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香坂とよく利用する店に入ると、さすがに店内はカップルだらけだった。
今日はクリスマスだ。すっかり忘れていたが。
そういえば、香坂から貰ったプレゼントも、まだあけていない。
プレゼントに浮かれるよりも、香坂自身が自分の元へ戻ってきてくれたことに浮かれていて、それどころではなかった。
付け加えるならば、俺は香坂に何も買っていない。
まだ遅くはないだろうか。
買う気などまったくなかったため、何もリサーチしていないし、懐事情も良いとは言えない。
毎回毎回プレゼントに苦労するが、まさか土壇場で苦労する事になろうとは思ってもみなかった。
誕生日の二の舞だけは嫌だ。きっと少し遅れても平気だろう。
何か冬休み中に購入しようと小さく決意をする。

「好きなもん食えよ」

「ありがとうございます」

「何がうまいんだっけ?」

ずらりと並ぶ品名に考えるのも面倒になる。

「何でもうまい」

「さようですか…」

「いっぱいあって悩むね」

薫は微塵も気にする様子はないが、自分たちは店内で浮いていると思う。
だって今日はクリスマスだ。
そんな日に、何が悲しくて男三人で…。
周りの視線も同情を含んでいるようにすら感じる。
きっと、香坂を見てイケメンなのにねえ…などと言ってるに違いない。
それは被害妄想で、皆目の前の恋人にしか興味がないとわかっているけれど。

結局、香坂が適当に頼んでくれて、先に出されたホットコーヒーに手を伸ばした。
窓の外をちらりと見れば、行き交う人々の息は白く、皆肩を寄せ合うように歩いている。
それでも、誰しもが幸せそうで。
クリスマスという、特別な日だからこそ、かもしれない。
昨日までの自分ならば、そんな人達を見て卑屈になっていたかもしれないが、今は違う。
香坂とも仲直りできたし、恋人達のクリスマスの、その恋人の中に自分たちも入っているわけで。
自然と頬が緩み、薫が一緒だという事を思い出し、無理矢理顔を引き締める。

「ねえ、香坂さん、東城っていい学校?」

「んー…普通…?」

「えー…受験する気なくなるから、そこは嘘でもいいとこって言ってよ」

「いいとこだ」

「遅いし」

「心配しなくても大丈夫だ。楓でも入れたんだから」

「俺だって必死に勉強したんだよ!」

「へえ…」

「なに!なにその白い目!」

信じてはくれないだろうが、あのときは一生懸命努力した。自分なりにではあるが。

「ま、大丈夫だろ。そんなに難関でもねえし。点数悪くでも面接ちゃんとすれば」

「面接って理事長がやんの?」

「あの人も暇なのか面接は自分がやるってきかないらしい。高等部からの入学希望は少ねえしな」

「ふーん」

「俺の弟も受験するらしいから、受かったら仲良くしてやってくれよ」

「香坂さんの弟かあ…あんま想像できないけど」

あんな凶暴な弟とは仲良くなんて絶対にして欲しくない。薫が非行の道に走ってしまう。などと兄心からは心配をしてしまうが、自分以上に賢く、しっかりしている薫ならば平気だろう。
けれどもあまり近寄らせたくないのが本音で。
どうか、同じクラスにだけはなりませんように。
我儘を言えば、A組とF組くらい離れてくれますように。

「香坂さんの弟も男が好きなの?」

薫の爆弾発言に、俺も香坂も目を丸くし、一瞬言葉を失った。

「…い、いや、薫。香坂は別に男が好きなわけじゃないんだぞ…?」

「そうなんだ。じゃあ何で楓ちゃんとつきあってんの?」

「いや、それは、かくかくしかじか…」

香坂が怒る前にフォローをしようと試みたが、当の本人はふっと吹き出し、大笑いだ。

「さすが楓の弟、おもしれえよな」

兄からすればおもしろくもなんともない。こっちは冷や冷やしっぱなしだ。

「東城も男子校だけど、俺みてえな奴ばっかじゃない。心配しなくても大丈夫だよ。普通にノーマルの方が多い」

「ふーん、そうなんだ。僕は博愛主義だから、人の恋愛には口は挟まないけどね。楓ちゃんがホモでも別にいいし」

「ホっ…!」

「お前ら兄弟、ほんとに似てねえのな」

笑いながら自分と薫を見比べる香坂に、終始ご機嫌で笑顔の薫。顔面蒼白の自分。
だから、早く帰りたい。
こんなクリスマスってどうなのよ。

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