押し入れ


私が彼に会いたいと思うとき、必ず会いに来てくれる。あの押し入れから。

『ねぇ、押し入れから出入りするのは、窮屈じゃぁない?』
「そうかな。この部屋に入り口になる場所が少なくてね…、さすがにクローゼットの中から出るのは心苦しいしね」
くすっと笑う。
『いや、そういうことじゃなくて…』
私が少し強く遮るが、その言葉が徐々に小さくなり。
「玄関から普通に入ってこれないの?…ってこと?」
『うん…』
小さく頷けば、何故か少し彼の目が泳いでいるように見えて。
「ま、まあ色々あるんだよ。忙しいの。」
『忙しいって。押し入れから出入りするの大変じゃないの?良太郎さんが入った後確かめても穴なんてないし…』
「ま、まあ!」
何故か遮る彼。その彼がいつもとかわっておどおどしているのが可愛らしくて、くすりと笑えば、彼もくすりと笑ってくれた。だけどその笑顔がどこか、さびし気だった。


 

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