「お前を殺してくれって依頼が入ってるんだよねー」

今日はカレーが食べたい気分なんだよねー。みたいなノリで言われて思わず、ふーん、と返しそうになった。
滅多に冗談を言わないイルミだけれど、念のため。

「……いや…………なんて?」
「だからうちに、ナマエを殺してくれって依頼が入ってる」
「わーついにきたかー……!」

女、フリーの暗殺者。恨みは買いやすいし狙われやすくもなる。いつかこういうときが来ても、おかしくないとは思っていたけれど。

「それでイルミは殺しにきたの?」
「あ、それはまだ。依頼がきたのをゴトーが教えてくれたんだ。家族の誰に振るかは決まってない」
「まだ、ねぇ……」

自分を弱いとは思っていない。でも、天下のゾルディックから逃げられるほど強いとも思っていない。

「ていうか依頼人、だれよ」
「一応、守秘義務があるからそこまでは言えない。でも調べたところで絶対たどり着けないよ。だから先手打って依頼人を殺すのも無理だね」
「だよねえ」
「ナマエさぁ、どうするつもり」
「えーおとなしく捕まって殺されるか、一か八か逃げるか、それしかないでしょ」

イルミのことは好きだ。昨日までの私は、このままなんとなく、出来れば長く一緒にいられたらいいなとぼんやり考えていたけれど、そうのんきなことも言ってられない事態になってしまった。
心のどこかでわかっていた。決していい人間ではない私たちが紡ぐラブストーリーが、ハッピーエンドで終わるはずはないということを、改めて思い知らされる。

「ま、仕方ないね。誰を送り込むか決まったら一応連絡くれる?」

それくらいの情けは、かけてくれてもいいでしょ。そう笑っても返事はない。

「あ、イルミなに飲む? コーヒー? 紅茶?」
「結婚するよ」
「……はっ?……なに言ってんの!?」

出かけるよ。みたいなノリで言うセリフじゃない。しかも若干命令口調っぽいのはなんでだ。
死ぬかもしれない報せを受けたときより反応してしまった私も私だ。だってイルミがつかつかと向かってきたかと思えば、いきなり腕を掴んで変なことを言うから。飲もうとしていたオレンジジュースがすこし零れてしまった。

「け、結婚て、誰と誰が……!?」
「オレとお前しかいないだろ」
「なに言ってんの……!?」
「え? なに言ってんのって……ナマエ死にたいの?」
「いや出来れば死にたくないけど、それとこれとは関係なくない……!?」

全然意味が、というか最早この状況すべてがわからない。
なんで私は死ぬ宣告を受けつつ、結婚命令をされているんだ。

「関係あるだろ。うちは基本的に依頼は断らないから、今回の依頼も受ける。でも家族は殺さない。それなら結婚しちゃえばナマエは家族だ。断る理由ができる」
「いやいやいや待って……」
「なに? オレと結婚するのが嫌なの?」
「や……そうじゃなくて……!」

飲み物どころじゃない。突拍子もない展開に軽くめまいを覚えて、リビングのソファに戻る。イルミも後をついて、となりに座った。

「ねえ待ってよ。私もだけどさ、イルミって結婚とかべつに興味ないでしょ。なのに、そんな理由で結婚なんて気が引ける」
「オレがいつ結婚に興味無いなんて言った?」
「え……な、なんとくなく……」
「ふつーにあるよ。後継ぎではないけど長男だし」

よくもまあ、ここまで顔色ひとつ変えないでいられるな。明日地球が滅亡するって聞いても平然としているんじゃないかこの男。

「……じゃあ仮に! 仮にね! もし結婚して、もし子どもが産まれたら暗殺者に育てるんでしょ? 私自分の子どもにそんなことさせたくないよ」
「それお前が言う?」
「言いたいの」
「あーもーうるさいなぁ……」

ほんの少しイルミのオーラが殺気立った。このまま殺られるかも、と瞬時に思ったけれど。
頬を掠めたのはイルミの凶器ではなく、髪。気づいたら、ふわりと長い腕のなかに閉じ込められていた。

「オレはナマエに死んでほしくないし逃げてもほしくない。一緒にいたいんだよ」
「イルミ……」
「頼むから結婚して」

私の肩口に顔をうずめるイルミ。初めて見る弱々しい姿と、そこまで私を想っているのかという嬉しさで心がきゅっと締まる。


Where there is love,
there is life.
(愛あれば人生あり)


「……なに笑ってるんだよ」
「殺されないために結婚するとか、ばかみたい。あはは」
「馬鹿でもなんでもいーから。今からうち行くよ。家族に紹介する」



thanks/alphabeta


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