No title

不思議な子だと思った。

与えられた仕事は素早くかつ120%の結果でこなす実力と相応の貫禄を持ちながらも、ふと業務外の話をすると無邪気さが見え隠れする少女のような雰囲気を纏う子。
とびきり美形ではないが、それでも整った顔立ちと華やかな身なりは充分に男を惹きつける魅力を持っている。

そんな彼女に興味を持ち始めたのはいつからだったか。おれに向かって大人で紳士だ、そういう人は好きだと屈託のない笑顔を見せ、その後はじめて触れた手は細くしなやかで、そんな当然のことに気が向いてしまった自分を珍しく思った。
昼飯に誘えば嬉しそうに付いてきて、呼べば弾けんばかりの笑顔を向けてくる。仕事ばかりで大きな楽しみもない曇った日々に射し込んでくる太陽のような彼女は、いつもおれの目には眩く映っていた。


いつかの泣いていた日。

後から社長に事情を聞いたら、感心せざるを得なかった。
あの状況で人目に触れて泣くという事がどんな事か、彼女はきちんと弁えていたのだ。

それと同時に思ったことも。
侮辱をするわけではない。ただ、どれだけ社長から信頼を得ていても、どれだけ社員から慕われていてもオフィスを出れば彼女は、歳相応の女の子なのだ。そんな子がこの大きな企業でここまでのし上がってきたということは、並々ならぬ努力を重ねた証拠。間違いなくあらゆるものを犠牲にしてきただろう。

自分にも身に覚えがあった。

友人だと思っていた奴らはおれのキャンセルが重なる度にひとり、またひとりと離れていった。付き合いの悪い奴だと陰口や嫌味を言われ、当時の恋人からは何度も失望され責められ別れを余儀無くされた。
おれは間違っているのか。
仕事も、遊びも、愛情も手に入れようとすることは間違っているのか。
答えはずっと見つからなかった。
けれど彼女の涙を見たとき、それは間違いじゃないと思うことができた。
貫き通したであろう覚悟と努力と苦悩する様はとても美しく、無意識に彼女と昔の自分を重ねたときにそう気付いたのだ。
今までの自分も、そして彼女も何も間違ってない。


当初はただただ、からかって面白がっていただけだというのに。

あの笑顔を見るたび年甲斐もなく気持ちは膨れ上がり、隣から奏でられるマノロ・ブラニクの軽快な足音はいつのまにかおれを落ち着かせる音色になっていた。



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