この乙女、唯我独尊故 「珍しいね、君が此処まで来るなんて。」 深紅の魔宮薔薇に映える金色。サラサラと髪の毛を風に遊ばせながら、六つ下の処女宮を守護する黄金聖闘士は双魚宮へとやってきた。 何時ものごとく、魔宮薔薇の手入れをしていたアフロディーテは立ち上がると軽くエプロンを叩き土を落とす。庭園の入り口に立つシャカの元に歩みよると開口一番シャカはこう言った。 「誕生日だそうだ。」 「…うん?誰がだい?」 「私の。」 「あぁそれなら知っているが……。…もしかして君は自分の誕生日を忘れていたというのかね?」 コクリと頷くシャカを見てアフロディーテは小さく溜め息を溢した。 「主役の君が誕生日を忘れてどうする。」 半ば呆れながらアフロディーテはシャカに紅茶を進めた。頂こう、シャカはティーカップに手を伸ばし喉を潤している。……反省の色は見られない。 現世に生きてる癖に、俗世のこと……よりによって自分の誕生日が今日だと認知していなかったとは、アフロディーテのみならず誰でも溜め息しか出ないだろう。 現に誕生日パーティーの仕度で急がしそうにしていた非番組のミロは小宇宙に寄る通信を受けて盛大に転び酒瓶三本駄目にし、同じく非番組のムウはせっかくの買い出しの品を柄にもなく落とし、非番ではないが料理担当のデスマスクに至っては調味料を間違え、手伝いに駆り出されたシュラが皿を落とすなどなど……黄金聖闘士たる皆が皆、有り得ないミスを犯していた。それだけ衝撃的であったのだ。 「…何やら皆騒がしいな。」 「十中八九君のせいだよ、シャカ。」 「別に私は誕生日を祝って欲しいとは言ってないのだがね。」 珍しく紅茶もといチャイを気に入ったらしく、シャカはお代わりを要求する。お代わりをティーカップに装いながらアフロディーテは口を開く。 「君が誕生日をどう思っているかは私は分からない。だが君の誕生日を祝う皆の気持ちは、俗世に疎い君でも分かるだろう?」 新しく入れたチャイを差し出す。やや棘のある言い方をされたからかシャカは少しだけ顔を曇らせた。しかしそれは皆の気持ちを理解した故の表情であり、どれほどシャカが理解しているか分からないが少なくとも罪悪感は感じているだろう。 「分かるのなら……それで良いさ。」 特に感謝をしろとも、謝れともアフロディーテは言わなかった。何をすれば一番ベストかはシャカ自身が一番分かっているから。シャカを宥めるこの姿は、随分昔の……まだ幼かった頃に言われたこととよく似ていた。 「…時にアフロディーテ。」 「なんだい?」 温くなってきたチャイは、冷めると余計に甘く感じる。 「誕生日に君から何か頂けるのかな?」 「……一応用意はしているが。」 何を言い出すかと思えば……シャカにしては珍しく子ども染みた文言だ。今渡しても問題は無いが、今渡すのは違う気がした。 「楽しみは後に取っておきたまえ。」 「そうか……なら、今はこれで我慢するとしよう。」 薔薇の甘い香りが鼻腔を擽る庭園。それに加えて冷めたチャイの甘さが口に広がる。 「……シャ、」 シャカのまさかの行動に、アフロディーテの余裕を含めた表情は崩れ、驚きの余りにアクアブルーの瞳は見開かれたままだ。閉じられたままのシャカのシーグリーンの瞳は真っ直ぐアフロディーテを捉えていた。 「続きは全てが終わってから受け取ることにしよう。」 マイナーの神に愛された(←)私に、もはや怖いものなどないのだよ!← 結局間に合わなかったシャカ誕← 改めてシャカさん誕生日おめでとうございました。 |