ガトーショコラ

 その人は教皇宮から出て来るなり、双魚宮の主とその主に会いに来ていた巨蟹宮の守護者を連れ立って聖域を後にした。

***

「なあ…これヤバくね?ヤバいよな?つかヤバいなんてそんな生易しいもんじゃねぇよな?」
「そんなに何回も言わなくてもこの状況がどんなにヤバくて不味いことか見たら分かることだよ。」
「うろたえるな小僧ども。」
「「はい、申し訳有りませんシオン様。」」
 実際にシオンから技は食らわなかったが、幼少期…所謂クソガキ時代の悪戯のお仕置きとして食らったトラウマを思い出してデスマスクとアフロディーテは二人して震えていた。そんな二人を尻目にシオンは皿にふんだんに持ってきたスイーツに舌鼓を打つ。
 シオンとその供のデスマスクとアフロディーテがやって来た此処は日本のとあるスイーツバイキングが売りの店だ。
 甘党な年中組に良かったらと瞬が贈ってくれたものが此処で行われるスイーツバイキングの招待状だった。三人で行こうと非番を合わせ約束を交わしたのがつい一週間前。しかし残念ながらシュラが急遽任務で聖域を離れることになってしまった。シュラ本人は勿論のこと、アフロディーテもデスマスクも残念至極。そしてどうしたものかと頭を悩ませていた。自分らで用意したものならシュラには悪いが残った二人で行くか、或いはすっぱり諦めて日取りを改めて三人で行くのだが、招待状レベルになると簡単に判断は出来なかった。
 そんな悩む二人の元に、誰から聞いたか――十中八九シュラがぼやいたのだろう――話を聞いたシオンが教皇宮から降りて来るなり二人を半分拉致して聖域を出て、日本にテレポーテーションをして……今に至る。
「…本当に出て来て宜しかったのですかシオン様?」
「問題ない。」
「見付かったらなんて言われるかねぇ。」
「私がお前達を連れて出して来たのだ。故にお前達がこれの責を負う必要は無い。」
 教皇の言は絶対だ。それ以上デスマスクもアフロディーテも何も言えなかった。
「折角来たのだから二人共にドルチェを食べたらどうだ?」
「あなた様の前でがっつけるほど、俺達の神経図太くないですよ。」
 そう言いながらデスマスクはオペラを口に運ぶ。シオンの皿に比べれば明らかに少ないデスマスクの皿。それはアフロディーテも同じだった。彼の場合は持ってきたスイーツに一切手を付けずにずっとレモンティーを飲んでいる。
「…此処では教皇も黄金聖闘士も何もない。ただドルチェを食べに来たただの若人三人よ。」
 シオンの若人に一瞬引っ掛かったが、肉体年齢が18歳なのだから若人で正解か…と無理矢理納得した。
 堅い様で堅くない思考を見せるシオン。若いくせに頭が堅い二人に変に気負ったり、兎に角入らん気を回すなと付け加える。
「だから気にせず好きなだけ食べるがいい。」
 で、シュラに写メでも送り付けてやれ、とシオンは最近覚えたスマホでデスマスクとアフロディーテ二人の写真を撮った。
「こんな辛気臭い顔で食べてたと知れば、シュラは怒るだろうな。」
 来られなかった幼馴染みの名前を聞いて、先に動いたのはアフロディーテだった。
「なあデスマスク、彼処のフレジエ…気にならないかい?」
「…おう、取ってくるか。」
 流石に罰が悪くなってきたのかデスマスクもアフロディーテと共に席を立つ。漸くと重い腰を上げてバイキングに向かった二人をシオンは黙って見送った。
 撮ったばかりのデスマスクとアフロディーテの写真を見ながら、シオンはガトーショコラを一口。甘くてほろ苦い。いや苦味のほうが強い気がした。
 二人の表情は先程も言ったが本当に辛気臭い。幼い時から二人を見て来た爺としては、子ども達には笑顔でいて欲しいものだ。平和なんだから尚更、意味もなくただ無邪気に幸せそうに笑っていて欲しい。それでもたまにはこんな辛気臭い顔の写真が一枚や二枚あっても良いか…と保存のボタンを押す。
そして最後の一つになったベイクドチーズケーキをシオンは迷わず一口に食べきるのだった。



星矢SSだと蟹と魚が大羊に対して喋るんですよ。蟹がこの文で"あなた様"って言ったのは其処からの影響です。魚があなた様っていうのは分かるけどまさか蟹まで言うとは思わなくて…力こそ正義な二人はもしかして射手や双子兄より先に大羊になついていたんじゃないかと…(病)
ハーデス編で大羊蟹魚の三人が十二宮を昇ったらどうなったんだろうと考えると色んな意味で胸が熱いです。

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -