force

 磨羯宮の裏側。開けたこの場所は獅子宮近くのコロシアム程ではないが鍛練をするのに向いている。己を磨くことに余念がないシュラは、今日も日が登る前から武術の稽古をしていた。
「おはよう。」
 陽光が聖域を等しく照らす頃、双魚宮から降りてきたアフロディーテを確認するとシュラは漸くと動きを止めた。その瞬間、冷たい風が首筋を撫でる。
「なんのつもりだ。」
 答えるより早くアフロディーテはシュラの急所を狙い拳を繰り出す。それらをことごとく受け止め、或いは躱し、そしていなしながらシュラは反撃の機会を窺う。
 魚座の性か、アフロディーテは余り体術の才には恵まれていたとは云えなかった。幼い頃は自分やデスマスクと組み手をしては、良く地面に転がったり吹き飛んでいた。顔に似合わず負けず嫌いで勝ち気だったアフロディーテは自分が勝つまでやるタイプで、日が暮れて周りが見えなくなるまで組み手に付き合わされたこともある。大体そういう時は、サガかアイオロスに止められて終わり。まだやるんだとごねるアフロディーテとデスマスクと三人、共同風呂で汗や泥を洗い流す際にもアフロディーテは何時も悔しくて泣いていた。そしてそんなアフロディーテの最後は必ず「明日こそ君に勝つ!」とか言っていたっけ…。
「何処を見ている!」
「…くっ!?」
 組み手の最中に考え事とは失態だ。素早く体勢を立て直し反撃に転ずる。しかし、シュラの手刀はアフロディーテに届かなかった。
 幼き頃よりアフロディーテは強くなった。確実に。あの地面に転がされては泣いて食ってかかっていた幼馴染みは、確かに強くなっていた。
「…私の、勝ちだなっ!」
 今地面に転がされているのはシュラだった。一瞬の隙をつき、素早くシュラの足を払ったアフロディーテは、彼の上に跨がり首筋に拳を宛てたのだった。
「強くなったな、アフロディーテ。」
「君達のお陰さ。」
 幼馴染みの君達がいたから私は此処まで強くなれた…そう言うアフロディーテの顔は実に晴れやかな表情をしていた。
「君達ってことは俺のお陰でもあるってことだよな?」
「デスマスク!」
「お前いつからいた?」
「シュラがアフロディーテにスッ転ばされた時から。」
 にしし…と悪戯っ子の様な顔をしながらデスマスクは二人の側まで歩み寄る。
寄りによって一番みっともないところを見られていたなんて……と、シュラは大きな手のひらで顔を覆っていた。
 そして何時の間に持って来たのか、デスマスクは二枚のタオルを二人の顔に投げて寄越した。
「さっさとシャワー浴びてこい。その間に飯作って置くからよ。」
「…あぁ。」
「つー訳だ、アフロディーテは早よシュラの上から避けたれ。」
「うおっそうだった、済まないシュラ。」
 重かっただろうとアフロディーテは慌ててシュラの上から退けた。
「…何残念そうな顔してんだお前。」
「してない。」
「ふーん?」
「何してるんだシュラ、さっさと行くぞ。」
 未だに地面に転がったままのシュラは、アフロディーテに腕を引かれて漸く立ち上がるのだった。

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小宇宙スロットルとかのアフロちゃんの好戦的な表情が好きです。

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