フェルドスパー 双魚宮から教皇宮へと続く石階段の丁度中間にアフロディーテは立っていた。緩やかにアフロディーテが両手を横に広げて、階段の両脇を彩るクリーム色の薔薇達と小宇宙を同調させる。アフロディーテが立つ段から上下に薔薇が輝きを放つ。刹那ぱっと散る様に光の粒子となって薔薇は皆階段から姿を消した。 否、あの薔薇は決して死んだ訳ではない。元はアフロディーテの小宇宙より形成されたものであり、薔薇達はアフロディーテの元に還ったに過ぎない。 さて、此処からが問題である。次に何色やどんな形の薔薇を咲かせようか……変換期になる度にアフロディーテは今立っているこの場所に仁王立ちし、思案の時間を過ごしているのだ。 「また悩んでいるのか。」 背後より聞こえてきた声にアフロディーテは振り返り「そうだよ。」と答える。階下には寒風にテールグリーンの髪の毛を遊ばれたままのカミュの姿があった。 「おはよう。今朝は早かったんだね。」 同じく風にシアンの巻き髪を遊ばれるアフロディーテは階段を上るカミュへと微笑む。カミュの表情は特に変わり無い。しかし此がカミュの常であり悪気がある訳では無いのだ。それを理解しているから、アフロディーテもさして気にしていなかった。 「起こしてくれても良かったのだが。」 「あんまりにも気持ち良さそうに寝ていたからね。起こすのは悪いかと思って。」 今この時間から活動することは早過ぎるからとアフロディーテは更に言った。 「それを言うなら、貴方がこうして薔薇を変換しようと活動しているのも早過ぎるということになるが?」 「私のことは良いのだよ。」 「良くない。」 アフロディーテの隣に立つとカミュはじっと彼を咎めるように見つめてきた。 「…分かってるよ。心配してくれて有難う。」 「その割りには反省の色が全く見えないのだが?」 「それよりカミュ、今度咲かせる薔薇の色を何色にしようか?」 誤魔化された。そう思いながらもカミュはアフロディーテの問いに真剣に考え始める。 「…赤。」 「赤?」 「ここと同じ色で。」 カミュの指先がアフロディーテの首筋に触れる。其所には昨夜を共にしたカミュがつけた赤い…否、赤黒いキスマークの跡がついていた。 「こんな所…いつの間に着けたんだい?」 「さあ。」 「…君も人が悪くなったものだな。」 「貴方のせいでもある。」 「私の?そうか…なら益々質が悪いぞカミュ。」 最早ここまでくればどっちもどっちである。ならば、もっと質が悪くなれば貴方はどうするのだろうか。 「…カミュッ!」 ぐいっとアフロディーテの身体を抱き寄せて、首筋に唇を寄せる。皮膚を挟んで吸い上げるとカミュの耳にアフロディーテの甘い吐息が漏れる。 「…咲いた。」 昨夜つけたのと同じ赤黒い華が。そこに再度唇を寄せて軽いキスを繰り返し落としていく。 「私に、つけて…どうするんだい…?」 「…やはり赤は止めよう。」 「ちょっとカミュ聞いているかな?」 アフロディーテの言葉は勿論カミュに聞こえていたが、己の中で思案するカミュには何処まで届いていただろうか。 取り敢えずこのまま抱き締められた状態では何も出来ないので、カミュの脇腹を擽り彼の拘束から抜け出したアフロディーテは階段を数段上がり、薔薇を形成する為に小宇宙を燃やした。 ―――――――――――― カミュさん Joyeux anniversaire!! いつぞやかの階段話の続き。誕生日とは関係なくて恐縮です(>_<) でも愛は、愛は込めましたので…!← |