ジルコニア

「アフロディーテ少しだけ匿って頂戴。」
「はい?何かあったんですかアテナ?」
 アテナは半ば駆け込む様に双魚宮の薔薇の庭園にやって来た。アフロディーテの記憶が正しければ彼女は今の時間は執務に費やしている筈なのだが…。そんな我等が女神はアフロディーテと薔薇達の間にしゃがみ込んでじっとしていた。お召し物が汚れるとアフロディーテが忠言するが、アテナは自分の唇に人指し指を立てると、静かにと歳相応の少女らしく可愛らしい笑みを浮かべた。
「アテナ―――!何処ですか―――!?」
 それから間も無くサガが、アテナを探す声が庭園に響き出す。ああ、成る程そういうことか…と、アフロディーテは少しだけ困った表情を浮かべるのだった。
「…サガ、どうかしたんですか?」
「ああアフロディーテ。アテナを見掛けなかったか?」
「アテナならつい先程双魚宮を降りて行きましたよ。」
「そうか、有難う。管理作業中に済まなかったな。」
「いいえ。」
 花が綻ぶ様なアフロディーテの笑顔を見て、サガの表情も幾ばくか和らげてそのまま庭園を出て行った。
「もう出て来ても大丈夫ですよ。」
 アフロディーテより差し出された手のひらにアテナは自らの手のひらを重ねると、アフロディーテは優しく手を引いてその場に立ち上がらせてくれた。アフロディーテの言う通りドレスの裾が汚れたが、当のアテナは然して気にして居なかった。
「少しびっくりしたわ。」
「何がです?」
「アフロディーテからサガに声を掛けると思わなかったから。」
 此処にいると告げ口されると思ったらしい。
「貴女から匿ってくれと言われたんですよ。私はそれを守っただけなのに…。」
「そう、よね…ごめんなさいアフロディーテ。」
「…冗談です。私は気にしていませんよ。私こそご無礼を失礼致しました。」
 ふんわりと香ってくるアフロディーテの薔薇の香り。庭園に咲き誇る薔薇達も勿論それぞれに香りを放っているが、それに負けない、けれども主張し過ぎず優しく香る。アテナはこの香りが好きだ。だってこの香りは…アフロディーテが自分を守ってくれていると実感出来るから。それに今ではとてもこの香りに安心感を覚えていた。自分はこの香りに陶酔しているのだろうか。なんだかとてもこの時が、温かくて心地良かった。
「さあ、アテナ。」
「もう少しアフロディーテと話をしていたいわ。」
「それはまたの機会に…。ほらサガが戻ってくる前に教皇宮に戻りましょう?」
 そうしないと二人共に怒られてしまうとアフロディーテは笑みを絶やさずに穏やかに言った。



女神と魚座。
女の子はちょっと我が儘なくらいが可愛いと思うのです←

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