7



須藤先輩とは触れるだけの、戯れるような口づけしかしたことがなかった。
段階を踏まずにゴールへ到着しなければいけないのはとても不安だ。
もし、とか、けど、とか悪い過程ばかりが頭を巡る。
その間にも須藤先輩は模範的に僕をベッドに横たわせ、さらりと頭を撫でた。
ゆっくりと顔が近付き、唇が重なる。
舌で口を開けるように促され、魔法にかかったように素直に従った。
舌が絡まる感覚に身体の内側がじわじわと熱を上げていく。
酒に酔ったように微かな快感に夢中になり、彼が離れていくころには瞳がどろりと溶けそうになる。

「蓮、本当に平気?」

至近距離から真っ直ぐ見詰められ、咄嗟に視線を逸らした。

「へ、平気です」

自分の身体を見られることより、顔を見られる方がずっと恥ずかしい。

「できるだけ痛くないようにするから」

耳元で囁かれ、同時に耳朶をかぷっと噛まれた。

「…はい」

須藤先輩は情熱的で、余裕がなくて、けれど男の色香が漂っていて。
普段からは想像もつかない雰囲気に圧倒されそうになる。
その瞳には自分しか映っておらず、自分がそうさせているのだと思うと、小さな喜びが生まれる。
自分は平気だ、という意思表示のつもりで彼の首に腕を巻きつけた。

「ん…」

シャツの釦を一つ一つゆっくりと外し、現れた肌に貴重品を扱うように優しく触れる。

「蓮の肌は綺麗だね。お風呂に一緒に入ったときも思ったけど。触り心地もいいし」

「そんな、ことは…」

丁寧だと余計に辛いのだと彼はわかった上でやっているのだろうか。
セックスは多少強引で、わけもわからないままもみくちゃにされるような勢い任せの方が楽だ。
身体中に際どい愛撫をされ、小さな吐息が漏れ、一生懸命唇を噛み締めて耐える。

先輩がゆっくりと胸の突起に顔を近付け、そっと尖った舌で触れた。
ただそれだけのことに、反射的に背中が仰け反る。

「あっ」

「蓮は感じやすいんだ」

知られたくなかった事実を言い当てられ、顔から火が出そうなほどに恥ずかしい。
適度に感じたいのに、身体はこちらの意志を汲み取ってくれない。

「っ、…言わないで、下さい」

言葉を発したらすべて喘ぎに変わりそうで、慎重に息をした。

「どうして。僕は嬉しいけどな」

だから、素直に声を出せと唇を撫でられる。
こくりと頷けばまた胸の飾りを舌と指で両方巧みに愛撫する。

「あ、ん、や…」

ちらりと見れば、そこには熱が集まったように色も形も変化していた。
見なければよかったと後悔し、ぎゅっと瞳を閉じる。

「あ!」

胸にあった手がいつの間にか移動し、すっかり形が変わった下肢を触れられ思わず身を捩った。

「あ、あの!」

「大丈夫、大丈夫だから」

呪文のように耳元で囁かれる。
身体のすべてを誰かに預けるというのは、とても恐怖を伴う。

形を確かめるようにそっと握り、先端を指で掠められ蜜が溢れ出す。
我慢、我慢と頭の中で言い続ける。
どこか別のところに意識を持っていかなければ、すぐに限界がくる。
早く達してしまうなんて、男として最高に恥ずかしい。

「や、やめ…」

彼は僕の変化を見逃してはくれず、優しい言葉とは裏腹に激しく追い詰める。

「先輩、やめて、下さい」

「どうして?」

「だってっ――」

最後まで言葉を発する前に、手淫があまりにも心地よくて吐き出してしまった。
我慢がきかない身体がとても恨めしい。

「ごめんなさい…」

「どうして謝るの。蓮を気持ち良くしたいんだから、蓮は我慢しなくていいんだよ」

彼の手をべったりと汚してしまい、罪悪感がぐっと胸を詰まらせる。
拭けるものを探したが、自分が手を伸ばすより早く、どろりと垂れるそれを下から上へ舐め上げた。

「だめです!」

慌てて先輩へ手を伸ばしたが、彼は笑うばかりだ。

「ちょっと痛いかもしれないけど、我慢して…」

吐き出した蜜を固く閉ざされた窄まりへ塗り込むように撫でられ、喉が詰まる。
経験があるとはいえだいぶご無沙汰しているし、何度やっても慣れない。
悲痛に歪む顔を覗きこまれ、髪を撫でられる。
それでも緊張は解けずに、先輩の指をきつく締めるばかりだ。
力を抜こうと必死になればなるほどに身体は言うことを聞かない。

「蓮、大丈夫だから焦らないで」

「ごめんなさ…」

「謝らなくていい。ゆっくりとしよう」

その言葉を聞いた途端、焦りが微かに抜け、一瞬力が緩まった。
その隙を見逃さず、一本だった指が二本になった。そしてその動きもさきほどよりも激しいものに変わり、卑猥な音が耳に届く。

「あ、あっ」

指だけでも苦しい。
自分の中を、自分ではないなにかが動き回るというのはとても苦しく、心細いものだ。

「蓮」

眉を寄せ、ただただ耐えるばかりの僕の名前を呼び、意識を拡散させようとしてくれる。
丁寧に、丁寧に潤滑油を継ぎ足しながら解され、頑なだった場所が次第に馴染んでいった。
中の粘膜を優しく擦られるたびにじわじわと快感の波が際限なく押し寄せる。
快感が上回ったとしても手放しで喜べない。
行き過ぎた快感は苦痛だ。

「大丈夫?痛くない?」

「大丈夫…」

十分すぎるほどに解され、先輩は自らのシャツを脱ぎ捨て、一度ぎゅっと抱きしめて触れるだけのキスをくれた。

「蓮、いい?」

熱に溺れて浮上できない頭で、ぼんやりと頷いた。
けれど、猛った熱いモノが押し当てられた瞬間現実に戻り、身体を強張らせた。
こんなモノが自分の中に入るわけがない。冷や汗がじんわりと浮かぶ。
先端が少し入っただけでも辛くて仕方がない。
先輩の背中に腕を回し、恐怖と苦痛に耐えるため爪を立てた。
身体が形に慣れるのを待つように、ゆっくりと、ゆっくりと中に先輩が入ってくる。
身体は異物を押し出そうとするし、先輩は侵入を止めないし、狭間に挟まれてわけがわからず泣き出したくなる。

「っ、ごめんね、辛いよね…」

ぎゅっと閉じていた瞳を薄ら開けると、自分よりも辛そうな先輩が見えた。
狭いしきついし、女性の身体とはまったく違うので、抱く方も抱かれる方も苦痛を伴うのは仕方がない。
けれど、自分だけでなく彼にも気持ちよくなってほしい。

「大丈夫だから、もっと…」

先を促すと、彼は腰を一旦引いて、遠慮なく打ち付けた。

「ああ…」

最奥を抉られるたび、快感と痛みが交互に襲ってくる。
酸素不足の頭はぼんやりとし、目の前がちかちかと光る。

「蓮、蓮…」

壊れた機械のように僕の名前を呼ぶ先輩を眺め、額に光る汗に笑みを零した。
張り付く前髪を払ってやると、微笑み口付けをくれる。
心の隙間を埋めるように、身体をぴったりと密着させ抱き締め合う。
もっと、もっとと心が叫ぶ。
身体がほしいのか、心がほしいのか、きっとその両方だ。
それからはもう、せがんで、されるがままに溺れた。
身体が底なし沼にずるりと堕ちていく感覚。
手を伸ばすと須藤先輩が握ってくれる。
二人で堕ちていくなら、それもまた一興かもしれない。

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