Episode2:カムフラージュ





木内先輩と関係を持つようになり一ヶ月が経った。
未だに奇怪な抱き方は変わっていない。
季節も春から夏の匂いがし始め、周りの景色も人も心なしか浮かれているように見える。

「今日は一緒にご飯食べれるの?」

昼休み、景吾が無邪気に楓と蓮に尋ねれば、すまなそうな顔で二人が頷く。
四人での時間が取れなくなったことへの罪悪感が透けて見える。
友人を蔑ろにしているわけではないと自分も景吾も重々承知だ。
申し訳なく感じることなど一つもない。

「今日は何処で食べる?」

「久しぶりに学食は?」

「最近購買ばっかりだったしなー」

三人の会話をぼんやりと聞いていると学食に行くよと腕を引かれた。
昼の学食は朝や夜より一層混雑するが、異は唱えなかった。
席を取りに行った楓と景吾を見送り、食券を持って蓮と並ぶ。

「ゆうきさ、最近なんかあった?」

「…なんで?」

「うーん…なんかちょっと雰囲気変わった気がして」

「雰囲気?」

「気だるい雰囲気が増したというか。愁いを帯びた横顔とかやめてね。心臓痛くなるから」

「なんだそれ」

真面目に聞けと膨れっ面で抗議する蓮の頬に指を差して遊んだ。
笑ってはぐらかしたが、内心冷や冷やした。
雰囲気が変わったとすれば先輩のせいだ。
肉体的には精神的にも振り回され、疲労がピークだ。
蓮はぼんやりしているようで鋭い。
我が子を守るため、巣穴の外を監視する母親のように危機には敏感だ。だからもっと上手に隠さなければ。
四人分のトレイを持ち、楓たちの元へ急ぐ。
それぞれ違ったメニューにしたので、あれと交換、これと交換と、四人での昼食は想像以上に賑やかだった。

「俺何か飲み物買ってくるけど、お前らは?」

五限が始まる前に一息つこうと皆を振り返る。

「牛乳」

「お茶ー」

「コーラ」

誰も手伝う気はないらしい。
仕方がないから一人で自販機に向かうと、後ろから肩を叩かれた。
振り返った先にいた人物には見覚えがあるが思い出せない。
確か、隣のクラスだったような気がする。

「……なに?」

「真田、最近仁と一緒にいる所たまに見るけど、仲いいの?」

自分と同じ位の身長の彼は、顎を反り、あからさまに好戦的な態度を寄越した。

「…仁?」

「木内仁!」

「…ああ、木内先輩ね。ただの顔見知りだけど…」

下の名前も今知った程度の関係です。

「ふうん。ま、なんでもいいけどあまり仁に近付かないでね」

「…はい?」

「ゆうき、何やってんのー?」

早く、と急かす蓮の声がし、彼は話しはそれだけだからと去っていった。
なんなんだ。わけがわからない。馬鹿でも理解できるようちゃんと説明してくれ。

「…ごめんね、タイミング悪かった?」

「いや、いい。知らない奴だし」

好き好んで木内先輩といるわけではないのに、あんな言われ方は不愉快だ。
面倒は人一倍嫌い。問題は起こさず、波風立てず、平和に過ごしていたい。
でも自分からは関係に終止符を打てない。
今度また同じような忠告をされたら、是非先輩に言ってくれとお願いしよう。
平凡な生活を送りたいだけなのに、何故次から次へと面倒に巻き込まれるのだろう。

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