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セックスは幸福の象徴。
童貞処女の自分がイメージするそれはお花畑であり、きらきらとした夢であり、ふわふわした虹色の綿飴だった。
甘く、色がついた少しだけ重い空気で包まれ、他とは解離された完全に二人の世界。
うふふ、あはは、と微笑み合って慈しみ、なんとなく上手くことが運んで叫んだり、眉間に皺を寄せたりせず、柔らかく、穏やかな愛の伝達方法。
そんな馬鹿げたイメージは開始早々粉々になって強風で吹き飛んだ。

「み、三上!ちょっと、待って……」

「なに」

顔、首、鎖骨、あらゆる場所に口付けながら釦を器用に片手で外され彼がどんどん下にさがっていく。
髪の毛を掴んで制したがぎろりと睨まれ言葉を詰まらせた。

「そ、そんな風にしなくていい」

肩に引っ掻けたままのパジャマを手繰り寄せ、合わせ目で身体を隠した。

「そんな風?」

「お、女の子と同じように扱わなくていいっていうか……」

老若男女、世界共通で女性は優しく扱うものと相場が決まっている。
しかし自分たちは同性同士で、なにより三上に奉仕させるのは居た堪れない。
すべての準備を自分で済ませ、あとは突っ込むだけだね、三上はなにもしなくていいからねと上に乗るくらいが丁度いい。

「女のことこんな風に扱ったことないけど?」

とにかく余計なことはしなくていいのだと言うと、彼はむっと眉を寄せた。

「俺は男相手は初めてだし勝手がわからない。だからお前が協力的じゃないと困る」

「僕だって初めてだけど……」

「お前の身体なんだから言葉にして言ってもらわないとわかんねえだろ」

「言葉?」

「どこがいいとか、嫌だとか」

「……はい」

死ぬほど言いたくないけれど、彼に命令されたら逆らえない。

「言っとくけど、俺まだ怒ってるから。だからセックスくらい楽しませろよ」

「は、はい!頑張ります!」

三上は僅かに片方の口端を持ち上げ見下すようにした。
ぞくりと背中が粟立ち、彼が楽しんでくれるなら道化になる覚悟を持とうと決めた。
顔を寄せた三上は首筋を尖らせた舌で舐め上げ、耳の穴に舌を突っ込みながら両手で腰を掴みそのまま優しく上半身に手を滑らせた。

「ん、ぞわぞわ、する……」

手の甲を口に当てながら歯を食い縛る。
手がどんどん滑り、親指で胸の突起を押し潰された。

「あっ!」

「ここ、俺はなんも感じないけどお前は?」

指の腹で優しくさすられ首を左右に振る。

「ほら、言えよ。協力してくれるんだろ」

ふっと息を吹きかけられぐずぐずと湧き上がる羞恥に必死に耐える。
言えない。というか、言いたくない。

「俺ベッドの上では素直な奴が好き」

「言います」

咄嗟に口にして、だけど理性と羞恥の天秤が揺れると理性が勝ってしまう。
ぐぬぬ、ともたもたしながら、それでも三上が楽しいとか、好きだと思ってくれるならちっぽけなプライドは捨てよう。

「……じ、自分でいじってる」

消え入りそうな声で言うと、胸の周りを悪戯していた手がぴたりと止まり顔を覗き込まれた。

「オナるとき?」

「う……。そ、そうです。気持ち、いいから」

「へえ」

は、と馬鹿にしたように笑われもう限界だった。いっその事殺してほしい。
なんで好きな人に恥じを晒さなければならないのだろう。
これは新手の拷問だろうか。セックスはきらきら、ふわふわ、優しいものなはずなのに。
瞼を閉じて耐えると、片方の突起をべろりと舐め上げられ引きつった声が出た。

「自分では触れるけど舐めることはできねえもんな」

「う、あ、やだ、やだそれ!」

肩を押し返したがびくりともしない。
抵抗すればしただけ面白がるように舌が動き、すっかり主張した小さな突起を散々好き勝手された。
親指と人差し指で摘まれ、ぴりっとした痛みが走ると今度は優しく舌でなぞられる。

「っ、あ、みか……!やめ……」

「なんで?」

「気持ちいい、きもちいいからやだ」

「セックスは気持ちいいものだろ」

「でも、悪いことしているみたいで……」

快感と、彼にこんなことをさせる罪悪感で身体の中がぐちゃぐちゃだ。
いいと感じるのがいけないことのようで、罰せられている気持ちになる。

「お前が感じてくれないと俺もつまんねえだろ」

「……気持ちいい方がつまるの?」

「そりゃそうだ」

「そう……。そうなんだ」

「余計なこと考えないで、感覚だけ追えばいい」

ちゅ、と軽くキスをされぼんやりしながら頷いた。
彼がそう望むなら。自分ばかりが醜態を晒すのはいかがなものかと思うけれど。
セックスと共同作業と言い聞かせ、するりと三上の首に両手を回した。

「僕、声大きいからうるさかったら口塞いでね」

「いいよ。どうせ誰もいない」

「でも……」

「たくさん喘いで、その気にさせてくれよ」

言いながら膝で脚の間をぐりっと刺激され喉を反らせた。
さっきから限界がきそうと思っていた。間接的な愛撫ではジェットコースターのような速度で天辺にいけないけれど、胸への刺激だけでじわじわ炙られるようにされながら達したらどうしようと。
恥じでしかないので耐えていたが、早く吐き出したかった。
だけど三上はそれ以上をしようとせず、執拗に上半身への愛撫しかくれなかった。
天辺ぎりぎりで焦らされると快感よりも苦しさが勝る。
酸素不足の頭はもやがかかったように子供染みた思考でいっぱいになり、狂気と理性が隣合ってもうわけがわからなくなりそうだ。

「っ、やだ、もう、やだぁ」

「まだだめ」

背中に爪を立てて引き剥がそうとしたが力が入らない。

「痛い方が好き?」

突起に爪を立てられ目を見開いた。

「う……。どっちも、好き」

正直に言ったのに、彼はくすりと笑ってわざと中心を避けるような触れ方をした。
下着の中が気持ち悪いのと、触ってほしいのに放置される切なさで脚が勝手にもじもじ動く。摩擦の刺激だけで辛い。

「次はなにしてほしい」

わかってるくせに、意地悪な言葉に下唇を噛み締めた。
自分一人だけ乱れるのがどれほどの屈辱と羞恥かこの男はわかっていない。
悔しくて両頬を包んで口付けた。

「し、下も触ってほしい」

「じゃあ脱げ」

え、と首を傾げたが三上は身体を離して膝立ちし、傍観を決め込んだ。
上着は釦を外してくれたのに、これ以上の協力はしませんと宣言されているようだ。

「俺に奉仕されるのが嫌なんだろ?自分で脱げ」

「は、はい」

見ないでくれとお願いすると、ストリップは見てなんぼと容赦ない言葉が返ってくる。
冷めた、月の光のような鋭い視線に見下ろされ、冷や汗を掻きながらパジャマのウエスト部分に親指をかけた。
こういうのは一気にいった方がいい。わかっているけどできなくて、身体を横臥させながら小さくなった。
ちらりと三上を見上げると、顎に手を添えながら意地悪く笑っている。

「い、意地悪だと思う。僕初心者なのに……」

「怒ってるって言っただろ」

それを言われると返す言葉がない。自分のせいで三上を怒らせ、真っ直ぐな糸を複雑に絡ませた。いつだって僕が悪い。だからこれは罰なのだ。そうか、と納得した途端、期待で胸がざわめいた。無礼の罰ならばきちんと受け入れなければ。
ウエストに掛けていた手に力を込め、パジャマを足首に引っ掻け、下着をさげる。
すっかり勃ち上がり、先走りが垂れた下肢が空気に触れただけで鳥肌が立った。

「もう限界そうだな」

ふるりと震えるそこを注視され、視線だけで達するかと思った。

「あ……。ご、ごめんなさい」

はしたない淫乱だと思われたらどうしよう。
そういう子は好きじゃないと言われたら。
膝を閉じようとすると身体を割り込むようにされ、つっと伝う先走りを指で掬われた。

「っ、あ!」

その瞬間待ち望んでいたように達してしまい、自分も三上もぽかんと口を開けた。

「……早くね?」

足の先からじわじわと羞恥が頭をすっぽり覆い、じんわりと涙が滲んだ。

「恥ずかしくて死にそうだよ!」

枕をとって自分の顔を隠すように押し付け、うー、とかあー、とか、意味もない言葉を発した。

「悪かったよ。いじめすぎた」

「嫌だ!もう、嫌だ……」

三上が差し出すものすべてを受け入れなければいけないと思う自分と、客観的に見て冷静に分析する自分がいて、心が揺れて定まらない。

「悪かったって。ほら、顔見せろ」

「嫌だ。このままする」

「まあ、いいけど」

案外あっさり引いたなと思ったのも束の間、萎えた部分が生暖かい粘膜に包まれがばっと上半身を起こした。

「ひ、やだ……」

「お前はするだろ」

「み、三上はそんなことしなくていい!」

「うるさい」

内腿を掴まれると限界まで割り開かれ、片手で口を覆った。
そんな、嘘だろと血の気が引くような感覚と、腰から天辺まで電流が伝うような快感にぐにゃりと顔が歪む。
視覚的にもやばいし感じたことのない快感もやばい。もう、やばい。
頭が馬鹿になってると気付き、覆っていた手の指を噛んだ。

「ん、んん──!」

悲鳴が漏れそうになって必死に耐えると、べろりと舌を這わせる彼と目が合った。

「あ、無理、もうむり」

「だから早い」

「だって、だって……」

片手でシーツをぎゅっと掴み、足の指に力を入れた。
そうすると快感が身体の内に溜って逆効果なのに身体が勝手に反応する。

「っ、離して、もう、離してぇ」

「飲みたいから口に出して、だろ?」

散々自分が言ってきた言葉を返され眉を寄せる。
そんなことさせられない。それは絶対にだめだ。なのに力が入らない。どうしようと考える間もくびれを舐められ、口内で扱かれ、弱々しく掴んだ三上の肩を押し返したが射精感は止まらなかった。

「みかっ、もう、」

あと一舐めというところでぱっと口が離れ、手の甲で口元を拭うようにした三上をぼんやり眺めた。

「……なんで」

「離してって言ったから」

三上が胡坐を掻いた上に乗せられ、跨ぐように腰を下ろした。

「泉」

呼ばれ、のろのろと顔を上げると人差し指をくいくいとされ、倒れ込むように顔を寄せた。後頭部をがっちり掴まれ口を塞がれる。
彼の舌から苦味を感じ、自分の精液の味だと知る。
嫌だけど離せない。息を上げながら絡まる舌に置いていかれないよう必死に応えた。

「ん、ふ──」

頭がぼうっとする。酸素が足りない。気持ちいいしか考えられない馬鹿な生き物に成り下がってしまう。それがとてつもなく怖いのに、このまま堕ちてしまいたくなる。
尻の下、三上の勃ちあがったものを感じて歓喜で震えた。
自分だけでなく、彼にもよくなってほしくて、だけど方法がわからない。
僅かに彼が動く度、おあずけを喰らった下肢が腹に擦れて切ない。
こちらの辛さをわかっているだろうに三上はキスばかりで触れてくれない。
嬲り殺されるような感覚に、どうしよう、と思う。

「腰、揺れてんな」

「あ、もう、いきたい」

「いいよ。そのまま。こっちいじってやるから」

放ったらかしにされていた胸を指先で摘まれ、首を左右に振りながら彼の腹に擦りつけた。
ああ、いけないことをしている。こんなのだめだと思うのに止まらない。

「みかみ」

「気持ちいいな?」

囁かれ、何度もうん、と頷いた。
彼の頭を包むようにしながら背中を丸めて二度目の精を吐き出す。
ぐったりと後ろに倒れ込みそうになるのを三上の腕が受け止め、かくん、と首が落ちそうになった。

「まだだぞ」

お互いの腹に放たれた精液を掌につけ、達したばかりで敏感になった下肢をやんわりと握られる。

「も、もういい。苦しい」

「俺も苦しい」

腰を押し付けられ、ああ、そうだと思い出す。

「な、舐めていい……?」

「だめ」

「なんで」

三上は片腕を僕の腰に回しながら支え、片手で自身をとりだし、またやんわりと反応する中心に擦りつけるようにした。

「あ、あ……。これ、やだ」

「なにが嫌?」

「こんなのすぐいく」

「じゃあお前が触って」

耳元で囁かれ、脳味噌に蜂蜜を流し込まれたようになった。
もう力が入らない両手で互いを包み込む。二人の熱が溶け合って、一緒になる感覚に生理的な涙が頬を伝った。

「ん、ふっ……」

「ほら、ちゃんとしろよ。俺もよくしてくれるんだろ」

「うん、うん」

何度も頷き、手中で質量を増すそれに指を這わせた。
背中を引き裂くような快楽は苦しさと紙一重で、ぽろぽろと涙が溢れる。

「苦しい?」

耳朶を甘噛みされ、こくこくと首を振る。

「そりゃーよかった」

昏い喜びを孕んだ声色にまたぞくりと腹の奥が燻った。

「みかみ、みかみっ……」

荒い呼吸と一緒に名前を呼ぶたび、首筋を吸われ、肩を噛まれ、なのに痛みすらたまらなくなる。

「っ、泉」

苦しそうに息を詰めるのがわかり、涙でぐしゃぐしゃになった顔を寄せた。

「名前呼んで」

鼻先をつけながら懇願すると、息だけで真琴、と呼んでくれた。
至近距離で見詰め合うと、性欲なんてありません、と冷め切った目が欲情に燃えていた。
眉間に皺を寄せ、本能を求める様は獣のようで、セックスとは命を削り取るものだと知る。

「そのまま」

いい子、と誉めるように背中を撫でられ、自分の限界も考えずに手の動きを速めた。
あ、このままでは先にいく。
気付いたときには遅く、水に近いものを放ち、ぐったり寄り掛かるようにすると程無くして掌で彼も達した。
ぼんやりと手を眺め、勿体無いのでべろりと舐めると手首を掴まれ首を左右に振られる。

「それはやめろ」

「なんで?もったいないから……」

「随分煽るじゃん」

とん、と胸を押され、ベッドに倒れ込む。

「まだ終わんねえぞ」

三上は暑いと言いながら腕につけていたゴムで前髪を後ろでくくった。
色気にぞくりとし、角砂糖がほろほろと崩れるように自分の輪郭がわからなくなる。

「……最高」

思わず言葉が口をついて出てしまい、だけど何かを考える余地は残っていない。
もう体力も気力も限界だけれど、彼に触れられると素直に反応してしまう身体が憎い。
もういっそのこと、すべてを食べてほしい。人差し指を鎖骨に這わせ、引き締まった身体をなぞりながら思った。

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