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「僕と有馬がそんな関係になるわけないだろ?」

責めるようにならないよう、できるだけ優しく言った。

「…そうなんだけどよお…まあ、有馬先輩じゃないとしても、誰かにとられたらどうしようかと思って」

こんな弱音を吐く柴田は珍しい。
余程リアルな夢で恐ろしかったのだろう。
夢の中の僕はどんなあられもない姿をしていたのかと思うと、今すぐ忘れて欲しいけれど。

ぼんやりとする柴田の頬を軽く抓った。柴田は驚いたようにこちらに視線を向ける。

「痛いだろ?」

「そりゃな」

「じゃあ今が現実だな」

「…まあ、そうだけど」

「僕はお前の隣にいるよな」

「…ああ」

「どこにも行かない。お前が一番よくわかっているはずなのに、そんな風に思うなんてお前らしくないじゃないか。もっと不遜でいてくれないと僕も調子が狂う」

抓った頬を、今度は片手で包んだ。
不安に揺れる柴田が可愛らしくて、可哀想で、見ていられない。
たかが夢に足元をぐらつかせるほど、彼は日頃から小さな不安を抱えていたのかもしれない。
言われないとわからないくらいに傲慢で、自己中心的で、自信に満ちていて。
僕ばかりが求めているようで、彼が負担に思わないか心配だった。
離れていったらどうしようと不安になるのはこちらの方で。

「正夢にはならないから安心しろ」

「茜…」

柴田は俯き数秒瞳を閉じ、開けたときにはいつもの彼に戻っていた。
微笑んで頭を優しく撫でられ、うっとりとしそうになる。
ぐっと腕を引かれ、よろけるように柴田に凭れ掛かった。
腰を支えられながら柴田に跨るような体勢になる。

「もう一回言えよ」

「なにを」

「どこにも行かないって」

「…言わない」

「なんで」

「お前が普通に戻ったから」

「普通じゃない。今が現実だけど、これも俺が見てる夢で、やっぱり有馬先輩の方が現実かも、とか思う」

「そんなにトラウマか?」

「かなりな。すげーリアルだったし、有馬先輩だしな…」

だから有馬に関わることすべてろくでもない結果になる。
あいつは人を不幸にして回る悪魔だ。
今回の件は有馬には非がないし、柴田が勝手にみた夢なので責められないけど。

柴田の短い髪の毛を撫でてやる。
こんな風にゆっくりと触れ合うのも久しぶりだ。
実際は一週間も経っていないかもしれないが、数日空いてしまうと柴田の輪郭を探して心が煩くなる。

「困ったな。どうしような」

我儘をいう子どもを嗜めるように微笑んだ。

「お前が俺のものだって確かめさせろ」

「確かめる…?」

「夢の上書きしてくれよ。夢の中で有馬先輩にしてたこと、俺にして」

あんぐりと口を開けた。まさかそんな要求をされるとは。
返事ができずにいると、柴田は僕の右手をとり手の甲に口付けながら視線を絡ませてくる。
その目に見られると辛い。胸が痛いくらい締め付けられて、彼が望むのならばと流されそうになる。

「いいだろ?」

耳元で囁かれ、輪郭を舌でなぞられる。
最初から答えなどわかっている素振りが悔しくて首を振った。

「で、できない。そんなこと…」

夢の僕がどんなことをしていたのかわからないし、柴田がショックを受けるほどひどいものだったに違いない。
現実でそんなこと、恥ずかしくてできるわけがない。
いつもいつも無茶な要求をされる。そのたびにどれほど羞恥に耐えているのか、理解しろとは言わないが、要求のレベルを下げてくれてもいいと思う。

「できる」

「できない」

「大丈夫。な?」

パジャマの裾から手を差し込まれ、腰から脇まで撫でられる。
抵抗したいのに、柴田の腰を跨いだ格好なので力が入らない。
ぐっと肩口を押し返したが、力で敵わないとわかっている。

「ぐ、具体的に言ってみろ。できるかできないか決めるのは聞いたあとで…」

流されそうになるのを堪えて柴田の両頬を包み、悪戯されないようにした。

「具体的にって…思い出すの嫌なんだけど」

「掻い摘んで話せばいい」

「…じゃあ…俺の上に乗って」

「…乗ってるじゃないか」

「違う。騎乗位」

「きっ…」

直接的な言葉に耳まで熱くなる。
したことがないわけではないが、あれは好きではない。
ただでさえ恥ずかしいのに、更に恥じを重ねて自分が動かなければいけない。
いつも柴田に任せてされるがままなので慣れないし、上手にできない。
何度身体を重ねても未だにその行為自体に慣れていないけれど。
返事をためらっていると、するりと背中を撫でられた。油断していたので腰が跳ねる。

「柴田、待て」

「待てない」

「で、でも、月島君が…」

薄い壁の向こうでは同室者が眠っているだろう。
そんな声を上げて起こしてしまったら申し訳ないし、その声の主が自分だと知られたら登校拒否したいくらいに落ち込む。

「大丈夫だって。ちょっとの物音じゃ起きねえから」

「でも、でも…」

「でも、はなし」

否定の言葉を話せないように唇を塞がれる。
甘く舌を吸われると、脳味噌がとろんと溶けてしまう。そして正常な判断ができなくなるのだ。
たかがキス一つだけで。慣れない身体を恨めしく思う。
唇を放すと眼鏡を奪われた。

「…柴田、あの…」

「大丈夫だから」

なにが大丈夫かわからないが、魔法のような言葉に従ってしまう。

パジャマのボタンをすべてあけ、隙間から覗く胸を指と舌で弄ばれる。
柴田の両肩をぎゅっと掴み、奥歯を噛んで声を必死に堪えた。
じわりと体温が上がり、身を捩ればさらにきつく甘噛みされる。

「…っふ、あ…」

執拗に胸ばかりを愛撫され、へたりこみそうになるのを柴田の腕で支えられる。
顔が離れたと思えば、指を口に突っ込まれ、濡らせと命令される。
これをきちんとしないと自分が辛いので、夢中になって指を舐めた。
引き抜かれると同時に下着の隙間から手が侵入し、奥まった場所を撫でられる。

「や、やめ…」

まだ心の準備ができていない、なんて言えば処女でもあるまいしと笑われる。
周辺を指で円を描くように撫で、小さく息を漏らしたタイミングで指が侵入してきた。

「っ、ひ――」

異物を受け入れる気持ちの悪い感覚に喉がしなる。
息を詰めてしまい、呼吸をしろと唇を撫でられた。

「きつい?」

こくこくと頷くと、もう一本増やされた。
辛いと言っているのに聞いてくれないらしい。

「もう少し我慢な?」

ひどく優しく囁かれ、頬に軽いキスをされる。

「あ、あ…」

指の温度と自分の中が馴染んできた頃、タイミングを見計らった指が一番気持ちいい場所を擦り上げた。

「……っく」

「いい?」

問われて、首を横に振った。
気持ち良くない、という意味ではなく、答えられないという意思表示だ。

「ちゃんと言えよ」

意地悪をされるのはいつものことで、じわじわと足元から湧き上がる羞恥に耐え続けなければならない。

「……いい」

小さく呟けば、指の動きが大胆になる。
自分の身体なのに、自分よりも柴田の方がはるかに知っている。
それが怖くて、別のなにかに支配されているような感覚がして、快感と共に恐怖が押し寄せる。

「柴田…」

不安を紛らわせるために名前を呼んで、首にしがみ付いた。
怖い、怖い。
顔を歪ませると、あやすようにまたキスをくれる。
舌を激しく絡められ、あちらこちらからの快感にわけがわからなくなる。
酸素が足りなくて頭がぼうっとして、なにも考えられない。

一度指を引き抜かれ、パジャマと下着を脱ぐように言われた。
黙って頷いて、柴田の上から一旦下り、下半身の衣服を取っ払う。

「来い」

伸ばされた手を握り、恐る恐る跨った。

「…怖い…」

「大丈夫だから、ほら…」

腰を支えられ、ゆっくりと下ろされる。
柴田の首に腕を回してぎゅっと瞳を閉じて、来るであろう苦痛に身構えた。

「っ、い、やだ…」

先端がゆっくりと入ってきて、一気に汗が浮かぶ。
不快感と苦痛がおさまるまで少しずつ、少しずつ時間をかけて、すべてをおさめるころにはそれだけでぐったりと身体から力が抜ける。
凭れるように体重を預け、ひっきりなしに浅い呼吸を繰り返す。

「大丈夫か?」

「…大丈夫じゃない……この体勢、嫌だ…いつもより…」

「奥にあたる?」

悪戯っぽく囁かれ、耳朶を噛まれた。

「きつ、い…」

こちらの反応を楽しむように軽く腰を揺すられて、唇を噛んだ。

「噛むなよ」

「でも、声、声…」

柴田の背中に爪を立てて押し寄せる快感に耐える。
なのに彼は容赦はしてくれず、お互いの熱がぴったりと溶け合ったのを確かめて激しく動き始めた。

恥ずかしくて、怖くて、なのに期待感でぞくりとする。
意志とは無関係に身体は待ち侘びたように敏感に反応して、最後には頼まれてもいないのに自分から動くはめになるのだ。

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