3


呆れるのに、それでも嫌いにはなれない。
芝生に横たえ目を瞑る隣に腰を下ろし、その雅やかな香坂涼という男を上から見下ろす。
この人が自分だけの物なんて未だに信じられないときがある。

「香坂さ、俺がもし他に好きな人ができたって言ったら怒る?」

突然の問いかけにヘーゼル色の瞳を薄っすらとこちらに向けた。

「…怒んねえな」

「何でだよ!?」

多少なりとも嫉妬してくれても良いのに、俺ばかり嫉妬して常に焦燥していてとても悔しい。
香坂も俺の言動や行動で心を揺らしてくれてもいいと思うのに。

「だってお前俺に惚れてんだろ?俺以外をお前が好きになるなんて考えられねえし」

「は?そんな事ないです」

その自信がどこから湧いてくるのか本当に不思議だ。
そんな風に変わりやすい人の心を自分だけのものにできると確信できるのだ。羨ましいとすら感じる。
俺ならばいくら言葉で愛を囁かれようと、全幅の信頼など寄せられない。
それは自分が魅力的ではないと理解しているからだし、男同士という事に常に引け目を感じている。
香坂が女性に目移りしてもそれは当然の結果だと諦めるだろう。

「…じゃあそぅならねえように、もっと俺にはまってもらわねえとな…」

薄っすら笑みを零しながら香坂は俺の首に腕を伸ばし、ぐっと引き寄せた。

「っ……」

一瞬の出来事で頭が上手く回らないのに、唇に感じる熱はやけに生々しく感じる。

「っ、…お前朝から何してくれんだよ!しかも学校だぞ!」

唇が離れると共に後退しながら制服の袖で唇を擦った。

「お前が俺以外を好きになるなんて言いだしたのが悪い」

「例え話だろ!?」

「例えでも俺以外なんてむかつくだろ」

拗ねた風に唇を尖らせた表情が珍しくて目を丸くして見詰めた。
香坂も一応妬いてくれるようだ。
そんな表情が可愛らしくて、普段との差異に子供らしい面もあるのだと安心してつい笑ってしまった。

「何笑ってんだよ」

「別にー」

いつもとは立場が逆転している。
優位に立てるとは悪くない。
無敵の香坂涼がこんな平凡の男のために大童する姿など傑作ではないか。

「…頭きた」

言い終えると同時に香坂は立ち上がりながら俺の腕をとり木に寄りかかるように立たせた。
そして先ほどの啄ばむような口付とは全く違う、全てを貪るような情熱をぶつけてきた。

「んん…!やめっ…」

早急に舌を入れられ、その熱さに驚いて逃げ惑った。
反抗しようにも香坂の舌は俺を離してはくれない。

「…んん…」

飲み込みきれない唾液が伝い漸く離してくれた。

「なんだよ、こんなんだけで勃ったのか?」

「うるせ…」

下肢の反応を確かめるように股の間に太腿を入れられ赤面する。
不覚にもキスだけで勃ちあがり言い訳などできない状態だ。

「学校でって言ってたわりにはお前もその気じゃん」

耳元で囁かれるその声にさえ感じてしまう。

「…だ、ってお前、が…」

俺の反応を楽しみ、焦らすように香坂は確信的な愛撫はせずに耳朶を甘噛みしたり首筋を唇で擽るだけだ。

「俺が、何だよ?」

こんな白昼堂々こんな場所でこんな行為、たまったものではない。
そう思うのに身体も思考もすっかり快感を追い求めて走り出す。

「あんなキス、するから…」

「…これ、どうにかしたいだろ?」

香坂の手が勃ちあがりきった部分をボトムの上から撫でる。
それだけでも声が漏れそうになり唇を噛み締めて我慢する。
何か言葉を発せれば喘ぎに変わってしまいそうで、首を縦に振った。

「いい子だ…」

香坂はブレザーを脱がせると、首筋をなぞるように舐めながらシャツのボタンを半分開る。
できた隙間から手を忍ばせると、胸の突起を指で執拗に攻める。

「いや、だ…」

シャツを片方だけ肩からずらすと上半身が露になり、指だけでは飽き足らずに綺麗な唇で吸い上げる。

「っあぁ…!駄目…声、が…」

「出しても誰も気付かねえよ」

首を横に何度も振った。外で喘ぐなどこれ以上恥ずかしいものはない。しかもこんな朝から。
手の甲を口元に寄せ、人差し指の背を噛み締めて僅かに漏れる声を必死に押し込める。
それでも香坂の愛撫は止まらない。突起で遊んでいた舌が段々と下にずれて行く。
遂にベルトを外されジッパーを下ろされる。

「ああ、少し遅かったか?下着が濡れちまったな」

いつもは有り得ない、外、昼間という状況に認めざる負えない程に興奮していた。
まだ胸しか弄られていないのに、先端からは蜜が溢れボトムも下着も早く脱がないと染みができてしまいそうだ。
でも、香坂はそれを許さない。
ボトムは腰履きのまま、一番恥ずかしい部分だけを太陽の下に晒し、手を出すわけでもなくそれを視姦する。

「な、に見てんだよ…」

「こんな明るいところで見た事なかったから」

「馬鹿な事言ってないで…早くっ…」

一秒も待てなかった。その視線にも感じてしまうから。
早くどうにかしてほしい。発散したくともできない熱が身体中を貪っていく。

「あ…!ふ…んん……」

汚れるといけないからと言っていきなり口に含まれた。
射精を促すような舌遣いではなく、俺を焦らして遊ぶような、もったいぶるようなそれに益々熱が篭っていく。
香坂の髪に手を差し込み、無意識のうちにぐっと引き寄せてしまった。
足りない。こんな愛撫ではもう足りないのだ。

「そんなにがっつくなよ」

「だ、って…」

「このままイかせてもいいけど…時間もねえし、な…」

そう言うと香坂は二本の指を俺の口に突っ込んだ。

「んんっ…」

「ちゃんと濡らせよ」

指の一本一本を丁寧に舐め、溢れる唾液で言われた通りに濡らす。きちんと濡らせば自分が苦しくないと知っているから。
唾液が滴るくらい濡らすと口から引き抜き、慣らすわけでもなく指を一気に捻じ込まれた。

「ぅあ!…く、るし…」

苦痛を感じて眉根を寄せた。
どんなに唾液で濡らしても元々受け入れられるようにはできていないので拒否反応が出てしまう。
何度経験してもこの痛みと違和感には慣れるものではない。
これすらなければただ快感だけで溺れられるのに、男同士で愛し合うためには困難が待ち受けている。
唇を噛み締めれば、香坂にやんわりと注意される。

「そんなに噛んでたら血が出るぞ」

「でも、声…」

涙目になりながら懇願すると口付をくれた。
これでいくらか声が抑えられるだろうか。
その間にも香坂は容赦してくれず、苦痛を取り払うように掻き回す。何かを探るようにあちらこちらを好き勝手に蠢く指に苦痛が快感を押し込める。

「みつけた…」

唇を三日月に変えた香坂は今度はその一点を指の腹で擦り上げ悲鳴に似た嬌声が喉を通り抜ける。

「っあ!こう、さかっ…」

苦痛から快感に一転した急激な身体の変化についていけずにしがみ付くように背中に爪を立てる。
引っ掻くように爪弾かれ、それだけで達してしまいそうなのに上り詰める寸前で動きを止めては俺を翻弄する。

「もう、いいだ、ろ…早く…」

これ以上の我慢はできそうもないと懇願した。
香坂は悪戯が成功したような少年の顔になると、同時に指とは比べ物にならない質量のもので、一気に突き上げる。

「やっ!あ、ぁ…」

いくら早くしろと言ったのはこちらだが、急に全てを押し込まれては慣れていない蕾は悲鳴を上げてしまう。
それでも待ち詫びた、脳天を喰らうような快感に歓喜の声が上がってしまう。

「そんなに締め付けんなよ…」

身体は俺の意思とは反対に香坂を貪欲に銜え込み、離さないとぎゅうぎゅうに締め付ける。

「ん、んっ…やぁ…」

最早声の心配などしていられなかった。
香坂が激しく動き出す。限界はお互い近い。

「やっ、…駄目、俺…やぁ、っあぁ…」

我慢できずにそのまま先に解放してしまった。
それでも香坂は動きを止めず、腰を引き激しく俺の中に入ってくる。
そして、程無くして中で熱い飛沫を感じた。

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