脳内pink

 何時もは薔薇達の面倒を見るその手が触れているのは瑞々しい桃。貰い物だというその桃の柔らかな産毛を取ると、皮をゆっくりと丁寧に剥いていく。時折、広い面積の皮が綺麗に剥けた、と得意気に笑い掛けてくる。一々見せてこなくても、見ているので分かっている。
 余り反応を示さなかったからか、少し機嫌を損ねた様だ。それでも桃の皮を剥くことを止めはしなかった。一つ目の皮を剥き終わったところでナイフに手を伸ばし果実を切り分けるかと思ったが、その手が取ったのは二つ目の桃だった。一つ目より綺麗に皮を剥いて、それが終わると三つ目…最後の桃を手に取る。
 最後の皮を剥いている途中で、持っている柔らかい果実から果汁が染み出る。微々たる量だった果汁は、三つ目を剥き終わる頃に白い手を伝い落ちるぐらいになっていた。ポタリ…と一滴がテーブルに落ちる。
 本人はさして気にしてない様だが、今しがた起きた事象は視覚的にクるものがあった。此が同じ幼馴染みの山羊座だったら何も思わないのだが。やはりそれをしているのが、目の前にいる魚座の麗人だからか。
 そのことを分かってか……いや、きっと分かってはいないだろう。うっかり手首にまで流れ落ちるのを許してしまった果汁を、なんとはなしに下から上へ流れに逆らって赤い舌が果汁を舐め取っていく。果汁で光っていた其処は、唾液で上書きされ、寄り一層掻き立たせるものがあった。
「…デ、」
 自分の名前を囁かれるより早く、艶やかな唇より吐息を奪った。薄く開いていたそこから舌を差し入れ、桃の果汁を含んだ麗人の赤い舌と絡ませる。舌先に広がる甘さと、慣れ親しんだ魚座の身体に染み付いた薔薇の香気に酔いしれる。
 角度を変えて深く何度も口付けを交わす。途中でくちゃりと手から桃が滑り落ちた様だが、知ったことではない。今はただこの一時の甘い口付けを堪能していたかった。
 しかし、未だに息継ぎのタイミングを掴めないでいる不器用な魚座の為に、名残惜しいが一度唇を離す。散々舌で弄んだお陰か、互いの唾液で紡いだ銀色の糸が伸びてプツリと切れる。肩で息をしながら、涙を湛えたアクアブルーの瞳が恨めしそうに睨んでいた。そんな瞳をしないでくれ。もっと欲しい、と望んでしまうから。
 しかし次に飛んでくるのは拳だ。まあ大体予想していた通りの展開に思わず笑みが溢れた。顔に当たる寸前で手首を掴んで防いだ。掴んだその手は桃の果汁で濡れている。つい先程口内で味わった甘い甘い果汁が滴る指先をべろりと舐めてやった。驚いて手を引っ込め様とするが、力は此方のほうが上だ。キスを交わしたのもあって、ろくに力が入らないらしい。
「ゃ…。」
 ぴちゃぴちゃ…わざと音を立てて手についた果汁を舐め取っていく。指先に軽く吸い付けば、か細い悲鳴が上がる。可愛い。そのまま指の根元まで銜えて、フェラをする時の様に舌を絡めて少しきつめに吸い上げてやった。
「…デスマスク…ッ…。」
 いつかの行為を思い出した様だ。目の前の麗人は桃の様に頬を染めて、俺を見付めていた。

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お題:わざと見せ付ける

アフロちゃんの場合は天然。
でっちゃんの場合は確信犯。

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