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これでは蓮の時と同じだ。
何も成長できてなどいない。
蓮の時に感じた痛みよりも、何倍もの刃が俺を傷つける。
涙が自然に溢れ出し、瞳を閉じれば流れてしまいそうで、必至に堪えた。
心の痛みは止まる事はない。あのシーンが何度も何度も頭を過ぎる。

俺は神に縋る人々のように温かい空間を求め、その足は自室へと向かっていた。
今部屋に行ったら蓮と須藤先輩がいる。
迷惑だろうかと考える余裕がなかった。
蓮と須藤先輩のあの温かな雰囲気に包まれたい。
誰かの温もりが欲しかった。
扉を思い切り開ける。
驚いた蓮と須藤先輩が俺に駆け寄る。

「楓!どうしたの?香坂先輩のところに行ったんじゃ…何があったの?」

蓮が傍に寄るとその温かさに安堵し、俺はその場にしゃがみ込んだ。
涙を止められそうにない。
何とも言葉にできない虚無感と脱力感で一杯だった。
何も感じたくない。何も見たくない。
死人のように眠り続けられたらどんなに幸せだろう。
声を出そうにも口から出るのは噛み殺したような嗚咽だけ。
突然の事に、二人は右往左往しながらも背中を擦り、蓮はハンカチで流れる涙を拭ってくれた。
その腕のぬくもりが今の俺にはとても尊いものだった。

どのくらい泣き続けただろう。
喉が焼けるように痛いし、目も充血して真っ赤だろう。
これでは明日は化け物のような顔になっているだろう。

「楓…何があった?」

沈黙を破り、蓮に問いかけられた。
つられ泣きしたのか、蓮までも泣いている。

「…何でお前まで泣くんだよ」

そんな蓮が愛らしく、ふと笑みが零れる。

「だって楓のあんな姿見た事なかったから心配で…辛そうな顔見てたら僕も…」

蓮のこんなところが大好きだが、やはり余計な心配をさせただろうか。
須藤先輩まで悲痛な表情だ。
須藤先輩は俺と香坂の関係、俺の気持ちを唯一知っている人だから、心配するのも無理はないかもしれない。
きっと、振られたと思い心配しているのだろう。
大方はずれでもないのだが。

「楓君、どうしたの?」

あれだけ派手に泣いて心配させているのだ、今更白を切るわけにもいかないだろう。
正直に話そう。
誰かに慰めてもらいたくてここに来たのだし。

「……香坂の部屋に行ったら…知らない人と香坂が抱き合ってて……そのまま部屋を飛び出して来た…」

正直に告げれば、二人とも驚嘆した顔で言葉も出ないといった様子だ。

「そんな…香坂先輩ひどいよ…」

「蓮…ありがとな。でも、あいつは悪くないんだ…」

「…楓」

蓮は俺達が本当は付き合ってないと知らないから、怒りをあらわにするが香坂は何も悪くない。
香坂が他の奴を抱いたからといって、それをどうこう言える関係ではない。

ただ、香坂がお前しか抱きたくないと言った言葉が嘘だったのかと思うと、悲しくてしょうがないだけだ。
香坂を好きになった時から、こんな事があるのではないかと思っていた。
予想はしていたが、それを実際見ればショックは想像以上だった。
あの場面を思い出すと、また涙腺が緩んでしまいそうになる。
浮気していた訳ではない。
香坂は自分が思うがまま自由に好きな相手を好きな時に抱いただけだ。
それに勝手にショックを受けただけ。
香坂の気持ちは定かではないが、一つわかった事は、俺に執着していたのは興味本位でそれ以上の感情はなかったという事実。

一度抱いたらもう飽きてしまったのだろうか。
それとも、慣れない身体が思いの外つまらなく、やはり女性の柔らかな質感を求めたのか。だから、その後俺に手を出す事もなかった。
そう考えればすべての辻褄が合う。
こうなるとわかっていたはずなのに、香坂を好きになる気持ちを止める事はできなかった。
自分で思ってる以上に心の中に香坂が入り込んでいたようだ。

これからどうすればいいのか。
この気持ちが救われるときは来るのだろうか。


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