エル・ディアブロ

 飛んでもない方に気に入られてしまった……。アフロディーテは目の前に迫る眠りを司る神を前にその端整な顔を曇らせた。

 少なからず冥界と因縁を持つデスマスク、シュラそして自分は、我等が女神アテナや教皇シオンの名代として冥界を訪れることが多い。
 今回もアフロディーテは女神の変わりに冥界に来ていた。女神の印が押された書簡を、今代冥王の姉君であるパンドラ女史に無事に届けるというな使いを終え、聖域に帰還しようと踵を帰した時だった。今だかつてこんなに心地好く睡魔に誘われたことがあっただろうか。なんの抵抗も出来ずにアフロディーテはその場に崩れ落ち直ぐに眠りに落ちた。それぐらいに自分を捕らえて離さないものだった。
 どれぐらい眠っていたのかは分からない。しかし覚醒した時には、倒れた冥界ではなく何処か誰かのベッドの上に寝かされていた。あれだけ気持ち良く眠ったと言うのに、起きた時頭の中はぼんやりと霞が掛かった様で酷く不快だった。
「目が覚めたか。」
 声の方向に顔を向ける。見た瞬間ぎょっとした。頭の中を覆っていた霞が一気に吹き飛ぶぐらいに。
「……あ、なたは…。」
 目の前に立つその人は冥王に忠誠を誓う双子の神。その片割れ、金色の神に金色の瞳を持つ眠りを司る神ヒュプノスその人であった。
「では此処は…エリシオン!?」
「余り大きな声を出すな、タナトスがまた怒鳴りに来る。」
 またということは以前にも怒鳴られたことがあるのか……銀色の双子の片割れの神に怒鳴られるヒュプノスを思い浮かべようとしたが、余りにも自分には双子神の情報が圧倒的に足りない。アフロディーテは即刻この想像を破棄した。そう。こんな阿呆な想像をするより先に自分が何故眠らされ、エリシオンの花園まで拐われて、ヒュプノスのベッドで寝かされていたのかを問わねばならない。
 しかしそれと同時にアフロディーテは、この目の前の神が自分の質問にきちんと答えてくれるとは到底思えなかった。
「暫くは此処にいろ。」
 しかし言わねばどうにも為らないと、アフロディーテがぶつけた質問はヒュプノスのこの言葉により見事に玉砕した。
「意味が分かりません。何故私がエリシオンに留まらなければならないのですか? 何か理由があるなら仰って下さい。無いのなら私にはアテナの元で地上を守護するという使命が有ります故、これにて失礼致します。」
 半ば捲し立てる様に言うとアフロディーテはベッドから立ち上がりヒュプノスの横を通り過ぎていく。神相手に臆せず堂々とものを言う姿にヒュプノスは内心関心していた。それは益々魚座を地上に返したく無いと思わせるには十分な感情だった。
 エリシオンから帰還する為に、神聖衣になろうと小宇宙を高めるアフロディーテの腕をヒュプノスの手が伸びる。
「――狂い咲け!我が小宇宙…ぅわあッ!?」
 後ろに引っ張られまたベッドに放り投げられた。折角集中していた小宇宙は飛散して薔薇の花びらにとなり部屋の中に舞い散る。慌てて起き上がろうとするアフロディーテだったが、目の前にはヒュプノスが迫り、動きを制す。神の為す所業だからかアフロディーテは逆らえ無かった。
「さて、此れからどうするべきか。」
 それは此方の台詞です。とアフロディーテはせめてもの抵抗に神に毒吐く。紅い花びらが舞う中、暫くの間二人は動くことはなかった。

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