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「あー、あー…」
茜は自分の喉を擦りながら無意味な声を出している。
「なんだ?」
水が入ったペットボトルをベッドサイドに置きながら振り返った。
「声がちゃんと出ているか確かめたんだ」
「ああ、いい声で鳴いたから?」
「だ、誰につきあってこんなことになったと思ってる!」
「俺だなあ」
「偉そうに言うな!」
「いやー、今日の茜は本当に可愛かったな。特に風呂場でやったときが――」
しみじみを感想を言いたかったのに思い切り肩を殴られた。
「も、もう二度とこんなことごめんだ!」
「…じゃあ今度は茜が食べてみるか」
「そんなことをしてみろ。必ず殺す」
本当にやりかねない瞳を向けられ、嘘ですと謝った。
「…でも、マジで助かった」
彼の隣に潜り込み、腕枕をするように頭の下に手を差し込んだ。
「お前がいなかったらと思うとぞっとする。犯罪者になるところだった」
「……まあ、悪いのはお前ではなく有馬だしな」
「他の奴適当に襲わないでちゃんとお前の部屋に来た俺偉いだろ?」
「そんなの当たり前だ!」
「そうだな、当たり前だよな。そう思う関係でいられるのが嬉しいってことだよ」
むにっと頬を軽く抓ると、茜ははっとした後恥ずかしそうに顔を俯かせた。
自分の恋人は世界一可愛い。異論は認めない。
世の男の大半がそう思っているだろう。自分のところが一番だと。だけど、これは本当に国宝級なのでは。今時処女にもないくらいの奥ゆかしさがたまらない。
そんな彼が乱れるからこそ、こちらも我慢がきかなくなる。だから自分が暴走しがちなのは彼の責任でもある。
「万が一、本当になにかの事故で万が一茜が変になったら俺のところに来いよ?有馬先輩とかで済ますなよ?」
「気色の悪いこと言うな」
げんなりした顔にふっと笑い、額に軽くキスをした。
「明日はお言葉に甘えて生徒会は休もうな。看病するから」
「…そうだな。一日寝れば大丈夫だろうが、仕置きとしてしばらくはあいつ一人でやってもらう」
「おー、こわ」
睦言を言いながら彼の細く黒い髪を撫でた。
無理をさせた身体を擦ると暫くして寝息が聞こえた。
いつも皺がよっている眉間から力が抜かれ、眉が下がっている。ぐっと幼くなった表情にたまらなくなり、またちょっかいを出しそうになった手を引っ込めた。
END
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