ブバルディア

 聖戦を終え三界協定が結ばれた後、使者として始めて双魚宮を通った時は、余りの薔薇の匂いに目眩すら覚えたものだ。特別好きでもなければ嫌いでもないが、やはり嗅ぎ慣れない匂いは身体の調子を狂わせる。それでも何回か此処を通り過ぎるだけだがラダマンティスにはもう慣れたもので、身体の不調は感じられない程となった。
「先日の件…アフロディーテが戻って来てくれて助かった。」
「いや…それを言うならこちらこそ、身内の見苦しいものを見せて済まなかったね。」
 コトリ…と出されたアンティーク調のティーカップに、少し濃い目の琥珀色の紅茶が注がれていく。普段ラダマンティスは専らコーヒーを好んで飲んでいる。その影響で余り紅茶を飲まないが、出された手前頂かなくては失礼にあたるとラダマンティスはティーカップに手を伸ばす。
「それで…あの後はどうなった?」
 紅茶を一口飲んだラダマンティスが言う"あの後"とは、先日冥界からの使者として聖域を訪問した際に起きた黄金聖闘士同士のいざこざである。蟹座(キャンサー)のデスマスク曰く、今年一年の内に積もり積もった恨み辛みその他諸々エトセトラエトセトラ…が、爆発した結果だと言っていた。
 寄りによってラダマンティスが訪問する日に爆発しなくても良いだろう……と、ラダマンティスは自分自身の運の無さを呪ったものである。そしてまさか教皇であるシオンまでもが、その爆弾を爆発させるなど誰が考えられようか。阿鼻叫喚渦巻く聖域で文字通り茫然自失状態のラダマンティスにとって、別件任務より一時的に聖域に帰還してきたアフロディーテはまさに救世主だった。
「客人に話す内容ではない…と言えば理解して貰えるだろうか?」
「…ああ成る程、皆まで言うな。」
 凄まじい状況だったんだなとラダマンティスは容易に想像出来た。向かい側に座り同じく紅茶を飲んでいたアフロディーテを含めたデスマスク、シュラの苦労は幾何か計り知れない。ラダマンティス自身も部下を抱えているので其なりの苦労はある。部下以外にも同じ冥界三巨頭のアイアコスが時にやっかみ込んで来たり、ミーノスはまだアイアコスに比べれば良いほうだが冷静なあれも時々突拍子も無いことをするし……。
「君も苦労しているんだな…ラダマンティス…。」
 中立を保つものとしてアフロディーテもラダマンティスの苦悩を理解してくれた様だ。


 双魚宮の私室をノックする音が響く。小宇宙からしてこれは山羊座のシュラか。
「ラダマンティスが来ていると聞いてな。」
 シュラもアフロディーテと同じく私服だった。非番で街に買い物に降りていたらしい。アフロディーテから頼まれた買い物を渡すと、今度はラダマンティスへ何かを差し出した。
「これは?」
「ミーノスから借りた本と、その礼だ。」
 そう言えば先日ミーノスが何冊か本を見繕っていたな…と思い出す。礼をしっかり用意しているあたり、本当にシュラという男はアフロディーテやデスマスクが言う通りクソがつくほど真面目なのだなとラダマンティスは思った。
「分かった返しておく。」
「済まないが頼む。」
 冥闘士もそうだが聖闘士も安易に出掛けれる筈がない。こうやってどちらかが出向いている時に使いを頼むことは合理的でラダマンティスはそれを面倒だとは思わなかった。彼も聖域側から冥界に訪問してきた年中組に頼みごとをすることもあるからだ。
 そろそろ冥界へ帰還しようとラダマンティスが腰を上げる。するとアフロディーテは少し待っていろと言って剪定鋏片手に彼が管理する薔薇庭園へと向かっていった。
「始めて土産に薔薇を持たされた時にな…。」
 アフロディーテを待つ間、ラダマンティスはシュラに語りかける。
「アイアコスにお前に薔薇は似合わないと大爆笑された。」
「…彼は物事をはっきり言うからな。」
「しかし、パンドラ様には喜んで頂いた。彩があるのは良いものだな…と。」
「それは良かったじゃないか。」
 大切な人が喜んでくれたのなら。
「…そうだな。」
 今日の土産の薔薇は何色だろうか。



ブバルディアの花言葉は「交流/親交」

年中組と冥界三巨頭の年齢って同じなんですよね。ってことでこんな電波を受信した。
いつかこの六人でわちゃわちゃした話書きたい。

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