ウルフズベイン

「アフロディーテ。」
 宝瓶宮を守護する水瓶座のカミュが訪れたのは、一段上……十二宮最後の砦である双魚宮である。
「…アフロディーテ?」
 もう一度呼び掛けるが、アフロディーテからの返事は無い。
 今日彼は自分と同じく非番である。大抵は此処、広大な庭にて魔宮薔薇を始めとした様々な薔薇の手入れをしているのだが……。
「部屋には……居ないな。」
 小宇宙を探るが双魚宮内の自室にアフロディーテの小宇宙は見当たらない。もしかするとわざと小宇宙を消している可能性もある。緊急を要する事案は発生していないし、態々消す理由もない。だからといって自分は此処にいると主張するくらい小宇宙を高めるのもクールではない。
「…カミュ?」
「!シュラか……驚かさないで頂きたい。」
「いや……驚かすつもりは無かったのだが……。」
 双魚宮に新たな来訪者が来た様だ。双魚宮より二つ下磨羯宮を守護する山羊座のシュラである。良くみるとシュラの手には、街に出ていたのであろう買い物袋を携えていた。
「ああ、これか?アフロディーテに頼まれたものだ。」
 街に出るのならついでに、と彼の分も頼まれたらしい。デスマスクの頼みなら断るがなと、幼馴染みの話をするシュラの表情は昔見た時と変わらない。穏やかな表情だ。
 荷物を仕舞いに行こうとするシュラに、カミュは此処の主の行方を尋ねた。部屋にも、庭にもアフロディーテの姿は無く、小宇宙も探ったが見付からないのだと。
「なら地下庭園ではないか?」
「地下庭園?」
 はて、双魚宮にその様な場所があったか。記憶を巡らせてもカミュにはその様な場所があるとの記憶はない。自宮のことは隅々まで知ってはいても、双魚や磨羯宮等他の宮ともなれば難しい話である。
「…その地下庭園でアフロディーテは何を?
「詳しくは聞いていないが……毒の調配合をしていると言っていたかな。」
「毒薔薇の?」
「ああ、少しずつ毒の成分配列を変えているらしい。」
 これまで隣の好で色々と交友があったが、アフロディーテがそんなことをしていたとは思いもよらなかった。
 聖戦も終わり調停が結ばれ、平和になったとはいえ、小さな火種は幾つかある。滅多なことで黄金聖闘士が出撃することはないが、それでもいつ何時聖域が脅かされるとは限らない。
 聖域を、地上を、女神を護る為なら彼はその努力を惜しまない。無論、その心は自分もシュラも……黄金聖闘士みな同じである。
「恐らく今日は出てこないかもしれんな。」
「そうか…。」
「何か急用か?」
「いや、明日でも確認出来ることだ。調合という繊細な作業の邪魔をしては悪い。」
 大人しく自宮へ戻る。そう言いかけて、カミュは一瞬動きを停止させた。
「シュラが帰ってきたと思って出てみれば、カミュも来ていたのか。」
 声を掛けてくれれば良かったのに、と微笑みながら現れたのは双魚宮の主。シュラの小宇宙を感じて地下から上がって来た様だ
「…アフロディーテ、いや貴方達は何故小宇宙を消して背後から現れる。」
 今度こそ驚いたと心の中で呟くカミュは、目の前のアフロディーテを少し恨めしそうに見つめた。
 意味が分からずキョトンとしたままのアフロディーテに、シュラは苦笑いを浮かべるばかりだった。



聖闘士星矢戦記の双魚宮見てるとぐるーっと迂回路っぽくなってて水が下に落ちてて、何かこの下ありそうだなぁ……というのが地上庭園の妄想になります←

タイトルの「ウルフズベイン」はトリカブトの別名です。
ギリシャ神話でケルベロスの涎から出来たのがトリカブト……って何処かで聞いた記憶が…←

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