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次の日は朝から教室が騒がしかった。常に騒がしいクラスではあるが、今日は一層賑やかだ。
祭りでもあるのかと一瞬考えたがすぐに答えがわかった。転校生が来る日だからだ。

「どんな奴だろなー」

「どんな奴だろうが男じゃん…」

新たな仲間への期待と、その性別は間違いなく男なのだという落胆。祭り好きで単純思考な我がクラスらしい。
確かに、外部入学というだけでも珍しいのに転校生など東城に籍を置いて初めての経験だ。
景吾と蓮も皆の輪の中で笑顔を浮かべている。
毎朝のHRは担任の言葉など一切聞いていないのに、今日ばかりはチャイムが鳴る前から自席に座り、浅倉が来るのを今か今かと待ち侘びている。

「はーい、みんなおはよう」

転校生がいようがいまいが、浅倉の態度と語調は変わらない。
生がまったく感じらず、生徒の前にも関わらず欠伸を交える。

「皆知ってると思うけど、転校生連れてきたから。あっ、せめて男でも可愛い系とか、綺麗系を望んでた奴は残念でしたー」

浅倉が遠まわしに告げた言葉に、野次が飛んだ。

「でもちゃんと仲良くしろよ。問題とかあったら先生すごく面倒臭いからね」

教員免許を持っていて、それ相応の勉強をしてきたはずなのに、浅倉は生徒の見本となる教師にあるまじき発言が多い。

「じゃあ入って」

クラスメイトの視線を一身に浴びながら転校生は静かに教室に入って来た。
瞬間、教室の空気が止まった気がした。
俺も息をするのを一瞬忘れた。
何処の王子様ですかと尋ねたくなるような整った美貌を持っている。
色素の薄い茶色の髪は無造作に伸ばされ、しかし不潔ではなく理知的な表情とゆったりとした仕草には品があった。

「じゃあ自己紹介ね」

「兵庫から来ました、甲斐田秀吉言います。よろしゅう頼んます」

口を開けばまさかの関西弁に数泊呆気にとられた。
見た目とは反して、その口調は砕けたもので、親しみやすさがあった。
そのミスマッチさに目が丸くなる。
それはクラスメイト全員同じ思いだったようで、いつも騒がしいはずの教室はしんと静まり返った。

「じゃあね、甲斐田君の席は相良の後ろね。相良手上げて」

「はいはーい!俺が相良だよ!」

「なんや、可愛い子に囲まれた席やん。先生、おおきに」

甲斐田は回りの視線など慣れてるといった様子で、気にする様子もなく景吾の後ろに腰を下ろした。
景吾の後ろという事は勿論俺とも席が近いという事で。
若干面倒臭いと思ったのは心に秘めておこう。

朝のHRが終わり浅倉が教室から出て行くと、早速景吾が甲斐田に笑顔を向けた。
他のクラスメイトは噂の張本人を目にした事に満足し、興味を失ったのかあっさりしたものだ。

「俺ね、相良景吾。宜しくね!」

「よろしゅー」

「こっちが夏目蓮と、月島楓と、真田ゆうき。みんないい奴だから、すぐ仲良くなれると思うよ!」

「どれが誰?」

「蓮があれで、蓮と話してるのが楓。でね、ゆうきがこれ。ゆうき、挨拶は?」

「…真田ゆうき」

「真田かあ。自分めっちゃ美人やなー、ほんまに男?」

甲斐田は早速ゆうきの地雷を踏んだ。
ゆうきは人一倍人目を惹く容姿をしているのに、その容姿を指摘される事を何よりも嫌う。例え褒め称えたとしてもゆうきにとっては価値などない。
その証拠にゆうきは思い切り不快を示し、そっぽを向いた。

「僕、夏目蓮。宜しくね」

「俺月島楓ー」

「みんなよろしゅうなー」

人の好さそうな笑顔を浮かべたが、やはりその容姿とその関西弁はギャップがあると思う。
蓮や景吾も同様に考えていたのだろう、言葉もなく彼に見惚れるばかりだ。
決して男が好きなわけではないが、甲斐田の美貌は同性も異性も目で追ってしまうと思う。
滅多にお目に掛かれない芸能人を前にしたかのように。
しかし、ゆうきは違ったようだ。言葉もなく席を立ち、教室を出て行ってしまった。

「あれ?真田とか言う奴、どないしたん?」

「ゆうきはね、容姿の事言われると機嫌悪くなっちゃうんだ。見た目も性格もクールだけど、本当はいい子なんだよ」

「ふーん…でも、真田は稀に見る程の美少年やね」

「でしょー!俺の自慢!でもゆうきに手出したらぶん殴るからね!」

にっこりと太陽のような笑みを浮かべながら、その表情とは裏腹な言葉を発した景吾は誰よりも強い。

「それは気をつけなあかんなあ。でも安心し、美少年やと思うけど男には興味ないねん。俺の事は秀吉でええから。俺も下の名前で呼ばせてもらうわ。堅苦しいの苦手やねん」

眩しいくらいの笑顔で言った秀吉は、その顔とその性格のギャップも手伝ってか、あっという間にクラスに馴染んだ。
関西出身だけあり、話の内容もおもしろいし豊富だ。誰にも分け隔てない態度で接してくるし、気配りができる。
そして、秀吉は当然のように俺達と共に行動する事が多くなった。
皆秀吉には好意的なのだが、一人まだ慣れようとしない人物がいた。
ゆうきは秀吉とまともに言葉を交わす事もなく、俺達の中に自然と入り込んだ秀吉をまだ認めていないようだ。
余程最初に言われた言葉が気に入らないのか、ゆうきは秀吉に心を開こうとはしない。
元々俺達以外とは仲良くしようとしない奴だったが、一応仲間になったわけだし、警戒心を解いてもいいと思うのだ。
ゆうきは極度の人見知りだが、性格は悪くないし、時間が経てば仲良くなれると思うのだが。
秀吉も、然程ゆうきの態度を気にしてないようだし、今はまだこれでいいのかもしれないが。
何も問題が起きませんようにとそれを願うしかない。

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