こころの傷


暗かった。
急に辛くて悲しくて嫌なことを思いだし、頭の中がごちゃごちゃする。涙が止まらない。
こんなときにもし彼が来たらと思うと言い逃れしようの無さに『(良太郎さんが今日は来ませんように)』と願ってしまった。だがその願いとは裏腹に後ろにある押し入れがまた開いた。
「やあ、なまえちゃ…」
最初はいつものようにくねくねっとした感じで声をかけてきたが、私の後ろ姿をみて違和感に気づいたのだろう。
けど、こんな姿を見られたくなくて、嫌われたくなくて
『良太郎さん、帰ってくださいっ』
キツく当たった。言葉を発したあと余計に胸がキツくなり涙がボロボロと落ちていく。
「…」
彼は無言で後ろに立っていた。
お願い帰って、帰って
胸の中で呟けば呟くほど、涙が落ちて。
彼が動いたか、と思えば押し入れに戻るわけでもなく、ぎゅっと私を後ろから抱き締めてくれた。そして耳元で優しく「大丈夫」と何度も何度も囁いてくれた。
時折髪を撫でてくれて。
「何かあったの…?」
少し落ち着いた後に彼は私を抱き締めたまま問いかけてきた。
『嫌なこと、思い出して。』
「なまえちゃんにとって、差し支えなければ話してくれないかな?」
この人になら良いかな、と何故か思えて、コクりと小さく頷いた。
その話はまだ、私が外に出ることができたときのこと。やっと彼氏ができたか、と思うととても束縛が激しい人で辛くて別れると言えばストーカーをされ、けれどこんなこと誰にも話せなくて。独り暮らしの部屋を解約、実家に転がり込んで、この状態。
長い話を彼はきいてくれた。
「そっか。つらかったね。僕はそんなことされたことないからわからないけど、考えただけでも気分が悪くなるね」
ゆっくり背中をさすってくれる。
「ここまでなまえちゃんを追い込むなんて、ひどい彼だね。」
『うん…まあ私の見る目がなかったからだよね…』
そう言えば彼は首を横に振り、ニコッと笑って
「そんなことないよ、なまえちゃんはとてもセンス良いと思うんだけどなあ」
そういうとさっきよりも強く抱き締めてくれて。
「僕はなまえちゃんにそんな思いをさせる彼が許せないな」
と小さく呟く。
『えっ』と聞き返せば「何でもない」と笑われて。
嫌なことを思い出したのに、彼の胸の中が気持ちよくて。なんだかとっても、安心できた。


 

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