brun

 窓の隙間から夕焼けた光が差し込む夕方。
 自身の執務を終えて双魚宮を訪れたシュラは、毛足の長いラグに水色の髪の毛が絡まって散らばっているのを見付けた。当の本人…アフロディーテはそんなことを一切気にせずに、コロコロとラグの上に転がってその感触を楽しんでいた。
「何してるんだアフロディーテ。」
「ふふふ、新調したのだよ。」
「それは見れば分かる。」
 アフロディーテが転がっているラグは、アテナの護衛に日本に行った際にそっちで有名な家具メーカーのラグを気に入り購入してきたものだ。落ち着いた深みのあるブラウンは元から双魚宮にある調度品と見事に調和を生み出している。
 こう言うことに関してのアフロディーテのセンスは素直に凄いと思う。自分にもそれなりにこだわりはあるが、最終的にはどうしてもシンプルで白黒の家具になってしまう。
そんな部屋に指し色を入れれば良いと、ラグに転がるアフロディーテが言っていたのを思い出す。結局言ったアフロディーテも、言われた自分も特に何もしていないのだけれど。
「…シューラ。」
「ほう…確かに手触りが良いな。」
「手触りを確かめるのに私に覆い被さる理由は?」
「無い。」
 そうだ、アフロディーテに近付く為に理由なんていらない。触れたいから触れるのだ。例えあったとしても、結局それは触れる為の切っ掛けと口実に過ぎない。
 ラグの毛とアフロディーテの髪の毛を一緒に撫でる。ふかふかでサラサラで、どちらもとても触っていて気持ちが良い。衣擦れの音がして、真下にいるアフロディーテが逃げようと藻掻いていた。そんな彼を逃がさぬ様に、シュラは咄嗟にアフロディーテ唇に口付ける。
 ちゅっとリップ音が鳴った後、アフロディーテからは悩ましげな吐息が漏れた。
「期待したのか?」
「…まさか。」
 だったら何故にそんな表情をするのか。
「欲しいならくれてやるが。」
「いらない。」
 そう言うとぷいっと顔を反らされた。本当はもっとたくさんキスをして欲しいとアフロディーテが思っているのを自分は知っている。なのにどうしてこう変な所で強がるのか。新調したばかりのラグの上は嫌だからか?…なんて的はずれにも程がある。自嘲していると、顔を反らしていたアフロディーテが訝しんで此方を見ていた。時は来た。
「隙あり。」

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山羊魚さんは、「夕方の床の上」で登場人物が「つよがる」、「吐息」という単語を使ったお話を考えて下さい。
#rendai
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