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自分はへたれだし、神谷先輩より優位に立つことはこの先もないと思う。
けどそれは、年上の恋人を持った宿命だと思う。惚れた弱味もあるが。

「柴田やって笑っとるけど高杉先輩に言われたら絶対やるやろ!」

「やんねえよ」

「別れないためなら土下座までするんやから、絶対やる!」

せめてもの反抗だ。

「へえ。柴田は土下座までしますか。高杉にそんな価値ありますかね?どこがいいのかさっぱり理解できません」

「それは潤も同じじゃないすか。潤なんて見た目しかとりえないし」

「…まあ、確かに。神谷と違って頭も悪いですしね」

有馬先輩がすんなりと認めたので、これは確かに潤は苦労しているかもしれないと思った。
想像以上に厳しい。見た目が美しいのはとても貴重だし、男なら尚更なので最大の魅力でもあると思う。それ以上を望むのはおこがましいと思うが、有馬先輩はそうではないらしい。

「かばってやれよ。潤が可哀想だろ」

「事実ですから」

「ま、まあ、あれだけ見た目がええのも才能ですよ」

何故自分がフォローしているのかはさて置いて、天は二物を与えないと言うし、一つでも人より勝るものを生まれ持っているのは羨ましいことだ。
当たりくじをひいたようなものだし、潤の場合はその他をカバーできるほどの見た目なのだからそれでいいのだ。

「才能ではなくご両親のおかげです。それに胡坐を掻いて努力をしないからいつまで経っても頭の成長がないんです」

正論だ。散々人を物のように扱う潤には有馬先輩くらい厳しい人が丁度いいのかもしれない。
恋人や夫婦はうまいこと、マイナスとプラスを補うようにできていると思う。

「俺は別にゆうきに頭よくなれとは思わねえけど。あんだけ美人ならそれでいいだろ」

「木内、見た目は劣化するものですよ」

「ゆうきはおじいちゃんになっても美人なんだよ」

馬鹿。ゆうき馬鹿。もはや病気の域だ。
この人ならゆうきが卒業後自分の城に軟禁しそうだ。
働かせず、家事もさせず、ただそこにいればいいと。ゆうきがそれに甘んじるとは思わないが。
頭のネジがぶっ飛んでるのはいつものことだが、ゆうきのことになるとネジが外れすぎて制御が効かなくなるのだろう。
好奇心に任せてゆうきに手を出した日には本気で消されるかもしれない。

「楓なんて見た目も頭も悪いだろ?」

柴田がうんうんと頷いている。
別に見た目は悪くないと思うけれど。ゆうきに比べれば劣るが、ゆうきが突出しているだけだ。

「あ?性格がいいだろ」

「性格いいか?」

木内先輩に視線で問われ、曖昧に頷いた。友達想いだし、自分は楓が好きだ。周りからも好かれている。

「性格いい奴は秀吉をパシリに遣わないんじゃないすか?」

言われてみればそうだ。

「うるせえな。秀吉は別枠なんだよ」

「さっきと言ってることちゃいますやん!ぶれぶれですよ!」

「お前らには楓の魅力は一生わかんないの」

わかりたくもないけれど。友人としてはとてもいい奴だが、色気など皆無だしだらしないし、突っ走るし。
色好みの香坂先輩を堕とすなにかが楓にはあるのだろうか。

「いやー。俺百万やるって言われても月島とはやれないっすわ。あ、潤も無理ですけどね。真田なら頑張ればなんとか…」

「俺は高杉なんて一千万って言われても無理」

柴田と香坂先輩の小競り合いが始まった。
誰だって恋人以外は無理だろう。女性ならばまだしも。
ゆうきや潤の見た目がいくらよくても、自分だって無理だ。
柴田は頑張ればと言うが、頑張っても無理。そもそも頑張ろうという気にならない。
世界が滅ぶと言われても無理。
下らない言い争いをまだしている二人を横目に、木内先輩と有馬先輩は他の話しをしている。
抜け出すなら今がチャンスではないだろうか。
じりじりとソファの端に寄って素早く立ち上がり扉まで走った。

「あ!秀吉が逃げた!」

柴田の声が聞こえたが、扉を閉めて楓の部屋まで全力で走った。
暇潰しに今度は寮内で鬼ごっこをするとか言い出しそうなので、香坂先輩の部屋から離れても走った。
部屋につき、肩で息をしながら入った。

「うお!なんだよ秀吉。ノックしろよ。びっくりしたなー」

呑気な楓の声に殺意が湧く。お前が面倒を押し付けたせいで自分は狼の巣に飛び込んだんだぞ。
言いたいが息が切れて上手く話せない。
部屋にはいつもの見慣れた面子が揃っていた。
あちらも集会、こちらも集会だ。

「秀吉汗かいてる。どうしたの?」

蓮に問われ、なんでもないと首を振る。粗暴な先輩に囲まれていたせいか、蓮がいつもよりオアシスに思える。

「楓、携帯」

ポケットから取り出して放り投げた。

「おー、サンキュ」

「楓ー。また秀吉に頼んだの?」

蓮の説教が始まる気配に楓はしかめっ面をした。
これは暫くお説教タイムだ。
自分はソファに座り、景吾のものであろう炭酸飲料のペットボトルを奪って飲んだ。

「どうしたの。誰かに追われてたの?」

景吾に問われ、今までの経緯を話すと、それは大変だったねと同情してくれた。
こちらは香坂先輩の部屋とは違って穏やかでゆったりとしている。
木内先輩の愛しのゆうきも、あちらで散々話題に出されたなど想像していないだろう。
だとしても興味がないと言い捨てそうだが。

「あー。落ち着く。先輩たちと関わるのほんまに嫌やわー」

ぼそりと呟くとゆうきがこちらに顔を向けた。

「木内先輩に言っとく」

「言うな!絶対に言うな!」

がっちりと肩を掴んだ。
ゆうきはきょとんとした後頷いた。
余計なことを話されたら次会ったときが更に怖い。

「楓ー。ほんまにもう香坂先輩の部屋にお使いはせえへんからな」

未だ説教をされている楓に向かって叫ぶ。
もし次があるとしたら、今度は三上も連れて行く。絶対に嫌だと言われるだろうが引き摺ってでも連れて行く。
三上を生贄に自分はさっさと退散するのだ。

「じゃあ次はゆうきに頼む」

「楓!僕が言ったこと聞いてないでしょ!」

楓は更なる説教の種を自分で撒いて自爆した。
楓の教育は蓮に任せるとして、自分はゆうきと景吾と話して擦り切れた精神を回復するよう努めよう。

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