5



あれから、学校でも寮でも蓮とは一緒の時間を過ごしたし、ゆうきや景吾も蓮が傷つかないように、気を配ってくれていた。
ただ、やはり前のように完璧で自然な関係には戻れていない。
蓮はいつも俺に負い目を感じているように思えた。
蓮が気にする事など何もないと、何度言っても蓮は未だに自分を責め続けている。

そんな中で一番好都合だったのは、香坂の存在だ。
前は蓮との時間を邪魔されたくなくて、必死に抵抗していたが、蓮と距離を置きたかった俺は、香坂の存在に甘えだしていた。
蓮にとっても、今はあまり一緒にいない方がいいと思ったからだ。
あいつが俺に気を遣う姿など、見たくはない。
勿論、香坂とも喧嘩は絶えないが、前よりは時間を共にする事が増えた。

香坂の存在でいくらか気が紛れたし、辛い時は蓮の相談に乗ってくれたりもした。
蓮からしても、俺が香坂といるという事実があれば、いくらか負い目を感じないでくれると思っていた。

「蓮は元気か?」

もう、香坂と一緒に帰る事が自然な日常になっている。
前は蓮と帰るのが当たり前だったのに、時間と共に色々変わり始めている。
でも、決して悪い変わり方ではないのは確かだ。
蓮にとっても、俺にとっても。

「まだ元気ない時はあるけど、前よりはましになってきたかな」

「そうか…」

香坂が、何かを考えているような神妙な顔つきをするから、気になってその先の言葉を促した。

「…何かあったのかよ?」

「いや…」

香坂にしては珍しく、はっきりしない物言いに苛立つ。
こいつは俺の事は色々聞きたがるくせに、自分や自分の周りの事は好んで話そうとはしない。
問題が起きても俺などに頼らず自分一人の力でどうにかしてしまうのだろう。
それが、フェアではない気がして悔しい。

「何だよ!気になるじゃねえかよ。もったいぶんな」

「……拓海が、蓮にもう友達でいる事はできないって言われたってぼやいてたんだよ…」

「は?何で……だって蓮は須藤先輩が好きだって…」

確かに蓮は俺の目を真っ直ぐ見て、先輩が好きと言った。それは偽りなんかじゃない。それなのに。

「…さあな。蓮の考えている事は蓮にしかわかんねえよ。ただ、あいつは優しすぎるのかもしれねえな。今日寮に帰ったら直接話してみろ」

「……わかった…」

蓮はまだ俺に遠慮なんかしているのか。
俺の事は気にするなってあれだけ言ったのに。
そんな簡単に気持ちの整理をつける男ではないとわかっていたが、俺は蓮の幸せだけを願って身を引いたのだ。
蓮はまだ自分のした事に罪の意識を持っている。
それが悪いとは言わないが、このままじゃ蓮が幸せになんかなれない。
これでは俺が何のために別れを告げたのか。
意味など全てなくなってしまう。

今の時間ならば蓮はもう部屋にいるはずだ。
香坂と別れた後、部屋まで走った。
俺はただ蓮に幸せでいてほしかっただけだ。
勿論、蓮と須藤先輩がつきあったら苦しいけれど、それを覚悟した上で自分は蓮を手放したのだ。
以前の俺ならば耐えられなかったかもしれない苦しみも、今の俺ならきっと乗り越えられる。

ドアを勢いよく開け、おかえりと言う蓮の言葉には返事はせずに、蓮を問い質した。

「蓮!お前須藤先輩にもう友達やめるって言ったんだって!?」

蓮は俺の言葉に大きく目を見開き、苦笑を零した。
そんな蓮の肩を揺さぶりながら 納得できないと言い続けた。

「蓮は須藤先輩が好きなんだろ!?なんでそんな事言ったりしたんだよ!」

何も答えようとはしない蓮に苛立ちが募る。

「蓮!何とか言えよ!」

「…僕は……幸せになっちゃだめなんだ、楓…」

「何言ってんだよ!俺はお前に幸せでいてほしいんだよ!」

幸せになっちゃいけない人間なんて、この世に一人もいない。
それが蓮なら尚更、笑顔でいてほしい。
俺の気持ちを何故、わかってくれないのか。

「楓を裏切ったんだ!それなのに、僕だけなんてそんな事許される訳がない…」

声を荒げ、自分を追い詰めるような言葉を発する蓮に、また俺は知らぬ内に、蓮を追い詰めていたのだと気付かされた。

蓮にとっては俺の優しさが辛かったのかもしれない。

「……蓮、俺な…」


[ 9/152 ]

[*prev] [next#]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -