レウコン

 氷河が一人で此処双魚宮を訪れるのは多分、初めてだと思う。何時もは師である水瓶座のカミュがいる宝瓶宮止まりで、アテナ沙織に用事がある時は通り過ぎるだけだし、寄ったとしても瞬とか星矢とかと常に一緒だった。
「おや、君が此処まで来るなんて珍しい。」
「お邪魔します。」
 真紅の魔宮薔薇が咲く庭園でアフロディーテは突然訪れた氷河を歓迎した。
 屋外は寒いからと双魚宮の居住スペースに通されたが、修行地だったシベリアのほうが余程寒かった。
「君もカミュと一緒だな。」
「我が師と…ですか?」
「ああ寒くないと言っても、見てるほうからすれば寒そうに見えるんだよ。」
 特に鼻の頭を赤くしてる姿は、幼い時のカミュとそっくりだ…と氷河の鼻の頭を突っつきながらくすくすと笑った。自分もカミュも確かに表情には余り出ないから、余計にそう見えてるのだろうか。少なくとも、目の前を歩く魚座の彼にはそう見えたようだ。
 リビングに通されると、双魚宮の主を放ってホワイトレザーのカウチと、ソファをそれぞれ独占し蟹座と山羊座が寝ていた。
「この二人はどうかしたのか?」
「うん?ああ気にしなくて良い。単なる二日酔いだ。」
 そう言うとアフロディーテは、カウチを占拠するデスマスクの頭を叩く。頭に鈍痛が響いているからか、低く唸っただけで毛布を引っ張り丸くなってしまった。
「蟹が丸くなった。」
「ふふっ…君は時折突拍子もないことを言うね。」
 氷河としては事実を述べただけだったが、アフロディーテには壺に入ったらしく肩を震わせて笑っていた。二人を気遣って声を響かせない様に。
「…ああキグナスこっちにおいで。」
 カウチもソファも占拠されている為に、キッチンのテーブルに着くように促される。真っ白なテーブルにはお菓子が出された。
「紅茶淹れるまで摘まんでいたまえ。」
 テーブルにはクッキーにチョコレート、マドレーヌにプリンが並んである。
「フルーツタルトも出そう。」
「いやこんなには…。」
「遠慮は無用だ。たくさんお食べ。」
 どのみち余ったお菓子はリビングで寝ている幼馴染みが復活した後食われるのだからと、魚座の麗人はタルトを切り分けながら言った。幾らたくさん食べて良いと言われても、やはり控えめに氷河はクッキーを摘まむ。カミュの作るクッキーも美味いが、アフロディーテのもバターがきいていて、他にも手作りのお菓子はどれも美味しかった。
 琥珀色の紅茶も入ってアフロディーテも席につく。それからはなんてことない日常生活の話。日本での暮らしとか、兄弟達の話とか。アフロディーテからはカミュやミロ達の幼い時の話とか、デスマスクとシュラと三人の話とか、本当に取り止めのない話ばかり。
「それでも、今日は貴方のところに来て良かった。」
 またいつでも来ると良い。そう微笑んだアフロディーテは白い薔薇をお土産にと氷河に渡す。
 貰ったこの薔薇の品種は白鳥だと氷河が気付くのはまだ先のことである。



氷河くん誕生日おめでとう!
間に合って良かったー。なんか彼とはほのぼのして欲しかった。ひよこたからでしょうか?(笑)←

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