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「楓君、僕蓮の部屋に行きたいんだけどいいかな?」

寮のロビー、部屋の分かれ道で須藤先輩に問われた。勿論構わないが蓮をちらりと横目で見れば零れそうな瞳を伏せ、こちらもあまり機嫌がよろしくないようだ。
須藤先輩の不機嫌の理由がわからず困惑しているのか、それともあれしきの事で機嫌を損ねる性格にうんざりしているのか。
俺の場合は後者だ。

「……いいっすけど…」

「じゃあ楓は俺の部屋だな。来い」

今日も自室に帰る事はできないだろう。
たまには蓮とゆっくりと談笑しながら慣れたベッドで眠りにつきたいものだ。
贅沢な我儘かもしれないが、恋人も友人も同じか、それ以上に大切にしたい。

部屋に入るなり香坂がぐっと俺の腕を掴んだ。

「で、あいつ何なんだよ」

早速ご機嫌とりに必死にならなくてはいけないのかと思うとほとほと疲れてしまう。

「別に。この前言ってた転校生だよ」

「なんか態度が気にいらねえ…お前何もされてないな?」

「あるわけねえだろ!秀吉は普通なんだよ!女の子が好きなの!」

「そんなの皆女が好きに決まってんだろ。俺だってそうだ。ノンケでも男しかいない檻に閉じ込められたら男とやるしかねえだろ」

それも一理あるが、それでも他校に彼女がいる奴は山ほどいるし、周りが全て敵だと思うのは浅はかだ。

「でも友達だし、友達を傷つけるような奴じゃない…と思う」

「まあ普通はそうだよな。でもな、簡単に人を信じるな。本当に信用できるようになるまでは二人きりにはなるな」

「はいはい…」

「はいは一回だ」

「はーい!」

嫌味のつもりで香坂の耳元に口を寄せ、大声で言ってやった。
顔を顰めながら頭を押さえる香坂を見て幾分すっきりとする。
独占欲なのか、所有物に触れられるのを嫌っているのか、香坂の性格すべてを知っているわけではないのでわからないが、口煩く説教されるのはごめんだ。
しかもありもしない事で。
反論してみせても結局口では敵わないと知っているし諦めているが、これくらいの仕返しは罰が当たらないだろう。

その日の香坂は最悪だった。
ベッドでも手荒に抱き、それでも気持ちは傾いたまま。
もう少し、須藤先輩のように大人になれないのかと嘆息が漏れる。
見た目ばかりが大人でも、中身が伴っていなければ何の意味もない。
執着されるのは多少嬉しいが、憂さ晴らしをされる俺の身体は大変だ。
無理な要求をされ、これ以上ないくらいに恥ずかしい事をされたり、言わされたり。
俺の事が好きだというなら少し労わって欲しいものだ。
蓮は大丈夫なのだろうか?
まさか、須藤先輩に限って蓮を詰ったりはしないだろうが、あの人も何を考えてるのかわからないし、その顔は一つではない気がする。
底が見えずにそこはかとなく怖ろしい。
蓮も俺もお互い苦労が絶えない。
完璧な人間などいないのだし、誰かと付き合うという事はそれ相応のリスクや困難も覚悟の上ではあるが、須藤先輩も香坂も一筋縄ではいかないから対応に苦しむのだ。

しかし散々悪態をついても香坂の腕の中が心地いいのは確かで、結局こいつには何をされても逆らえないし、心を鷲掴みにされたままだ。
香坂も同じ位俺を好きでいてくれているのだろうか。
いつも俺ばかりのようで、付き合う以前に感じていた焦燥感は未だ拭える事はないどころか益々酷くなる一方だ。
腕の中にいて、その存在はこんなにも近いのにおかしな話だ。
追えば追うほど、知れば知るほど、こいつの本当がどこにあるのかわからない。
焼餅を焼いてくれれば好きでいてくれるのだと安堵する。
そんな事でしかこいつの気持ちを確かめる事ができないなんて、不毛でしかないが『俺の事好き?』なんて口が裂けても聞けない。
香坂は何を考えているのだろう
俺の事、大事な恋人だと思ってくれているだろうか。
腕の中は温かくて心地いいのに、俺の心は落ち着いてはくれない。
情事の後香坂に包まれながら心音を聞き、そんな事を思った。

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