鼻事情



「静かだなんて、いい物件条件じゃないですか。」
「あれから住んでみて静かだと思ったことないよ。」

二人で昼ごはんに行こうと誘われ、僕は勿論ついていきました。
今日は良い天気で、洗濯もよく乾くでしょうに。
まぁ僕は洗濯はしないで部活です。

僕の隣を歩く、誘った本人赤司君はこんな良い天気なのに、目をゴシゴシと摩って時々鼻をスンと鳴らして、

「忙しいですね。」
なんて言えば

「花粉症じゃないお前には分からないんだ。」
赤司君によれば今年は花粉が物凄いらしく、花粉症じゃない人も花粉症になる可能性が高いそうです。

陽気に煌く太陽の下、僕には寝たい程に気持ちの良い日な「スン」
のに、この人はそんな事、感じ「スンスン」
「ハックショイ!クシュ!」
・・・ないようで。

「・・・大丈夫ですか。」
「大丈夫に見えるならそんな事聞くな」
「なんとなく筋が通ってませんね。これはどうやら大丈夫では無いようです。」

きっと学校で弁当を食べてる他の部員も花粉と戦いながら弁当を食べてるんでしょうね。
そういえば何の話でしたっけ。
赤司君のせいで・・・あ、花粉のせいで話が飛びました。

「ほら、静かじゃないだろ。」
「静かです。住人のように鼻をスンスン鳴らしませんし。目をゴシゴシ
擦りませんから。」
「花粉を防ぐ壁はないのか。」
「今日、花粉症に効くという薬の1割引券を持ってきました。」

じゃーん、はいどうぞ。

ジャージのポッケから出した赤い色の券を見て赤司君はひとつ表情崩さず、スンと鼻を鳴らすだけで、手にとった券をまじまじと見ていました。
僕はまた先に話し出します。
「薬なんかに頼るなんて・・・とか思っているのでしょう。」
「・・・うん。」
「花粉症はしかたないでしょう。
・・・その券、薬局行った時に貰ったんですよ。
僕は使いませんし、赤司君にあげます。」
「誰と行った。」
「一人です。」

すると赤司君は小さく「ありがとう」と言って
ポッケに券をしまいました。
笑ってるのでしょうか。生憎、マスクをしてる彼の口元はわからず終いです。
そんな事を考えていると、今度は彼から口を開きます。
「・・・僕の住んでる家はね、本当静かではないんだよ。
防音かと思ってたら騙された。」
「騙した覚えは無いです。」
「だが、この僕に外の音を楽しませる方法を壁を通して教えてくれたよ。・・・そうか、そもそも煩いのは外よりも壁なんだな。」
「褒めるなら褒めてあげてくださいよ。」

赤司君は僕をチラと見てまた前に向き直します。
そして、うーん・・・と唸りました。

「日当たりがよくて・・・夏は風邪通しもよくて・・・」

あと・・・


「居心地が良い。一番、落ち着くよ。」

なんですか。さっきはこっちを一度見ただけなのに、
今は立ち止まってまでこっちを見るんですか。
止めてくださいよ、歩いてくださいよ。
もういいです、隣のティッシュ配ってるお姉さん見てますから。

「あ、あと」

「・・・はい。」




「床暖房がついてる」

やっと歩き出してくれました。
後ろから僕の隣。

「とても良い物件じゃないですか。ちょっと褒めすぎです。
そんな高価なものもついてませんよ。」
「でもやっぱり防音にしたいな。」
「分かりましたよ。黙りますよ。」
「外からの音は全部消し去って、お前とだけの空間を作るんだ。」
「・・・・・・」

ああなんだ、今は静かでなくていいのに。










「・・・僕は壁だ・・・」
「ブフッ」













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