アンパッサン

 もう一回して欲しい。可愛い猫…じゃない、獅子のおねだりに答えて、アフロディーテはアイオリアの頬にキスを落とす。アフロディーテの肉厚で柔らかい唇の感触に、アイオリアは何処か満足そうに微笑んだ。
「…よし、では行ってくる。」
「吉報しか受け付けないぞ。」
「分かっているさ。俺は負けない。アテナの為にも、そして…アフロディーテお前の為にも。」



「…なにあれ?新婚さんごっこ?」
「俺は主に仕える騎士の様に見えるが?」
「この場合は勝利を願ったアフロディーテの加護のキスでは?」
「それならば戦女神であるアテナから受けるべきだろう。」
「お前そういうけどな。実際にアイオリアがアテナからご加護のキス貰ったらどうすんだよ?」
「斬る。」
「デスヨネー。」
「うむ。想定通りの回答だ。」
「この忠義馬鹿がよ。」
「…殺るかデスマスク?」
「此処で?こんなにキレーな薔薇が咲き誇る双魚宮の庭園で?冗談は止せよ。別の意味で死ぬわ。」
「確かに…烈火の如くアフロディーテを怒らせる様なことをすれば……デスマスクの言う通りだ止めたほうが良い。」
「…うぬぬ…。」
「何コソコソと話してるんだね君達は?」
 双魚宮の庭園入り口から戻ってきたアフロディーテは、茶を飲みに来たデスマスク・シュラと、二人が序でにと連れてきたカミュをみやる。なんでもないと素知らぬ顔をするデスマスクだが、演技が下手なシュラとカミュは露骨なほど目を反らし狼狽えていた。
 大方先程のアイオリアとのやり取りについてだろう。今更キスの一つや二つ。あんなもの挨拶みたいなものだ。態々騒ぐ様なことでもないだろうに。
残念ながらアフロディーテが思っていることと、三人が思っていることは違ったのだが。
 そしてアフロディーテはそのまま手入れの途中だった薔薇の一角へと入っていった。
「怒ったのだろうか…。」
「いや、このぐらいで腹を立てるやつではない。が、デスマスクのにやけた顔と不遜な態度には怒ったかもな。」
「なんで俺だけ!?」
 アフロディーテが入っていった彼処は魔宮薔薇の群生地だ。耐性が無い三人は入れない。無理に入る必要もないが。
「ところでアイオリアの任務とは?」
「アテナを良しと思わない反乱軍の粛清…だっけか?」
 カミュの問いにデスマスクが答えた。デスマスクにも同じ反乱軍の偵察任務を受けて出ていたからだ。
 冥王ハーデスとの聖戦が幕を下ろしてからずいぶんと経つが、やはりこう言った反乱分子の火種はなかなか消えない。互いの主義主張……そして、正義が異なる故に。
「アイオリアのことだ、心配はいらないだろう。」
「でもあの魚ちゃんは仔猫ちゃんが心配、と……危ねぇッ!?」
 赤い薔薇が一輪デスマスクの頬を掠めていった。皮膚が切れたらしく彼の頬には一筋の紅い線が走る。
「自業自得だ。」
「右に同じく。」
「なんだよてめえらだけ良い子ちゃん面しやがって!…痛ってぇ…あ、やば、手痺れてきたかも…。」
「自業自得だ。」
「二回も言うなクソ山羊!!あっヤバい、これはマジでヤバいやつだ…。」



リアが漸く私の中で獅子らしくなって来た気がします←
それにしても周りが賑やかですね(笑)←

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