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頭の中は萎えるのに身体は正反対で触れられれば生理的な熱がこもっていく。
その感覚がとても嫌いだ。
どうして感情と身体は別なのだろう。憎い相手でも触れられれば正直に反応してしまう。
いっその事不感症になってくれないだろうか。

首筋をなぞるように舐められ、膝の力がかくんと抜けた。
倒れそうになるのを木内先輩が抱えてくれる。

「おっと、危ねえ。ベッドまで運んでやるよ」

ひょいと簡単に横抱きにされベッドの上へ乱暴に投げられる。
もう少し労わってほしいと思ったが、ただの暇潰しで玩具で、恋人でもないし愛情もないのだから乱暴にするのが当然だ。
勘違いしそうになる自分を咎める。どんな抱き方をするのもこの人の自由だ。
そのまま先輩が覆い被さり改めてキスをくれた。自分は先輩のキスに弱い。
巧いというのも理由だが、とにかく熱い。
体温がダイレクトに伝わって、誰かと熱を共有する気持ち悪さと心地良さの狭間で揺れる。
手順はいつも通りで、先の行動も予想できるのに触れられる度に一々反応してしまう。
頭で理解してもぞくりと背中に電流が走るような感覚には慣れないままだ。
声を必死に我慢して感じていないと虚勢を張るが、身体の反応は隠せない。

「声我慢しなくてもいいのに」

「うるせ…」

胸を愛撫し、指先で文字を書くように全身をなぞられる。

「部屋、防音だから大丈夫だぞ」

「大丈夫、じゃないっ…」

下唇をぎゅっと噛み締めた。するとそこを指で優しく撫でられた。

「傷つくぞ」

「ほっとけ」

「我慢してるのもそそられるけど素直になった方楽だぞ?」

ぷいと顔を背ければそれなら好きにしろと下肢をぎゅっと握られた。

「いたい!」

「痛くしてんだもん」

余裕綽々な態度が気に入らない。
こちらばかりが乱れてそんな姿を冷静に観察されて普通のセックスよりもずっと恥ずかしい。
情熱的な体温の交換ではなく、意地の悪い暇潰しで、こんな行為なら無理矢理犯されていた昔のほうがましだ。

「自分でやってみせろ」

「は?」

意味がわからず首を捻った。

「自分でやれって言ってんの」

手を奪われ下肢に持っていかされる。何をさせようとしているのか理解し、それを力いっぱい振り払った。

「嫌だ」

自慰行為など一年に数回、仕方がないので処理するくらいで自ら進んでしない。
何が悲しくて他人にそんな場面を見せなければいけないのだ。

「絶対?」

「絶対。それだけは絶対嫌だ」

「じゃあ他のことならしてくれんだな」

「他の、こと?」

「俺の舐めろ。いつも俺がしてんだ。たまにはしてくれてもいいだろ?ちゃんとイかせられたらお前もイかせてやるよ」

冗談だろ。
思いきり顔を顰めた。嫌悪で吐いてしまうかもしれない。

「どっちがいい?」

究極の選択を迫られる。どちらもやらない。という選択肢はない。

「ほら、早く決めろ」

再びぎゅっと握られて悲鳴のような声が漏れた。
早く決めなければこのまま握り潰されてしまいそうだ。
悪魔はそんな残酷な行為も躊躇なく行いそうで怖い。

「わかった、先輩のするから…」

消去法でそちらをとった。先輩に自慰行為を見られるよりはましだと判断したのだ。
先輩はいつでもどうぞとベッドに腰をかけた。足元に跪くようにしてズボンに手をかける。意志とは反して指が震えた。
手順はわかるし、目を閉じて口に突っ込んでしまえばいいだけ。
自棄のように何度も復唱して微かに形を変えているそれを両手で包みながら先端を口に含んだ。質量にむせそうになる。頑張って奥まで咥えようとしても無理で、ただ苦しみに支配される。

「…お前、口でやったことねえの?」

あまりに動かないからか、ぎこちなさが伝わったのかそんな質問をされ、小さく頷いた。
少しでも顔を動かせばえずいてしまう。

「意外だな…」

今までは無理矢理口に突っ込まれたりされたことはなかった。
意外という言葉も確かに頷けるけど、今までの相手は嫌だと首を振れば納得してくれた。腐っても自分のことを好いてくれた上での行為だったので、多少の優しさがあったのだと思う。木内先輩にはまったくないが。

「バックバージンは逃してもこっちは頂けたわけだ。頑張って咥えろよ」

わかっている。頭の中では手順だって把握している。
自分がされてきたようにすればいいのだ。
けれど、想像と実際やってみるのはまったく違う。
そもそも自分の口に対して先輩のは大きすぎる。咥えるだけで精一杯で苦しくてそれ以上などできるわけがない。
なかなか動こうとしないので焦れたのか、先輩は後頭部を掴んで無理矢理奥へと導いた。

「っ、くるしっ…」

喉に当たり息もできない。咽てしまうのに空気を吐き出せない。放したいが押さえつけられてそれも叶わない。

「おー、その顔結構いいぞ」

ふざけてないでこの苦しさから解放して欲しい。
やんわりと首を振ってみたが意図は通じない。

「俺がいつもお前にしてるようにしろ」

そんなこと、言われなくてもわかっている。わかってもできないから困っているのだ。
同じ男なのでどこが気持ち良くて、どうすれば快感に繋がるか、ある程度は理解している。
空気量がどんどん足りなくなってきて、先輩の足を軽く叩いた。もうギブアップなのだと願いを込めて。すると意外にもすんなり後頭部を放してくれ、同時に自分も口を放した。

「っ、はあっ――」

咽ながらひきつるように空気を吸った。酸素不足の頭の中は真っ白だし、顎もとても痛い。

「今時処女でももう少し上手くやるぞ?」

顔を覗きこまれたので思い切り睨んだ。
好きな相手ならばもっと頑張れるかもしれないし、サイズの問題だってある。
こちらが悪いわけではない。
そんなところで張り合っても仕方がないが馬鹿にされたようでムカつく。
そもそも男の自分はこんな経験しなくていいはずだから、女性と同列に考えるのは難しい。

「もう二度とやらない」

「それは困る。少しずつ覚えてもらわねえと」

「嫌だ」

好き勝手触られるのもすさまじい嫌悪感だが、口に入れるよりはましだった。
それに今まで木内先輩の相手をしてきた女性と比較されるのも気に入らない。
こんな経験男の自分には不必要なのだから下手のままでいい。上達なんてしたくないし、したところで意味もない。

「我儘だな…じゃあ、してやるからやり方しっかり覚えろよ?」

体勢を入れ替えるようにしてすっかり萎えたそこに手を伸ばされる。
口付けをしながら先輩の手中で育てられ、完全に立ち上がると熱い粘膜に包まれた。

「んっ…」

全体を舌でくすぐるように丁寧に舐められ、それだけで限界がきそうだった。
悔しいので、別のなにか難しいことを考えようとしたけれど無駄だった。
快感一色で染まって自然とそれを追い求めてしまう。

「や、めろ」

髪を掴んで引き剥がそうとしたけれど指に力は入らなくて、けれど先輩は望み通り口を放してくれた。望んだはずなのに空気に触れた下肢に落胆してしまう。

「やり方わかったか?」

頬を撫でられ困惑する。
手順など覚えている暇がなかった。ただ、どんどん身体にこもる熱を発散させたくて、他は考えらえなかった。
けれど正直に告げずに小さく頷いた。中途半端に放り投げられた下肢をどうにかして欲しい。

「じゃあ次から頑張れよ」

「わかったから…」

早くどうにかしてくれ。言葉に出さずに瞳で訴えた。
先輩はこちらの答えに満足したように微笑んで褒美をくれた。
先程より早急に快感だけを与えるような愛撫の仕方に呆気なく放った。
先輩は口で受け止めて手に吐き出すと指に絡めてそれをこちらの口に捻じ込んでくる。

「やっ、汚い…」

首を横に振ったが許してくれず、自分で出したものを舌にのせられてそのまま口付けられた。長いそれの後今度は額に軽くキスをされて再び横抱きにされる。
扉に向かって歩いていく腕をぎゅっと掴んだ。

「ど、何処行くんだよ」

「風呂。気持ち悪いだろ」

「いい!一人で行く!下ろせ!」

全裸のまま家中をうろつく趣味はないし、誰に会うかもわからない。

「大丈夫だ。二階の風呂だから。すぐそこだろ?」

「い、いやだ」

「もし見られても兄貴だけだし」

「それが嫌だって言ってんだよ!」

じたばたと暴れてみたが逆にきつく抑え込まれてついに扉が開けられた。
今度は声を潜めてぎゅっと瞳を瞑る。
氷室さんに会いませんように。どうか部屋から出てきませんように。
願いが届いたのか誰にも会わずにバスルームまで辿り着けた。
面倒なので木内先輩も共に入ると言い、もう勝手にしてくれと投げやりになる。
身体もだるいしとても疲れた。早く風呂を済ませて眠ってしまいたい。
軽くシャワーだけを浴び、ゆっくり風呂に浸かる木内先輩を残してバスルームを出た。
そそくさと客間へ戻り、倒れ込むようにベッドへダイブする。
昼寝をしたはずなのにとても眠い。
雪の上に寝転んでいるような心地良いベッドはいつも以上に睡魔を引き寄せる。
どんどん重くなる瞼には逆らわず、タオルケットだけを被って眠りに落ちた。

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