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秀吉が転入してきて二週間の時が過ぎようとしていた。
秀吉はあれから持前の陽気な性格でどんどん交友関係を広めているようで、こちらも安心した。
転校生だし人目を惹く容姿をしているし悪目立ちはするが、秀吉の性格を知れば、誰もが秀吉の虜になった。
浅倉も面倒な事はなさそうだと安心しきった顔をしていた。
放課後、授業も終わり迎えに来るという香坂を待っていると、秀吉が急に口を開いた。

「蓮と楓、たまにしかお昼一緒せえへんけど、いつも誰と食っとるの?」

「…先輩とだよ」

「先輩と?二人だけが?」

二人同時に返事に困っていると景吾が助け舟を出してくれた。
いや、助かったのかはさて置き。

「蓮と楓はね、香坂先輩と須藤先輩ってゆー二年の先輩とお昼一緒にしてるんだよ」

「へー、なんでまた」

「彼氏だから!」

「へー……彼氏!?」

景吾がさらりと彼氏と言ったものだから、秀吉も理解するのに時間がかかったようだ。
当然の反応だ。以前は共学の学校だったと言っていたし、女性にも苦労をした事はないだろう。
同性愛など大声で胸を張って自慢できる事ではないが、だからと言って下手に隠す気にもならない。
隠したところでそんな器用な人間ではないためすぐに勘付かれてしまう。
軽蔑されればそれまでの関係だし、現にクラスメイトは同性と付き合っていると知っても変わらず接してくれる。
勿論心無い暴言を吐き出す者もいるが、そう思うのが正常であり俺達が異端だと思う。
どんな反応をされても対応は心得ているし、こういう事には慣れている。
ただし、家族や外部の人間に知られるのはまだ避けたいが。

「彼女やなくて!?」

「…残念ながら彼氏です」

俺の口から言えば、秀吉は涼しげな瞳を丸くし、口をぽかんと開けて硬直した。
しかし数秒後にはいつもの人懐っこい笑みを浮かべる。

「それは……まあ驚いたけど、色んな人間がおるし別に俺は気にせんよ。俺が喰われるわけやないしな。是非その彼氏さんとやらに会ってみたいわ」

「それならわざわざ会いに行かなくても、もうすぐ来るんじゃない?あっ、ほら来たよ」

景吾が指差した先には香坂と須藤先輩がおり、こちらに歩みを進めている。

「楓、帰るぞ」

「あ、ああ…」

なんとも間が悪い。
隠したところで同じ学園にいれば嫌でも会う羽目にはなるだろうが、なにも今でなくとも良かったのではないか。

「楓と蓮の彼氏さんってこの人達なん?」

見知らぬ顔に香坂も須藤先輩も眉を顰めた。

「…誰だ?お前」

「あ、自己紹介遅れました、転校してきた甲斐田秀吉言います。楓や蓮とは仲よーさせてもらってます。よろしゅう…」

悪気はないのだろうが、独占欲と縄張り意識が強い香坂は認めるまで部外者を一切寄せ付けない。
秀吉に失礼な事を言わなければいいのだがと、内心穏やかではなかった。

「蓮と仲良くしてくれてるなんて嬉しいな。僕は須藤拓海。宜しくね」

飽く迄も大人の対応を見せ、秀吉と握手を交わした須藤先輩にほっと安堵する。
その笑顔が作られたものだとしても、表向き平穏にしてくれれば何の問題もない。

「俺は香坂涼だ。で、もう行っていいか?」

「ええ、時間とらせてもうてすいません」

「行くぞ」

「はいはい…」

丸く収まり汗が引っ込んだ。
面倒事は御免だというのに、周りにいる人間は一癖も二癖もあり、些細な事が火種となる。
こちらの常識では計れない思考の持ち主で、冷や冷やしっ放しだった。
しかし、やはり須藤先輩も香坂も何処となく機嫌が悪いようで、俺と蓮はこっそり顔を見合わせては小さな溜め息を溢した。
寮に帰ったら尋問が待っているだろう。大変な事になりそうだ。
できれば逃げたい。きっと蓮の心境も俺と同じなのだろう。
蓮の顔には既に疲労感が漂っている。


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