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悩みに悩む日々を続け、先輩の誕生日まで刻々と近付いてきた。
散々考えて決めようと思った。悩んだ時間も無駄ではないだろうと。
けれど、さすがに決められない日々が続くと後悔する。
やはりあの時素直に聞けばよかったかもしれない、と。
結局、プレゼントなんてものは自己満足にしか過ぎないのも知っている。
けれど、その自己満足の中に相手の喜びが加味されてくれれば極上の物に変わる。
貰う方とあげる方。お互いの歯車がぴたっと合致されれば心底嬉しくなる。それがプレゼントだ。

須藤先輩が今一番ほしいものはわからい。先輩本人ではないのだから当然だ。
逆を考えれば自分が何をあげたいかだ。
普段身に着けてくれるような物?それとも物じゃなくて思い出?
いつまでもうじうじ考えている僕を見かねて、楓がとにかく街に出て何か見てみろと助言した。自分もそうしたからと。
なるほど、とそのアドバイスに感謝をしたのに、その直後に楓は結局それでも決まらなかったけどな、と豪快に笑われ、一気に落胆したけれど。


須藤先輩から朝の段階で昼食を共にしようと誘いのメールがあったので、今日は二人で学食で食べた。

「蓮最近悩んでることとかある?」

「いえ、何も」

悩みといえばプレゼントだけで、他は至って平凡な毎日だ。

「そう?なんか落ち込んでるように見えるんだけど」

「本当に何でもないんです」

「なら、いいんだけど…」

須藤先輩は苦笑し、こちらも曖昧に笑う。
ぎこちなさが一滴たらされたような空気が漂うが、本音は隠す。
先輩はいつだって優しい。
ちょっとした変化にも敏感に気付いてくれるほど。
けれど今はそれが厄介だ。上手く隠せていない自分の方にだいぶ否があるが。

「蓮は真面目すぎるところがあるから、それがたまに心配だよ」

無意味な問題を抱えてはいないだろうか、と。と先輩は続けた。
それは以前楓と先輩の間で揺れに揺れ、誰にとっても利がない結果を導いたことを指しているのかもしれない。

「…はい。すみません…」

苦笑しながら瞳を伏せた。

「ああ、誤解しないで。責めてるわけじゃないんだ」

できの悪い生徒に語りかけるような優しい口調だった。

「はい。心配かけてすみません。ありがとうございます」

それ以上はなにも突っ込まれず、ただ先輩は微笑みながら昼食を頬張る僕を眺めているだけだった。
なにかおもしろいかと問うと、大きく頷かれた。
恥ずかしいので見るなと言えば、できないと否定される。
他愛もない応酬を交わしながら、幸せだと思った。
日向ぼっこに最適な縁側で太陽の光りに包まれている午後。
須藤先輩といると、ふわふわとした心地よさが付き纏う。
癖になったら大変だけど、すごい引力で引き寄せられる。

漸くすべてを食べ終え、ペットボトルのお茶を飲んだ。

「あ、今度の土曜日デートでもする?」

突然の誘いに驚いた。
僕たちはどちらかといえばインドア派で、デートの経験があまりない。
外では男同士なので気を遣って接しなければいけないし、それが歯痒いので部屋で過ごす割合が高い。
たまには先輩と外出もしたいが、今度の土曜日はプレゼントを買うため、秀吉に付き合ってもらう約束をしていた。
他の三人にも声をかけたのだが、二人とも用事があるらしく、ゆうきに至っては無言で首を振られた。
残ったのは秀吉だけで、彼は三人に薄情者と冗談を言いながら引き受けてくれたのだ。

「…すいません。土曜日は大事な用があって」

「そっか。じゃあ仕方ないね。また今度行こう」

「はい」

滅多にない誘いなので断りたくはなかったが、秀吉が先約だし、自分から誘った挙句にやっぱりなし、とはいかない。
先輩の誘いを断った分、土曜日は無駄にはできない。必ずなにかを見つけなければ。
よし、と心の中で気合を入れ直す。



土曜日、いつも通りの時間に目を覚まし、身支度を整わせ、秀吉が来るのを待った。
そういえば秀吉と二人で出かけるのは初めてだ。
学校や部屋では時間を共有しているが、遊びに行ったことがない。
五人の中で予定が合う人とたまに出かけるくらいだ。
ゆうきに至っては筋金入りの出不精なので、しつこく誘わないと乗ってくれない。
先輩のプレゼント買うのは勿論大事だが、秀吉と遊べるのも楽しみだ。

「れーん」

コンコンと二度扉を叩く音と秀吉の声が聞こえる。
時刻は一時ぴったりだ。急いで鞄を持ち、扉を開けた。

「おはようさん」

「おはよう」

「ほな、行こか」

「うん」

並んで歩きながら、ちらちらと秀吉を盗み見た。
制服姿と、部屋着のジャージ姿しか見たことがなかったが、今日はきちんとお洒落をしている。
背が高いので、どんな服を着ても様になるだろうし、この容姿なのだから女の子の目に触れたら全員が振り向くかもしれない。
地元ではさぞかしモテだだろう。などと下世話な想像をする。

「なに?」

ちらちらと見ていたつもりだが、さすがに視線に気付かれてしまった。

「いや、秀吉っていい人だなーって思って」

「え、今更気付いたん?」

にやりと笑われ、はいはい、と返す。
こんなやりとりは日常茶飯事だ。
駅に着き、路線図を見ながら寮から一番近い街へ行くことにした。
丁度やってきた電車に乗り込む。
電車は空席の方が多く、端っこに寄り並んで座る。

「俺のことは気にせんと、色んな店回って、じっくり決めや」

「うん。ありがとう。アドバイス、よろしくお願いします」

「おう、任せとき。せやけど、洋服とかは景吾の方がよかったかもせんな。あいつ洋服馬鹿やから」

「そうだね。僕もそっちはよくわからないしな。でも秀吉もおしゃれだから大丈夫だよ」

「あ、せやろせやろー」

「…秀吉、それがなければ完璧なんだけどなあ…」

ふう、と息を吐けば頭を軽く叩かれる。
それに対抗して太腿を抓る。
そんなやり取りを繰り返しているうちに、目的の街がアナウンスされた。
楓や景吾を馬鹿にできないくらい、僕たちも下らない争いをしている。

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