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風紀委員会の実態を甘く見ていました。
月に一度あるという、委員会の集会に三人揃って重い身体を引きずるように向かい、教室へ入った瞬間、目が点になった。
お前らが風紀委員かよ、と今すぐつっこみを入れたいくらいだ。が、言えばどうなるかわかっているし、今更な事なので、胸の奥にその思いはしまっておく。
こんな連中が風紀を取り締まるなど世も末だ。

しかし、これほどまでにひどいとは。
隅の目立たない席で、ひっそりと周りの先輩を伺い見れば、浅倉を恨む思いが一気に最高潮だ。

所謂学園のお荷物であろう人達の巣だ。
服装は程よく着崩し、ピアスなどのアクセサリーは常備。皆身形に気を遣っているのはわかるが、個性的な人ばかりで、それぞれが身に纏う雰囲気も独特だ。
自分も地味な方ではないと思うが、この輪の中にいれば、自然と目立たない人間になれる。

「みんな集まったかー?まあ、どっちでもいいや。じゃあ委員会始めるから」

長である委員長ですら、この適当ぶりだ。

「今日も話し合う事は特にないけど、新一年生が何人か入ったから、恒例の自己紹介してもらうから」

委員長の恰も当然のように発せられた言葉に、蓮もゆうきも俺も愕然とした。
こんな先輩達の前で自己紹介なんてとんでもない。
だが、ここまできたらもう逃げられない。
肉食動物の中に草食動物が紛れこんだも同然だ。

自分はともかく、蓮やゆうきをあいつらの目に晒すなど、自殺行為だ。
何があってもは守り抜こう。
大事な恋人を守れないなど、男としてのプライドが許さない。
蓮は守って欲しいなどと言うような性格ではないが、先輩にからかわれれば控えめな性格が仇となり、いいように遊ばれてしまうだろう。

「じゃあ早速。今年はB組から三人しか入ってないから。えっと…夏目蓮君?からこっちきてよろしくね」

名前を呼ばれた蓮は、半泣き状態だ。元々大勢の前に立つのは大の苦手だ。

「蓮、頑張れ。何かあったら助けるから」

眉を八の字にしている蓮に、こっそりと声を掛ける。

「うん、ありがと…」

緊張と不安で蓮の顔は強張っている。
無理もない。自分ですらすぐさま逃げ出したい気持ちと戦っているのに、それが蓮なら尚更だ。
椅子を引き、ゆっくりと教卓の前に立った蓮は、一度深呼吸した。

「えっと…B組の、夏目蓮です。宜しくお願いします…」

おどおどしながら自己紹介をする蓮に、先輩達から野次が飛ぶ。

「蓮君、カーワイー!」

「はい!俺質問ー、蓮君って彼女いますか〜?」

はい、いますよ。彼女じゃなくて、彼氏はここにいますよ。
心の中で呟いても仕方がない。笑顔すら引き吊っている蓮を助ける方が先決だ。
先輩達からの飛び交う質問に答えきれずに困った様子蓮の元へ歩いていく。
蓮の隣に立つと、いきなり現れた俺に、先輩逹の興味の対象は移ったようだ。

「B組の月島楓です。よろしくお願いします」

思いっきり無愛想に、睨みつけながら言う俺に、驚いた様子の先輩達。
もうこうなったら先輩だろうが、目をつけられようが知ったこっちゃない。自棄とも言うが。
しんと静まりかえる室内に、その静寂を破る声が聞こえた。

「…へえ、おもしろいじゃん」

声の主を見れば、茶髪にヘーゼルのカラコンを入れた、中でも一際目立つ甘いマスクをした人物が、ニヒルな笑みを浮かべていた。
何がおかしいのだと、不機嫌になった俺が睨みをきかせれば、すっと立ち上がり、こちらに近づいてきた。

何、殴られるんですか?俺…。

しかし、恐がっているなどと思われたくなくて、虚勢を張り続ける。

そいつは俺の前で止まると、いきなり自己紹介を始めた。

「俺、二年D組の香坂涼。よろしくな」

ああ、この人が噂の香坂涼。
とびきり甘いマスクと高い身長で羨望の的とされる先輩だ。一年の中にも憧れている奴も多い。
男らしい中で、甘さも兼ね備えた容姿だ。
その容姿ならば当然だろうが、色んな噂が多いのも事実。
噂など信じてはいないが、よく香坂という名前は耳にする。

「はあ…」

とりあえず殴られる訳ではなさそうで、気の抜けた返事しかできない俺に、先輩は上から下まで俺を値踏みするように見た。

「気に入った」

そう言ったかと思うと、ゆっくりと顔が近づいてきた。
近くで見ても美形は美形か、なんて呑気な事を考えていた俺は、自分の唇に先輩の唇が触れていると気付くまでに、えらく時間がかかってしまった。
俺の後ろに隠れるようにして立っていた蓮は勿論、その場にいた全員が呆気にとられている間に、自分が何をされているのか、ようやく気付き、相手を思い切り突き放した。

「何すんだよテメー!」

「何って…キス。俺、お前気に入ったから。俺の事、ちゃんと覚えてろよ」

ごしごしと制服の袖で口元をぬぐい、あからさまな嫌悪を示しているにも関わらず、この男は悪びれもせずにけろりと言った。
何だコイツ…見た目がいいからといって、誰でも好きなようにしていい訳がない。
確かに俺は同性である蓮が好きだ。しかし、男ならば誰でもいいわけでは決してない。
蓮だからこそ、特別に好きになれたのであり、他の男など絶対に御免だ。

「ふざけんな!何で俺がお前なんか!」

「あれ?俺にキスされて嬉しくねぇの?」

殴りたい。今すぐ殴り倒したい。

「みんながお前を好きだと思ったら大間違いだ!自意識過剰野郎が!それに、俺は蓮とつきあってんだよ!」

「…お前とこいつが?へえ、俺には関係ねえけど」

「てめぇ…」

「ストップ」

馬鹿にされ苛立ちが頂点に達し、胸倉を掴んでその綺麗な顔を殴ってやろうかと考えていたが、ゆうきの声で多少冷静を取り戻した。

「先輩、あんまり苛めないで下さい」





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