妄想 | ナノ


:: 世界はこんなにも




今日は花火大会
杉田さんたちに子供たちを預けて、私たち夫婦は久しぶりに二人でデートをすることにした。
 
「奏と翔いい子にしてるかしら、」
「杉田たちが見てるから大丈夫だよ、それより」
「?」
「浴衣、似合ってるよ」
 
私の浴衣は黒地に紅い華柄の華やかな浴衣
悠一さんは無地の深緑の浴衣を身に纏っている
 
「悠一さんの方が素敵ですよ?悠一さんが他の女性(ひと)に盗られないか心配です…」
 
呟くように言うと悠一さんはクスリと笑って
 
「侑季以外興味ないよ」

と肩を引き寄せ私の耳元で囁いた
 
暫く悠一さんと肩を並べて歩いていると、
 
「あ…侑季、ちょっと待っててもらえるか?」
目線の先には悠一さんの先輩声優さん
見つけてしまった以上後輩としては挨拶しなければと考えたらしい
きっと一般人の私には解らない先輩後輩の関係があるんだろうな
 
「はい、大丈夫ですよ」
「すぐ戻るから、ごめんな」
「行ってらっしゃい」
 
慣れない浴衣で動きにくいらしく少しぎこちなく走る悠一さんの背中を見送り、私は何を食べようか悩んでいた時
 
「ねね、オネーサン一人?」
「へ、?」
 
明らかにナンパ目当ての軽薄そうなめんどくさい人に絡まれてしまった

「俺も一人なんだけどオネーサンが良かったら一緒に回らない?」
「わ、たし連れがいるので」
「あ、彼氏とか?でも彼女一人にする彼氏なんか最低だよーだから、さ俺にしない?」
「結構です」
「でもさー」
 
めんどくさいから悠一さんの所に走って逃げようかなと悠一さんの方に目をやると
 
「あ、」
 
先輩女性声優さんに囲まれる悠一さんの姿
私だって馬鹿じゃない
先輩後輩の関係が大切なのも解る
でも、やっぱり
 
「(悔しい)」
 
すると腕に力強い感触
 
「やっ」
 
そこでさっきのナンパ野郎が私の腕を掴まれていることに気付いた
叫ぼうとしても声が出ない、どうしようどうしようとパニックになっていると
 
「俺の女に触んな」
 
後ろから低い声
いつ気付いたのか悠一さんが後ろに立っていて私を奪うように半ば無理矢理抱き締めた
 
「っ、ち…」
悠一さんの迫力に怖じけづいたのかナンパ野郎は私の腕を離し私たちから離れていった

「あ…悠一さん」
「ごめん、一人にしてごめん」
後ろから感じる悠一さんの体温
慌てて走ってきたのか少し熱い
 
「俺、ああもう本当にごめんなさい」
必死に謝ってくる悠一さんが可愛くて怒る気なんか全く無かったけど許してあげないフリをした
「侑季、ごめんなさい」
「ふふ、じゃあ一つだけ我が侭聞いてくださいな」
「!何でも聞く、というか一つだけじゃなくても」
「贅沢は駄目、です♪悠一さんと二人で居られるだけで幸せで怖いんですから」
「なっ//」
「うふふ」
「な、何でも聞くぞ!///」
「二人きりで花火が見たいです」
「じゃあ、行くか」
 
慣れたように自然と繋がれる手
 
「はいっ!」
 
普段より歩幅が小さい私に合わせてくれる優しい旦那さん
やっぱりこの人だけは誰にも渡せないなーと幸せを噛み締めた
 
「ここら辺なら見えるかな」
「早く見たいですね」
「楽しそうだな」
「久しぶりのデートですからね///」
 
薄暗い階段に腰を掛け、手を離さずに寄り添っていた
 
「…」
「…」
 
話すことが無くなってしまったのか沈黙が続くが何故か居心地が良いのは悠一さんだからなのか、夏の雰囲気のせいなのか今の私にはどうでもいいことだった

「侑季、」
「ふぇ」
 
呼ばれて振り向くと悠一さんは少し熱を帯びた目で私を見つめてくる
私もその目に見とれてしまう
すると悠一さんはだんだんと距離を詰めてくる
自然と目を閉じて悠一さんの熱いくらいの息と視線を感じ、微かに唇が触れた時
 




20110818/09:15


mae :: tsugi


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