もう一度、もう二度と


天高く馬肥ゆる秋、都内の結婚式場として使用される邸宅にいた。
三連休の日曜日、父方の従姉の式に参列するためだ。
前日久しぶりに実家に帰省し、冠婚葬祭用のスーツを着てみると袖と丈が少し足りなかった。
作り直す時間もなく、まあ、目ざとい人が見なければ大丈夫な程度なのでそのスーツで出席した。
母にはだから事前に着てみろと言ったのにとうるさく説教をされたが、どんな洋服でもこの顔があれば周囲の人間はそういうファッションなのねと納得してくれる。
そんな言い訳は早々に捨て、きちんとした服装をしなさいと常々母に叱られるけど。
ジンジャーエールが入ったグラスを片手に持って解放感のあるテラスの方を眺めた。
最近は結婚式にも様々な様式があり、従姉は親しい身内や友人だけのゲストハウスウエディングを選んだらしい。
テラスにはプールがあるし、バーも完備されている。
一通りの式が終わってからは食事を摂りながらそれぞれ自由に過ごしていて、両親は久しぶりに顔を合わせる親族への挨拶に大忙しだ。
父方の親族はあまり顔を合わせないので、大きくなったねと言われてもお前誰だよと突っ込みたくなる。
ありがとうございますと微笑むくらいのコミュ力でどうにか乗り切っているけれど。

「潤君」

後ろから声を掛けられ振り返ると、本日の主役がシンプルなAラインのドレスを翻しながら微笑んでいる。

「久しぶりだね。わざわざ来てくれてありがとう」

「いえ。すごく素敵な結婚式でした」

「そう言ってもらえると安心するよ。潤君随分大きくなったね。前に会ったのは確か…中学に入る前だったかな?」

「そうでしたね」

頷いてみせたが、実際はこの従姉の顔も覚えていなかったし、名前すら怪しかった。
薄情者だと思うけど、母方の親戚である氷室家以外とは冠婚葬祭くらいでしか顔を合わせない。
実家にいれば違ったのかもしれないが、寮暮らしとなると尚更会う機会は減る。

「昔から可愛い顔してたけど、すっかりイケメンに育っちゃって。私の旦那さんも芸能人?て驚いてたよ」

「はは、そんなことないですよ」

謙遜してみせたが内心は聞き飽きた褒め言葉に何の感動もない。
自分の顔の造りが上手にできているのは自分が一番わかっているし、得することも多いので両親には感謝している。美男美女の両親ではないが、掛け合わせが絶妙だったのだろう。これぞ奇跡というものだ。

「潤君が大人になって、結婚するときは私も呼んでね?どんな綺麗な奥さんをもらうのか楽しみにしてる」

「結婚できたらいいですけど、僕モテないんですよ」

「またまた。選り好みしすぎているんじゃない?」

「困ったことにそんな贅沢な身分じゃないんですよね」

くるくすと笑う新婦に自分も薄らと微笑む。
じゃあまたと、別の招待客へ向かう姿は夜店の金魚のように美しい。

結婚、ねえ。
腕に嵌っている、有馬先輩から貰ったブレスレットをもう一方の手で撫でながら皮肉な笑いを浮かべそうになる。
自分はまだ十七で、この先のことはなにもわからない。いつまで有馬先輩とこんな関係を続けるか想像できないし、だけどいつか終わりがくることだけはわかっている。
有馬先輩は結婚の自由さえ選べない。親が認めた女性と必ず結婚し、子孫を残す義務がある。
だから自分もいつか家庭的な女性と付き合って、なんとなく結婚するのかもしれないが、こんな自分を上手に扱える女性は滅多にいないだろうし、そうなると一生独身で孤独死コースだ。
最悪、同じ道を辿りそうな真琴と一緒に暮らすという手もある。
皇矢や秀吉はどんな未来を選ぶのだろう。それぞれ個性的な恋人がいるけれど、それも高校時代の一種の気紛れと処理し、最終的には美しい女性を選ぶのだろうか。
自分たちは社会を知らないからこその無鉄砲さと根拠のない自信で満ちている。
いずれ別れが来ると諦めているのは自分くらいだろうか。
有馬先輩の頭の中にはどんな未来が描かれているのだろう。
あの人のことだから自分のことは見栄えがするアクセサリーくらいにしか考えていないかも。
小さく溜め息を吐いて、こんなことを考えるなんてらしくないとゆるく頭を振った。
だけど自分にはあまり時間がない。有馬先輩が高校生でいるのはあと半年。
たった半年で完璧に整えられた箱庭から去ってしまう。
世界と繋がった瞬間に彼は気付くと思う。自分はどうかしていたと。
自分の両親と談笑する花嫁に視線を移した。この世の幸福をすべて集めたような姿を純粋に羨ましいと思った。



「え、あんた帰るの?」

式を終え実家のリビングでネクタイを緩めるとカウンターキッチンから母が身を乗り出した。

「うん」

「明日も休みなのに。今から帰ったら着く頃には九時過ぎるんじゃない?」

「平気だよ。門限なんてあってないようなものだし」

「えー。折角あんたが好きなデパ地下のお惣菜いっぱい買ったのに」

冷蔵庫を開けながらこの量どうしようかしらと悩む母の背中を呆れた目で眺めた。
久しぶりの息子の帰省にも関わらず手料理ではなくテパ地下惣菜を選ぶところが母らしい。
昔から家事への情熱はなく、自分で作るより惣菜の方が美味しいと開き直っていた。事実だし、父も自分も文句はないけど。

「電車で帰るのだるいしおじさんの家行こうかな」

氷室家の運転手さんが空いているなら送ってもらおうという魂胆だったが、地獄耳の母にその言葉はしっかりと届いていたようで鬼の形相で叱られた。

「まったく、誰に似てそんな甘えたお坊ちゃんになったのかしら。厳しく育てたはずなのに」

まだ文句を言い足りないのかぶつぶつと呟いているが、知らぬ振りでスマホをいじった。
母の説教を真に受けてすべて咀嚼するのは大変な労力だ。右から左に流すくらいでちょうどいい。
だから何度も怒られるのだが、この性格を直す気はない。

「パパもたまには怒ってよ!」

父は急に矛先が自分に向かって動揺しながら広げていた新聞から顔を出した。

「まあ、一人っ子なんてそんなものじゃないか?」

「パパが甘やかすから!」

「まあまあ。どうせ働き始めたら甘えられないのだし、子どもの内はいいじゃないか」

「だよねー」

「もー!うちの男たちときたら!」

ぷりぷりと頭から湯気を出す母を視界に入れながら、父にこっそり大変だねと耳打ちした。
昔から変わらないし、慣れたよと笑う顔は疲労の色が濃い。
うちは完全にかかあ殿下であるが、父もそれを望んでいるところがある。自分があまりはっきりした性格ではないから、女性に引っ張られるくらいが楽なのだとか。
そうなると自分のこの性格は母譲りだ。だからこそ、母もきつく叱るのかもしれない。
これ以上説教に付き合うのは疲れるので、眺めていたスマホを鞄に放り投げ、スーツから私服に着替えた。
ダークグレーのチェスターコートを羽織り、父の肩をぽんと叩く。

「駅まで送って」

父は、はいはいとすぐさま新聞を畳んでくれた。車のキーを握り、コーヒーを啜る母を振り返る。

「ママも行く?」

「行きません」

どうやらまだ怒りは継続中らしい。触らぬ母に祟りなし。
こそこそと逃げるように玄関へ向かい、スニーカーの紐を締めていると、背後から母が紙袋を差し出した。

「これ。お菓子とか色々。お友達と食べなさい」

「ああ、うん」

「先生に怒られるようなことはしちゃだめよ。あと、お友達に我儘ばっかり言わないこと」

「わかってるよ」

「それから、もう少し頻繁に帰って来なさい」

「はいはい。じゃあね」

鞄と紙袋を乱暴に掴み軽く手を振って家を出た。
助手席に乗り込みスマホに入っている適当な音楽をかける。車を発進し、暫く経った頃父がこちらをちらりと見た。

「ああ見えてママも心配してるんだよ?」

「…あー、うん」

「なんだかんだ言っても可愛い一人息子だからね。はいこれ」

父は片手でハンドルを握ったまま器用にジャケットのポケットからぽち袋を差し出した。

「なにこれ」

「臨時お小遣い」

「マジ?でも、こういうことするとまた怒られるよ」

「いいのいいの。男同士の秘密ってことで。潤も年頃だしデート代ほしいだろ?」

「デート代ねえ…」

「…その顔、やっぱり彼女いるんだな」

父の言葉にぎくりと肩を揺らした。
最近家に帰らないのはあっちに彼女がいるからに違いないと母に聞き、それはよかったと父も喜んでいたらしい。
どんな娘さんかな、潤は彼女を大事にできるだろうかと夫婦の楽しみになっていたようだ。

「今日も潤は引く手あまただろうって皆に言われたぞ」

「別に、そんな子はいないよ」

確かに、共学校なら好意を寄せられる機会もそれなりにあったかもしれない。
だが男子校で出会いを求めるには努力が必要だ。合コンに行ったり、ナンパしたり。
そこまでして彼女がほしいと思ったことがない。この性格は彼女ができたからといって丸くならないだろうし、誰かに合わせるのが一番嫌いだ。
なのに自分以上に面倒臭い有馬先輩と付き合っている。
性格を考慮すれば、はいはいと大きな心で包んでくれる人の方が合っている。
有馬先輩に伸ばした手はこちらが追いかけて縋らなければあっさり放れる。だからいつも何かに焦り、不安を感じて、怒りでもいいから反応がほしくて、彼の視界に自分を映そうと躍起になっている。なんて不毛な関係か。窓の外の景色をぼんやりと眺めた。

「…まあ、親に彼女の話しとかしたくないよな」

恥ずかしいとかうざいとか、そんな単純な話しではなく、本当に紹介できない相手だから困っているのだ。
父もまさか息子が男と恋人関係にあるなど想像もしないだろう。これを親不孝というのだろうか。
嬉しかったお小遣いがずっしりと重く感じる。

「なんにせよ、潤が高校生活を楽しんでるならよかったよ」

「…うん。友達もいるし、寮生活も悪くないし心配することはないから。母さんにもそう言っといて」

「はいはい。君たち親子は似てるからこそ素直に話せないんだよなー」

ふふ、と笑われ何も言い返せずそっぽを向いた。父には何でもお見通しだ。
駅につき、人の邪魔にならない場所に車を停車させる。
車から降り、ハンドルに手をかけたままの父に、身体を折ってまたねと素っ気なく言った。

「たまには写真とか送ってな」

「はいはい」

扉を閉めるとすぐに車が発進した。ぎりぎりまで手を振る父に、ちゃんと前を見ろと意味を込めてしっしと手を払う。
鞄と紙袋を持ち直し、改札にスマホを翳して通過する。
一番楽な乗換方法を頭の中で計算し、丁度やってきた電車に乗り込んだ。
何度かの乗り換えをし、寮付近の駅まで続く電車の中でスマホを開く。
『今帰ってる途中』
それだけ打って有馬先輩に送った。
いつ帰るか逐一連絡しろと言わたわけではない。実家に戻ると言ってもそうですかで済まされた。帰る理由も聞かれない。つくづく自分に興味がないのだと思った。
なら自分も好き勝手にしてやると意地を張ったが、何度スマホを見ても彼からの連絡はなく、放っておかれて苛々した気持ちは次第に不安に変わった。
顔を見なくても会わなくてもいいから彼と同じ場所に身を置いていたい。
女々しい。鬱陶しい。追い駆けるから余計に逃げられる。
頭の中で冷静に分析するも、津波のような恋慕の前でそれはなんの意味も持たない。
手に握っていたスマホが短く振動し、慌てて開いた。
『何時に着く予定ですか?』
返事が来るのが珍しくて、八時半と返事をする。
もしかしたら今夜会えるかも。淡い期待をしたが、それ以上の返事は来なかったので小さく落胆した。
だから、期待するだけ傷つくのだからやめろと今まで何度も言い聞かせた。なのに同じことを繰り返してしまう。
自分の恋はいつも嵐だ。
寝ても覚めても相手のことを考え、意識のすべてが流れていく。
一か百しかなくて、受け止める方は抱えきれないから少し待ってくれと身を引きたくなる。仁のときもそうだった。全身で好きだと語り、子猫をあやすように上手にかわされ続け、その間に仁は真田に恋をした。
子どもっぽい恋愛の仕方が悔しくて、大人の余裕を演じてみても結局出発点に逆戻り。
相手のすべてを求めてしまうが、それが正しい恋のやり方でないとわかっている。
なのに上手に立ち回れない。
それに比べ、彼の心はすべてが均等だ。勉強、生徒会、友人、恋人、家族。どれかが欠けても他の物でカバーできる。

うんざりするくらい考えて、最寄駅のアナウンスに重い腰を上げた。
外に出るとひゅっと風が通り抜け、思わず猫背になった。
都内とは違う温度、空気、空。一日ぶりなのにひどく懐かしい。
猫背のまま改札を抜け、ぽつぽつと等間隔の街頭に視線を移すと、出口の壁に背中を預けていた有馬先輩がちらりとこちらを見た。

「おかえりなさい」

「た、ただいま…」

呆気にとられながら返事をし、そちらに近付く。

「なんでいるの」

「いけません?」

「いや、珍しいと思って」

「丁度コンビニに行こうと思ってたので」

彼はビニール袋を目線の高さまで持ってきて、寒いから早く行こうと踵を返した。
隣に並び、冷たい指を擦り合わせた。

「朝晩はすっかり冬ですね」

「うん。僕寒いの嫌い」

「そうですか?私は割と好きですよ」

「うえ。変なの」

「炬燵でミカンとかいいじゃないですか」

「意外と庶民的」

「何言ってるんですか。私は庶民ですよ」

そうでしたっけ?からかうように覗き込むとぐっと顔を押し返された。

「お坊ちゃんってのは、須藤とか、木内みたいな連中で、私は別に普通です」

あの二人は別格だ。
本人も彼らの家族もそんな気取ったところはないし、金の価値と自分の価値をイコールにしないので忘れそうになるが、所謂ボンボンというやつで、自分もそれの恩恵を受けている。
有馬先輩の家は彼らとは違う特殊さがあるし、彼は今でもそれに縛られている。

「毎年炬燵を買うか悩むんです」

「やめた方がいいよ。絶対炬燵で寝て身体壊すから」

「私もそう思います。あれに入ったら一生出なくなりそうですし」

「キノコ生えるよ」

「生えたら積んで下さい」

「やだよ。絶対毒入りだもん」

もう少しで息が白くなりそうなほど冷えた夜道を益体のない会話をしながら歩く。
日常的な一コマで、同じようなことを何度も繰り返した。なのに今日はとても嬉しいと思った。
彼とはあと半年。顔を背けてきた事実。それをリアルに感じてしまったからか、隣にいるだけで幸福とすら思う。
これでは不幸慣れした真琴のようで、そういう自分は尚更鬱陶しいと思う。
なにを感傷的になっているんだか。呆れて小さく溜め息をつく。
ポケットに突っ込んでいた携帯が震え、歩きながら画面を見ると、今日撮った集合写真が母から送られて来た。
写真の中で永遠の愛を誓った夫婦が希望に満ちた笑顔を見せている。
本当に綺麗だ。
幸福は伝染するという。なのに自分は現実的な幸福を見せつけられ心が折れた。

「それは?」

有馬先輩はひょいと画面を覗き込み興味深く眺めている。

「今日結婚式だったんだ。従姉の」

「へえ。スーツ姿なんて珍しくて驚きました」

「馬子にも衣装とか思ってんだろ知ってる」

「いえ、こうして見るとさすが、あなたの容姿は目を引くなあと。神谷や椎名を見慣れているので失念してました」

「それ誉めてんの?」

「誉めてますよ」

とてもそうは思えずじっとりとした視線を送ったが、すいっと視線を逸らされた。
もう一度写真を眺め、僅かに口角を上げた。

「やっぱ花嫁は世界一綺麗だよね」

「そうですか?」

「そうだよ。元々の顔とかじゃなくて、幸せだって全身で語って、だから見ている人も幸せになるし、綺麗だなって思うんだろうね」

「あなたがそんな風に言うなんて珍しい。花嫁より自分の方が綺麗とか言いそうなのに」

「さすがにそこまでの過大評価はしないわ」

「私はあなたの方が綺麗に見えますよ」

スマホの写真を指差しながら言われぎょっとした。この人は不意打ちで甘い菓子を口に詰め込んでくる。

「…そりゃ、どうも…」

寮の門を抜け、明るいエントランスに吸い込まれるように早歩きになったが、くいっと服を引かれ後ろを振り返った。
門からエントランスの中間にいくつかある東屋のような休憩スペースを指差され首を捻った。

「なに」

「ちょっと」

有馬先輩は理由は言わずそちらにぐいぐいと腕を引っ張る。引き摺られるようについていくと、東屋の周囲に咲く大量のコスモスに手を伸ばし一輪手折った。
ジャケットのポケットに突っ込んでいた腕をぐいっと出され、コスモスの花を指に当てると茎を何度か巻いて器用にきゅっと結んだ。
ぼんやりとしながらそれを目線の高さまで持っていき、空に透かすように眺めた。
何も言わない有馬先輩がおかしくて、ふっと笑った。

「小さい頃、同じことをされたのを思い出した。あの時は白詰草で、大きくなったら結婚しようって言われた。女の子と間違ったんだろうなあ」

遠い昔の記憶をぽつぽつと語る。
有馬先輩はなにも言わない。
はは、と乾いた笑いが込み上げ俯いた。悲しくないのに涙が滲みそうになる。
おままごとの花指輪は夜風で花弁をゆらゆら揺らしている。自分の心と同じ。ゆらゆら、ゆらゆら、様々な感情の間をジェットコースターのように行き来している。

「ほら、あなたの方が綺麗でしょ」

有馬先輩がスマホを差し出す。いつの間に撮ったのか、花指輪をぼんやりと眺める自分の写真が広がっていた。

「うわ、消してよ」

「嫌です」

「ちょっと!」

ぶつかる勢いで手を伸ばしてみたが、ひらりとかわされた。
負けじと手を伸ばすが、彼はスマホをズボンの尻ポケットに突っ込み、伸ばした僕の腕をとって腰を引き寄せた。
軽い触れるだけのキスをされ、彼は顔を放すと折った指で頬を撫でた。苦しそうに笑って寮のエントランスへと歩き出す。
一人ぽつりと取り残された場所で、彼の背中は追い駆けずコスモスを割るように置いてあるベンチに座った。

手折られた花は一日も持たず萎れるだろう。だけどそれでいい。
永遠の誓いなどできない僕たちは、それを象徴するダイヤには手が伸ばせない。幼い子どもが言う『大きくなったら僕のお嫁さんになってね』程度の約束事しか交わせない。
大人は言うだろう。馬鹿な子だと。世間が、社会が、今いる場所は間違っていると自分たちを引き摺り続ける。心も一緒に擦れていき、有馬先輩への気持ちもいつか跡形もなく消えたりするのだろうか。
それでも将来大人になって誰かに指輪を贈るとき、今日のことを思い出して青臭い子ども時代を懐かしんで、有馬先輩が言葉にできなかった想いを噛み締めるのだと思う。

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