ザッハートルテ

 巨蟹宮の居住区よりアフロディーテの怒鳴る声が聞こえる。なんぞの事で彼がキレているのかシュラには皆目見当がつかない。故に巨蟹宮に着いてアフロディーテが激怒していた理由をデスマスクから聞いた理由は、実にアホらしい理由だった。
「イヴ用のケーキには生クリームではなくチョコレートクリームだと言ったじゃないか!?なのに何でいつものを買ってきたんだ!」
 クリスマスだからちょっと趣向を変えたかったらしいアフロディーテ。しかしこんな時期だアフロディーテと同じ考えをもった奴なんてごまんといるだろう。
 チョコレート生クリームをうっかり買い忘れていて、急いで買いに行ったが売り切れていた…なんて口が裂けても言えない…と、こっそりデスマスクの小宇宙通信を受け取りながらシュラは溜め息を溢すしかなかった。

 予定が狂ったクリスマスケーキはただ静かにキッチンのテーブルに置いてあった。側には白いいつもの生クリーム。種類豊富なフルーツ。そして未だにご機嫌斜めなアフロディーテ。
「…デスマスクは?」
「さあな、何処かに出て行ったのは間違い無いが。」
「…逃げたな。」
 恐らくは上か…クリスマスパーティー様に同じくケーキ作りに勤しむ誰かの所に、チョコレート生クリームを求めに行ったのだろう。先程の口が裂けても言えない理由故に、きちんとアフロディーテに伝えられないせいでデスマスクは自ら更に首を絞めるかたちになってしまった。
「白いいつものでも良いじゃないか。」
 チョコレートも美味いが、白いのも美味い。と、フォローになってる様でなってないフォローを入れ、シュラは何とか彼を宥めようとする。アフロディーテだって分かっている筈だ。明日の予定が今日になっただけの話、そんなこと此処では日常茶飯事だろう?
「…それも、そうだな。」
 折れたのはやはりアフロディーテだった。まだ納得には至っていない様だが、おもむろに席から立ち上がるとアフロディーテは、緩くなった生クリームを泡立て器で再度泡立て始める。
「何故其処までチョコレートに拘る?」
 ガシャンと不躾な音が響く。アフロディーテの持つ泡立て器が歪んだ気がしたが、気のせいにしておこう。
「君らが…食べたいと言ったからだろうがッ!!」
 一ヶ月前に!そう言いながら小宇宙を燃やすアフロディーテからシュラは急いで巨蟹宮を飛び出して行った。

***

「だからあんなに怒ってやがったのかアイツ…。」
「ということは…お前も忘れてたんだなデスマスク。」
 シュラが磨羯宮に戻るとその入り口、柱にもたれ掛かって煙草からニコチンを接種していたデスマスクと鉢合わせた。残念ながらチョコレート生クリームは手に入らなかった様だ。
そしてシュラは今しがたあった出来事をデスマスクに話し……先程の会話に至る。
「あれだろ?チョコレートケーキ食いたいなんてボソッと言っただけだぜ?なのに今日まで覚えてて…馬鹿みたく律儀だな、アイツ。」
「だが其処が可愛い。」
「急に惚気んなボケ。まあ確かにそういう所が可愛いけどよ。」
 にしし…と笑うデスマスク。互いに惚気た所で、二人の間にはこれからどうするかという重い空気が流れる。おまけに寒風も吹いて屋外で話すには寒いとのことで取り合えず磨羯宮の中に入ることになった。
 巨蟹宮にいるアフロディーテの小宇宙は未だに荒んでいる。チョコレートケーキを食べたいと言った二人が二人共に忘れていたのだから、怒るのも無理はない。寧ろ怒って然るべきだ。
「此処は…素直に謝るべきだろう。」
「だよなあ…。」
 しかし、今行って許してくれるだろうか。言い出しっぺの癖にそう悩むシュラに、デスマスクは言葉を続ける。
「知ってるか?魚座に取って許すってことは、愛するとイコール何だってよ。」
「俺達を愛しているから、アフロディーテはきっと許してくれると?」
「そういうこった。」
 まあ駄目な時は駄目かもしれないけどよ、と付け加えてデスマスクはシュラに目配せをする。此処でウダウダしていてもアフロディーテの機嫌を更に損ねるだけだし、この後日本より女神や青銅聖闘士達が来るのだ。このままで良い訳がない。
 いよいよ腹を決めたデスマスクとシュラは、巨蟹宮のアフロディーテの元に戻るのだった。



めりーくりすまーす。
魚はきっと許してくれる…ハズ(笑)

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