度もナマエのもとへ通う内に、何処に何があるかを把握してしまったのだ。
ナマエもまた、それを咎めるような事を言うつもりはなく、当たり前の事の様に思っていた。

布団にくるまって微動だにしないナマエの真横で服を全て脱ぎ、衣紋掛に掛け、濡れた髪や身体を拭った。
そして手早く浴衣を纏うと、ナマエの目の前に腰を下ろし、胡座を掻いた。
顔を見ようと首を傾げて覗き込んだ、

その時。

『!!!』

何処かに落ちたのではないかという位一際大きな音がして、怯えたナマエが不知火に抱き付いた。
彼は今度こそ布団ごとナマエを抱き締めてやり、恐怖から守る様に腕にそっと力を込めた。

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