Stand by me
五月だというのに三十度を超えた今日は阿鼻叫喚で授業にならなかった。
シャツの釦を数個外し、ノートを団扇代わりにしながらあーだの、うーだの、呻き声を上げる生徒で溢れ先生も今日ばかりは仕方がないと溜め息を吐いていた。
早くプールの授業が始まってほしいと言うクラスメイトの会話が耳に入り、死んでもごめんだと心の中で返事をする。
「月島、また月曜日な」
白石に言われ右手を挙げる。こんな暑さの中体育館で部活動なんて自ら進んで拷問を志願する変質者のよう。
暑かろうと寒かろうと厳しい練習は毎日ある。大変だねと言うとバスケが好きだから耐えられると笑う白石が眩しいと思った記憶がある。
すごいな。そんなに好きなものを見つけられるなんて。自分にはまだ好きだから苦労もへっちゃらと言えるものがない。
勉強は好きだけど、それは生きる手段として有効だから。わかりやすい評価が与えられ、自分の立ち位置を客観的に判断できる。
全国模試なんていい例だ。あなたは同世代の中でこれくらいの順位ですよ。ヒエラルキーの中でいえば先端の方ではありますがもう少し努力すれば頂点に立てるかもしれません。
正答率が低い問題ではありますが、入試で重要な部分ですから理解力を深めましょう。そんな簡単なコメントと共に自分に足りないものを提示してくれる。
簡素なランク分けをされて、その箱の中に納まっていられる自分に安心する。
小学生の頃、テストでいい点数をとると両親も祖父母も先生も頑張ったんだね、努力したんだね、と誉めてくれた。秀でたなにかがなく、兄の背中に隠れていた自分にとっては衝撃で、なにもないからこそこれで勝負しようと決めた。
新しい知識が増えるのは楽しかったし、外で遊ぶより机に向かった方が性に合っていた。
そうやっていい点数を取り続け、なのに両親は段々心から喜ばなくなった。
お外で遊ばない?楓と一緒にサッカークラブ入らない?やりたい習い事はない?お友達とは遊ばないの?
歓喜より戸惑いの感情が大きいことを知り土台がぐらついた。
兄は勉強もせず、遊んでばかりで家の手伝いも放り投げ毎日叱られる。なのに両親は兄のような行動を子供らしいと言い同じようにしてみたらどうかと提案する。
勉強が得意というのは大きな強みなのに。特権階級を得てこその人生ではないのか。搾取される側に回るより、する側になった方が楽に生きられるのに。
どうしてだろう。兄より自分の方が勝っているし、優秀なのに、なにもできずに叱られてばかりの兄はみんなに愛されている。
学校では男女問わずいつも人の輪の中心にいて、大きく口を開けて笑って、常に楽しそうだった。
兄弟なのにあんま似てないのな。家に遊びに来る兄の友人に言われ続けた。
頭悪いくせに。ちょっと運動できるくらいしか取柄がないくせに。
苦労もせずに無条件で好かれる兄が嫌いで、正当な評価を与えない大人はみんなクズだと思った。
お兄ちゃんなんか大嫌い、一人っ子ならよかった。
喧嘩した拍子に言い、腹を立てた楓ちゃんと取っ組み合いをしたこともある。
兄も可愛くない弟だと毎日言ったくせに、僕が同級生や上級生にいじめられたり、からかわれたりすると全力で怒った。
いじめなんて組織に所属すれば必ず起こりうる。人間だけではない。動物だって同じだ。群れの中で弱い者はストレスの捌け口にされ、食糧を与えられず、生きる価値なしと判断され、そうして群れについていけずに餓死をする。
小学生の強みは大きな身体や無鉄砲な強引さや、運動神経の良し悪し。それのどれも持っていない自分はいじめるには格好の餌食だ。
こんな低俗で未熟な行為も必要悪なのだろうと耐えていたが、楓ちゃんは俺の弟をいじめるとなと声を荒げて僕を背中に隠した。
馬鹿だな。こんなの黙って受け流せばいいのに。反応すると益々面白がるのに。
守ってくれなど頼んでいない。可愛げなく何度言っても楓ちゃんはやめなかった。暴力沙汰になって教師と親同士で頭を下げ合う光景を何度も見た。
こんなに問題をややこしくさせて馬鹿みたい。楓ちゃんがしゃしゃるから面倒なことになる。家では楓ちゃんだって僕に意地悪するし、すぐに頭を叩くくせに。
変なの。可愛くない弟、大嫌いな兄、そうやって毎日喧嘩しているのに。
兄が東城へ行くと決まったときは心底安心した。邪魔な存在が漸くいなくなる。疑似一人っ子を満喫するのだ。
だけどいなくなって気付いた。共働きの両親がいない家の中は広く静かということに。
薫、と呼ぶ声がどんなに自分を安心させていたか。
楓ちゃんに会いたい。楓ちゃんがいないと寂しい。
楓ちゃんの背中は自分が思うより大きく、目の前から太陽を奪われた気分になった。
そうやって今となっては立派なブラコンに変貌を遂げ、好きなものはと聞かれると唯一兄、と言えるまでになってしまった。
でもそれじゃあだめだ。自分は極端な人間なのでもう少し視野を広くし、興味を持てるものを探さなければ。
でも運動は元々の才能のなさで上達しないし、美術関係もまったくだめ。絵心のなさを白石に爆笑されたこともある。書道は楽しかったが手本と同じようにきっちり綺麗に書くことしかできない。
他になにかあるかなと考え、自分がとんでもなくつまらない人間だということに気付いた。
小さく吐息をつき、傾きかけた太陽を見て鞄を持って立ち上がった。
とりあえず落ち着くためにも帰ったら勉強しよう。週末だから同室者はどこかに泊まるだろうし、ゆっくり静かに過ごせるだろう。
下駄箱で靴を履き替え、どの教科にしようかなと考えていると、背後からあ、という声と共に肩を掴まれた。
振り返ると同室者とその友人数名がいて、なんの用だろうと身構えた。
「京のお友達!」
「…別に友だちじゃありませんけど…」
「え、そうなの?まあ、どっちでもいいけど。今日暇?」
「おい」
香坂が友人の肩を掴み制した。
「いいじゃん!他にいないしさ」
「いるだろ他にも。俺の兄貴とかその周辺とか」
「絶対だめ。結果が見えすぎて地獄」
なんの話しかわからず下から窺うようにする。
「ねえ、合コン行かない?」
「…合コン?」
「そう!やっと約束取り付けたんだけどこっち側一人欠員が出てどうしようかと思ってたんだよ!」
なるほど。それに香坂さんを連れていけばそりゃ結果は見えている。
幼い子どもとプロスポーツ選手が対決するようなものだ。女性は正直だし、好みはあるだろうが香坂さん以外の全員がただの引き立て役と化してしまう。
それに比べ自分は丁度いい人間だ。ぱっとしないし、こなれた雰囲気がなく芋くさいと言われる。素材はいいんだけどねえ……と言われる度、その空白に残念感がたっぷり詰まっているのを自覚している。
この場合、自分が引き立て役になるのだろう。別に構わないけれど。
いつもなら何故僕がそんな低俗な集会に参加しなければいけないのだと小馬鹿にするところだが、自分はなにも持っていないと感じた直後だからか、普通の高校生の楽しみを経験してみようかという気になった。
「…いいよ」
「マジ!サンキュー!月島意外とノリいいじゃん!」
万歳しながら前を歩き出した名前も知らない同級生の背中を見て、判断を間違ったかと早速後悔した。
「…らしくねえな」
隣に並んだ香坂に言われ小さく舌打ちした。
「大嫌いだろ?合コンとか」
「…気分転換だよ」
「へえ。夏を目前にお前も彼女がほしくなったか」
「そんなんじゃない。ただ、香坂さんが参加したときの場の雰囲気を察してそれはあまりにも可哀想だと思っただけだよ」
「いいんだよ。面倒くせえのは全部兄貴に任せれば」
投げやりな言い方に、香坂にとっては不本意な合コンらしいと知る。
まだ楓ちゃんが好きなのだろうか。手に入らないからこそ焦がれて取り返しのつかない場所まで辿り着いたのだろうか。
ならば尚更、次の恋というものをした方がいいと思う。自分は経験がないのでわからないが、恋愛の傷は恋愛で補うと言うではないか。
自分なんかに言われたくないだろうから口は挟まないけれど。
「あー…ダル」
駅に向かう途中も、彼はぶつぶつと文句を言い続けた。
「誰のための合コン?」
「あいつら全員。彼女できた奴が抜けた」
「へえ。みんな彼女がほしいんだ」
「そりゃな」
当たり前でしょう、といった含みで言われ、彼女がほしいと一瞬でも思ったことがない自分はやはり欠陥人間なのだと知る。
「好きな人じゃなくて彼女がほしいの?」
「どっちもじゃねえの?知らねえけど」
「君は?好きな人ほしいと思うの?」
「…なに。今日はぐいぐいくんな」
「別に…」
運動も美術も音楽も興味なしとくれば、もう思春期男子なら当然興味があるであろう女性を対象にしてみたい。
恋がしたいなんてお花畑なことは言わないが、自分がどれくらい女性に対して好意を持っているか確かめたかったのかもしれない。
「…まあ、ほしいから作るとか、そういうことじゃねえしなあ」
「ふうん」
いまいちピンとこず、曖昧に返事をした。
それなら何故合コンに行くのだろう。ほしいから作るためにそういう会を催すのではないのか。よくわからない。効率が悪いので、世の中全員お見合い結婚にすればいいとすら思う。
はしゃぐ彼らを観察しながらカラオケ屋に入り、香坂と並んで一番端っこに着いた。
香坂以外やたらテンションが高いので、これはそんなに興奮する出来事なのかと首を捻る。
その内他校の女子がやってきて、順に自己紹介を済ませた。
短いスカートから覗く細い脚や華奢な肩、綺麗に整えられた容姿、ああ、女性ってこういう生き物だったなあと思い出す。
男ばかりに囲まれて生活しているのですっかり忘れていた。
注文した烏龍茶のストローを吸い、観察してわかったことは少なくとも二人は香坂狙いだということ。
隣の彼を眺め、なにがいいのだろうと思う。
顔か、顔なのか。そりゃ、こんな短時間で人を判断するなら顔や雰囲気しかないだろうが、こいつ性格最悪ですよー、しかも僕の兄に言い寄る変態ですよー、と言ってやりたい。
ぼんやりと空気のような存在感で時間を潰し、好き勝手席移動が始まったので香坂の隣を空けてやった。すぐさまこの場で一番綺麗な子が着き、楽しそうに談笑が始まる。
「…名前、何君だっけ?」
とん、と腕を叩かれ隣に視線を移す。ボブの黒髪の片方を耳にかけた、平均的な顔の子だった。
「月島」
「下は?」
「薫」
「可愛い名前だね」
「その褒め言葉はあまり嬉しくないな」
「あ、そっか、ごめん。でも響きが綺麗だし、いいと思うよ」
「ありがとう」
社交辞令の笑顔を張り付け、香坂があー、ダル、と言っていた意味がわかった。
食指が動かない人間のご機嫌取りなんて最も面倒だ。わからない。合コンのなにが楽しいのか。そもそも食指が動かない時点で問題ではないか。
早々にシャッターを下ろさず、少しは自分から進んで行動してみよう。
よし、と決意し、隣の子を上から下まで眺めた。女の子だなあ、という感想しかない。
こういう場合どこを見ればいいのだろう。見た目は好きでも嫌いでもない。体系も別に気にならない。性格はよく知らない。だめだ、興味が持てない。
ふっと溜め息を吐くと腕に指が絡まり、他の人に聞いたけど頭いいんだってと問われた。
「まあ、人よりかは」
「学年で一番って聞いたよ」
「そうだね。でも全国では一番じゃないから」
「えー、全国で一番なんてすごいところ目指してるんだね」
目指しているわけではない。上の中くらいに属していれば満足だ。でも学年で一番だからなんだという気になる。こんな狭い箱の中の天辺にいたって意味がないと思うから。
「私勉強だめー。よくわかんなくてついていけない」
そりゃ、努力しないとできないでしょうよ。勉強はやればやっただけ身になる。地頭の良さという違いはあれど、やった奴がいい点数をとる。それが当たり前。
「…少しやればきっとできるようになるよ。君は頭の回転が早そうだから」
「ほんとー?そんなこと言われたの初めて」
でしょうね。僕も思ってないよ、そんなこと。
胸の中に毒がじわじわ滲み、張り付けた笑顔が引きつる。
いかんいかん、女性は割れ物注意のシールが張られているのだ。優しく梱包材で包んであげないと。一応自分も男なので、紳士的な態度というものを心掛けなければ。
ちらっと前方の香坂を見ると、ソファの背に腕を伸ばしその先で女性の肩をがっちりと掴んでいる。
あの野郎、先ほどまで散々文句を垂れていたくせにこの変わり身の早さ。
なんだかんだ言って、目の前にご馳走があれば飛びつくのが男の性なのだろう。
「ねえ、香坂君ってモテそうだね」
「あー…どうだろ。あまり彼のこと知らないんだ」
「友だちじゃないの?」
「同室なだけ」
「そっか。タイプが違うもんね」
同じにされてたまるか。
あんな下半身で生きてるような猿と自分が同じカテゴリーと判断されたら死にたくなる。でも結局あちらが勝ち組でこちらが負け組なのだろう。女性関係という枠の中なら。
「…君も香坂みたいなのが好き?」
顔を斜めにして覗き込んだ。
「…どうだろ。カッコイーとは思うけど、私はもう少し誠実そうな人が…」
長い睫で縁取られた瞳でちらちらと上目遣いをされ、ああ、これが女子力というものかと冷静に分析する。話しには聞いていたが、実際自分がやられると確かに可愛らしい。
造りのなにもかもが男とは違うので、女性という別の生き物に感じる。
「つ、月島君はどんな子が好みなの?」
「そうだなあ…」
顎に手を添えて考えたがまったく思い浮かばない。好みなんて考えたこともなかった。偉そうに語れるほど女性を見てないし、芸能人にも興味がない。
「…元気で明るい子が好き」
結局兄の美点を上げた。
兄が好きならそれと同じような女の子も好きだろうという胆略的な思考だ。
「なんか意外。大人しい子とか、清楚な子とかが好きなのかなって。ほら、肉食女子は嫌だって言う男の人多いでしょ」
「はは、それは男の方が悪いよ」
だって本来男や雄は必死にアピールし、女性や雌が選ぶのだ。例外はあるがだいたいそうやって自然界は成り立っている。
あちらから許可が下りてようやく子孫を残せる。肉食女子に言い寄られたらそれはもう繁殖相手に選ばれたという証拠で、大手を上げて喜ぶ場面だ。
なにを偉そうに上から肉食だの、草食だのと言うのやら。こちらは選ばれる側で、あちらが選ぶ側。繁殖以外の行為を尊ぶせいで忘れがちだが人間だって動物で、そうして繁栄を続けてきたのではないか。
「なんか、月島君って珍しいタイプ…」
女の子が俯いた隙に頭の中であー、早く帰りたいと悪態をつく。
今日の自分はどうかしてた。暑さのせいか、自虐的になったせいか。
とりあえずこういう場は楽しめないとわかっただけでも成果だろうか。後は適当に抜けても文句はないだろう。
問題はどう切り抜けるかだが、存在感の薄い自分はわざわざ断らずともいつの間にかフェードアウトで十分だ。
頭の中で算段していると、ポケットに入れていた携帯が鳴った。ディスプレイには楓ちゃんの文字。隣の子にちょっとごめんねと断って部屋を出た。
廊下の壁に背中を預けながら電話を耳に当てる。
「もしもし」
『お兄様だけど、お前今部屋?』
「いや、ちょっと…」
『なんか騒がしいな。珍しく遊びに出てんのか』
「香坂の友だちに合コンの人数合わせに駆り出されただけ」
『はあ!?なんでそういう楽しそうなことにお兄様を誘わないの!?』
「香坂さんがいるじゃん…」
相変わらずの兄に呆れた溜め息を吐く。
『それはそれ、これはこれ』
「弟君が香坂さん呼べばいいって言ったから、それはちょっとなあと思って僕が代打に出たんだよ。感謝してほしいね」
『う…それは、感謝、します…』
「自分がそうやってふらふらしてると香坂さんにも同じことされるんだからね」
『だって、どうせ俺が合コン行ったってそんな相手にされないけど香坂は違うじゃん!絶対お持ち帰りできちゃうじゃん!心配の度合いが全然違うじゃん!?』
「いや知らんけど、不誠実なことをすると自分にツケが回ってくるって言ってんの」
『薫はすぐ正論で俺をいじめるー』
「後でわんわん泣くはめになるのが楓ちゃんだからだよ」
『うわーん、これだから出来のいい弟はー!』
遠慮がちに扉が開く音が聞こえ、先ほど話していた女の子が顔を出した。
「…楓ちゃん、用がないなら切るからね」
『あ、ちょっと、こら!』
楓ちゃんが何かを言い終える前に電話を切った。どうせ大したことじゃない。
携帯をポケットにしまうと、女の子が隣に並び、彼女も壁に背を付けた。
「どうしたの?」
「…なんか、王様ゲーム始まっちゃって」
「…ああ、それまだやってるんだ」
「まあ、定番だしね。香坂君がキスを命じられてたよ」
「へえ…」
さっき知り合った人間と口を合わせてなにが楽しいのか。普通なら楽しいと思える場面なのだろうか。理解できずにもやもやする。
「…ねえ、聞こえちゃったんだけど、楓ちゃん、って彼女?」
ぎょっとし隣を見た。名前だけ聞くとそういう風にとらえられるのだろうか。自分がちゃん付けして呼んでいるのも悪いのだろうが。気持ち悪い勘違いに勘弁してくれと思う。
「兄だよ」
「へえ。楓って名前なんだ」
「そう。楓に薫。親のネーミングセンスのなさに呆れるよ」
「いいと思うけどなあ」
くすくす笑われ、名前ごときにこだわっているのもおかしな話しだと気付く。
「仲いいんだね」
「昔は悪かったけど、今はそうでもないかな」
兄を言い訳にして帰ろうか。急用とかあからさまな嘘だけれど。
「戻ろうか」
「あ、えっと、でも戻ったらゲームに参加させられるよ?」
「そういうのは香坂に任せれば大丈夫」
既視感を感じ、香坂が兄貴に任せろと放り投げたときの感情を理解した。
面倒は嫌いな奴に押し付けるのが一番だ。
拝み手で部屋に戻り、さっと鞄を持って適当に帰ろう。そう思った瞬間、勢いよく扉が開いて香坂がこちらに近付いた。
「どうし、た」
腕を握られ、鞄を押し付けられる。
「あ、ちょっと…」
女の子が手を伸ばしたがそれよりも早く香坂が歩き出した。
後ろを振り返り、なんだかよくわからないけどごめんねと謝罪するポーズをとる。
前を歩く彼の背中をぼんやり眺め、駅の前に来たところで漸く腕を放してくれた。
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