明朗梅擬 昔、良くカミュと一緒に遊びに来ていた双魚宮。遊びに行くとアフロディーテがお菓子をくれたっけ。たくさんの薔薇の花が咲いた庭園で、あの頃は良く分からなかった紅茶を飲んで今日あったなんてことない、他愛ない話をして……。 それから。 何時から自分は、双魚宮に…アフロディーテに会いに行かなくなった? *** 久し振りに…本当に久し振りに、ミロは双魚宮の薔薇の庭園に足を踏み入れた。特別用事があった訳ではない。それでもアフロディーテは嫌な顔一つせずミロを庭園内に入れてくれた。 …何にも変わらない。子どもの頃の時と同じ、良く手入れされた庭園。甘い薔薇の香り。昼下がりの蒼穹。スコーンとかクッキーとかお菓子の良い匂い。紅茶の優しい色。 「付いてるよ。」 ここと、アフロディーテは自分の口の端で例えて、ジャムが付いていると指で指し示す。 「え?…あ、本当だ。」 口から拭って、指先に付いたリンゴジャムを舐めとる。このジャムも、焼きたてのスコーンも、昔と全然変わっていない。ジャムをたっぷり塗ってスコーンを美味しそうに頬張るミロを、アフロディーテは優雅にティーカップを傾けながら見ていた。 ふと、ミロは食べる手を止める。 「…覚えててくれてたんだな。」 今食べているお菓子も、飲みやすく少し甘めに淹れたミルクティーも、子どもの頃に美味しいとアフロディーテに伝えたものと一緒だ。 これを律儀と言って良いのか微妙だが、昔から面倒見が良かったアフロディーテだから覚えているのは当然なのかも知れない。 「これも美味しいって言っていたね。」 ガラス細工が見事な器には薔薇の花びらの砂糖漬け。 「確か甘くて美味しいって言って、他の皆の分まで食べたんだっけ。」 「うっ…要らん事まで覚えているんだなアフロディーテ…。」 「勿論。その後これを楽しみにしていたシャカに魑魅魍魎をけしかけられて泣いてたのもね。」 「わ、忘れてくれ!そんなガキの頃のことっ!」 それは無理な話だと、クスクス笑いながらアフロディーテはやんわりと拒否をする。 昔の恥ずかしい話までされたのは計算外だが、今日双魚宮に来て良かったと思う。こうして、アフロディーテとなんてことない昼下がりを過ごすことが、幼い時より、何よりも幸福な時であったとミロは思い出したから。 お誕生日おめでとうミロりん!皆でわいわいも良いけどたまにはしっとりとほのぼのしたのも良いかなぁ…と。話的には誕生日関係無いけど← |