Selfish person

「退屈だ。」
 ごろんとアフロディーテはベッドの上で俯せから仰向けに体位を返る。彼の視線の先には磨羯宮の守護者であるシュラの姿があった。マホガニーで作られた机に向いシュラは持ち帰った書類にペンを走らせていた。急ぎの書類かと言われればそうじゃない。定時を迎えた時には今日の執務全てを終えている。仕事熱心のシュラにはそれが当たり前のことで、だからこそ急ぎでもない同僚等が残した中途半端な書類を仕上げなければ気が済まない。クソがつくほど真面目なのがこの山羊座の良いところで悪いところである。
「シュラー。」
「もう少しだ。」
「さっきも聞いた。」
「あと十枚で終わる。」
「それの何処が少しなのだ。」
 折角磨羯宮に来たのに…。シュラに会いに来たのに…。とアフロディーテが煽ってみるが、仕事モードのシュラには効かなかった。何時もならすぐ何かしら反応を返してくれるのに、今日に限っては生返事も返さない。時計の秒針が時を刻む音と、カリカリサラサラとペンが走る音だけが部屋に響く。
「退屈だ。」
「…………。」
「デスマスクのところに行くか…。」
「それは駄目だ。」
 今日初めて返してくれた言葉は、牽制。アフロディーテとしては何気無く言った言葉だった。夕御飯の時間はとっくに過ぎていたが、文句を垂れながらも料理を作ってくれててちょっと空いた小腹を埋めさせてくれるだろうと。そうアフロディーテはデスマスクに期待しての言葉。それだけだった。しかしたったそれだけのことすらシュラは許してくれない。
 勝手だと思った。アフロディーテの我が儘も大概だが、シュラの我が儘も大概だ。それでもアフロディーテはシュラの我が儘をキスという形で受け入れた。
「…君も存外我が儘なのだな。」
「俺が我が儘になるのはアフロディーテだからだ。」
 自己の主義主張を貫いた結果がこの我が儘ならば、自分達は其々この我が儘が許容出来る。何故なら惚れた時点で、相手の全てを許しているからだ。



山羊と魚に其々我が儘言って欲しかっただけ。

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