徒花

 温かなお湯に浸かったままアフロディーテは目を閉じていた。一瞬寝てるのかと思ったがやはりそんなことは無かった。
「…君か。」
「朝っぱらから教皇宮の風呂とは随分良いご身分じゃねえか?」
「教皇…サガが良いと言ったのだ。」
「昨日のお相手をしたから?」
「さあな。」
 広すぎる教皇宮の浴槽には、その広さと比例する様に大量の薔薇の花びらが浮んでいた。これを確信犯と言わずなんと言うのか。
 デスマスクが近付くのと同時に、アフロディーテは肩まで浸かっていた姿勢から縁に寄り掛かる姿勢に変えた。髪の毛がお湯に落ちて赤い花びらと絡みあう。
「…サガはどうしてた?」
「アイツなら寝てるぜ。」
「…そうか。」
「なあアフロディーテ、辛いんなら……。」
「それは君もシュラも同じだろう。今更私だけなんて出来るか?」
「だがお前の性欲処理と俺らの粛清とは訳が違う。」
「私達三人は其々が出来ることをしている……そうだろう?」
「違うな。」
「…一緒だよ。根本的なところは…ね。」
 そう言うとアフロディーテはまた目を閉じた。サガとの情事に心身共に疲れているのだろう。再度呼び掛けると酷く億劫そうに返事を返された。
「朝飯何食いたい?」
「…軽いものが良い。」
 案の定食欲も失せている様だ。黒いサガに抱かれた翌日のアフロディーテはいつもこうだ。食欲を無くすほどに激しく抱かれた弊害が、教皇宮の道を護る魔宮薔薇の調子まで狂わせることをあの黒いサガは知っているのだろうか。下手をすれば要らぬ事案と要らぬ任務が増えるだけだというのに。結局それの処理するのは自分かシュラで、また黒いサガはそれの腹いせを性欲処理と称してアフロディーテを抱くのだ。とんだ悪循環ではないか。
 そして想定内のアフロディーテの解答を受けたデスマスクの頭は、もう何を作るか決めてあった。
「先、双魚宮行っていつものゼリー作っとくからよ。」
「…うん。」
「そのまま寝ないで、さっさと上がってこい。」
「…うん。」
 デスマスクの靴音が遠ざかる。アフロディーテは瞼を押し上げ、彼が去っていった場所をぼんやりと見詰めていた。
「…馬鹿だよな。私も君も。」
 私が黒いあの人を鎮めないと、君らに皺寄せがいくのだよ。そう。穢れるのは、私だけで良い。誰に聞かれることも無く呟かれた言葉はただ消え行く。とぷん…と魚座もお湯の中に消えた。

――――――――――――

蟹魚さんは、「早朝の浴室」で登場人物が「出会う」、「ゼリー」という単語を使ったお話を考えて下さい。
#rendai
shindanmaker.com/28927

ある意味ハチャメチャな↑のお題に答えたらこんな話になりました←

13年間の暗っらい蟹魚。
要はどちらも護りたいだけなのです。

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